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スギHD取締役副社長の杉浦伸哉さん<その1>
進化から真価へドラッグストアストーリー⑦

“進化”から”真価”へドラッグストアストーリー
素晴らしき経営者との出会い⑦
スギHD取締役副社長の杉浦伸哉さん<その1>


健康の維持から終末期までトータルに地域住民をサポートし
がん患者のアピアランスケア・ニーズにも応える


「乳がんの患者様へ『医療用ウイッグ』をプレゼント」と記された1通のニュースリリースが配信された。リリースは乳がんの早期発見、早期診断、早期治療を啓発する“ピンクリボン運動”の一環として、乳がん患者のQOLの向上へ、今年も100名にウイッグプレゼントのキャンペーン告知だった。発信元は、1565店舗、年商6676億円(2023年2月期)、ドラッグストア売上げランキング6のスギHD(ホールディングス)。同社は、2013年からウイッグのプレゼントを始め、これまで1100名の患者に贈呈してきたが、さらに注目すべきは、がんケアコーナーを併設する店舗を開設。アピアランスケア(外見の変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するケア)に対応していることだ。全国に約20000店を超す店舗が存在するドラッグストア業界では、知る限りでは“唯一”といえるだろう。むろん今日の隆盛には、創業者夫妻をはじめ多くの人財が長い間につちかってきた、「相談客の悩み解消のために時間を惜しまずに接客してきたこと」が根底にあると思う。国民のヘルスケア・ニーズへの対応、高齢者人口の増大に伴う在宅医療・介護、そして来店するがん患者のケア活動にも取り組むなど、健康の維持から終末期までトータルに地域住民をサポートするスギグループ。3年後(2026年)の創業50周年に年商1兆円を目指し歩んでいる。(流通ジャーナリスト・山本武道)


創業者夫妻が実践した”接客“と人財の養成が今も受け継がれている


がんケアコーナー開設の経緯を語るスギHD取締役副社長の杉浦伸哉さん

スギHDの前身は、1976年12月、杉浦広一さんと昭子さんご夫妻(いずれも岐阜薬科大卒・薬剤師)によって創設された、愛知県西尾市下町に医薬品・健康食品・化粧品・日用品の販売と処方箋調剤に取り組む売り場面積50㎡のスギ薬局だ。夫妻は、来店客がたった一人であっても時間をかけて接客に力を入れる日々を続けてきたという。

そうした積み重ねの継続が、「またスギ薬局に行こう」となり、1565店舗、年商6676億円(2023年2月期)、ドラッグストア売上げNO.6にランクされた創業47年後の今も、創業者夫妻が実践された来店客への対応は、スギHD代表取締役社長の杉浦克典さん(45歳)と取締役副社長の杉浦伸哉さん(44歳)及び役員、そして同社に働くすベてのスタッフに受け継がれてきた。

同社のホームページに掲載されている経営理念には、こう記されている。

「創業1号店は、来店されるお客様一人ひとり相談に耳を傾け、まごころを込めた親切な応対が評判を呼び『親切なかかりつけ薬局』として繁盛店となりました。以降、成長につながる指針となるのが社是である『親切・誠実・信頼』です。

『親切』を重ねることが『誠実』であり、『信頼』を得られるとする社是の精神と利他の心である『まごころ』は、基本的な価値観として経営理念に示され、スギ薬局グループすべての社員に浸透し実践されています。

創業から変わることなく続く『親切』を起点とした社是の精神と経営理念に基づく『まごころ』を込めた行動は、事業・人財の基盤を強固なものとし、お客様の笑顔や喜び・感動を通して、社員の幸せ、地域に愛されるスギ薬局グループの成長へとつながっています」

経営理念は、さらに『人は財産』であること。一人ひとりに向き合った人財育成を目指していることも綴られている。

長年にわたり医薬品小売業を取材して気づいたことは、成功企業にはトップが、“先見の明”を持っていることに加えて、地域住民の健康を願う自社に働く人々を財産(人財)としている共通点があったことだ。スタッフが働きやすい環境の提供も、企業が重視すべきことである。スギHDの今日の隆盛には、創業者ご夫妻が実践された“接客”という2文字と“人財教育”が礎になっていることは確かだろう。


2009年に乳がんクリニックに隣接するスギ薬局安城篠目店を取材


躍進を続けるスギHD成長の秘訣の一つは、接客、人財養成、さらには適材適所、人財の登用に積極的なことだろう。私が注目してきたことは、スギHDには外見の変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するアピアランスケアに対応する店舗が二つあることだ。安城市内の安城篠目店と名古屋市内の伏見店だ。

実はスギ薬局の安城篠目店に、がんケアコーナーが併設されていることを知り取材させていただいたのは、確か2009年のことだった。店内にはウイッグ、下着などを取り揃え、入り口右手には個室があり、化粧品のスタッフが巡回で乳がん患者にメイクをして、笑顔が取り戻せる薬局として注目されていた。

ドラッグストアには、様々な悩みを抱えた地域住民が来店するが、安城篠目店には隣接する乳がんクリニックから発行された処方箋を持参し調剤をしてもらう合間に、スタッフが、がん患者の相談に乗っていたことは、私が運営するがん患者と家族に向けたWEBマガジン『週刊がん もっといい日』に掲載させていただいた。

それから14年後のある日、副社長の杉浦さんが上京された際に「お願いがあるのですが…。取材をさせていただきたい店があります」と依頼して取材させていただいたのが、安城篠目店と伏見店だ。国内には、早くから、がんケアコーナーを併設した店舗を運営してきたのは、私が知る限りではスギ薬局が唯一だと思う。

私自身は安城篠目店の訪問がきっかけとなって、健康ステーションとして躍進するドラッグストア店頭で、「がんに関する情報と関連商品を提供してほしい」と願い取材活動の際に、「ぜひコーナの開設を…」と呼びかけてきた。


スタッフがアピアランスケアを担当した経緯


アピアランスケアのニーズに対応している名古屋市内のスギ薬局伏見店のコーナー(2階)

「がんのケアコーナーは、愛知県がんセンター愛知病院乳腺科(同初代部長)に勤務されていた水谷三浩先生が、『ただ治療するだけでなく、その方の人生を本気で考えたい』と思っておられ現在もそうですが、スギ薬局も、『ただ薬を調剤するだけでなく、何か水谷先生のお手伝いができそうですね』とお話をさせていただいた際に、アピアランスというがん患者さんの外見の部分で、できるのではないかと考えました」

2009年に東海地区初の乳腺疾患専門の有床診療施設クリニック『三河乳がんクリニック』の開設ととともに、隣接地に開局したスギ薬局の安城篠目店(安城市)に、がんケアコーナーを設置したきっかけを話すのは、取締役副社長で事業本部長の杉浦伸哉さん(薬剤師)。

「当時、当社は処方箋調剤に取り組んではいましたが、調剤だけという領域を企業の柱に持ってくることはしておりませんでしたから、当初は試行錯誤の状態で相談日を決め美容部門のスタッフを起用し、アピアランスケアに対応していこうと始めました」(杉浦副社長)

がんケアコーナのあるもう一つの店舗は、名古屋市内の伏見店の2階。がん患者の相談に応じるのは澤田則子さん(ビューティ事業全般の責任者)。5年前にスギ薬局に入社した澤田さんが、患者のアピアランスケアを担当するようになったのは、こんな経緯があった。

「私の前職は資生堂で、もともとメイクが好きでしたから、資生堂が実施しているアピアランスケア(東京の銀座7丁目で実施)に興味を持ち、健常者では無い方々に対して施すメイクということで、人の役に立てることがあるのだと思っていました。スギ薬局に入社後、当社のトータルヘルスケア戦略にビューティが関われる部分はこれだ!と思い現在の顧問(創業者)にご相談をしましたところ、顧問から『今後大変重要な活動になるから、直ぐやりなさい』といっていただきました。それに私の上司である副社長からも賛成いただき、現在予約で実施しております」(澤田さん)


【著者プロフィール】
山本武道(やまもとたけみち)
千葉商科大学経営学部経済学科卒。1969年からジャーナリスト活動をスタート。薬局新聞社の記者として中小の薬局、ドラッグストア分野、自然食品・ヘルスフードを取材。健康産業新聞社取締役を経て、青龍社取締役に就任。その後、フリージャーナリストとして『JAPAN MEDICINE』(じほう社)、『ファーマウイーク』(同)の遊軍記者として参加。2007年、ヘルスビジネスマガジン社取締役社長、がん患者と家族に向けたWEBサイト『週刊がん もっといい日』を開設し、編集長に就任。2007年から中国ドラッグストア経営者対象の『月刊中国葯店』(北京市)に連載中。現在、ヘルスケアワークスデザイン取締役会長、モダン・マーケティング代表。『週刊がん もっといい日』編集長、シード・プランニング顧問。元麻布大学非常勤講師。