ヘルスケア情報サイト「Hoitto! ヘルスケアビジネス」(ヘルスケアワークスデザイン株式会社)

スギHD取締役副社長の杉浦伸哉さん<その3>“進化”から“真価”へドラッグストア ストーリー⑨

“進化”から“真価”へドラッグストア ストーリー
素晴らしき経営者との出会い⑨
スギHD取締役副社長の杉浦伸哉さん<その3>
がんケアコーナーを開設して15年後の今とこれからを語る



DgSの機能としてアピアランスケア・ニーズに対応し
がん患者さんの“笑顔”を取り戻してほしい


1976年12月に創業した50㎡の薬局が、「目の前のたった一人のお客様を大切にする」創業者夫妻の思い入れが、創設48年後の今も受け継がれるスギHD(ホールディングス)が、ドラッグストア業界で初めてがんケアコーナーを開設し、アピアランスケアを始めてから15年が経過した。アピアランスケアに取り組む活動は、まさにがん患者のための“駆け込みドラッグストア”でもある。店内には、医療用ウイッグ、乳がん患者のためのケア用品を取り揃え、専門教育を受けたスタッフが常駐し、様々なアピアランスケアに対応している2店舗のほか、一部の店舗にウイッグを置き相談を受け付け、資料を配布する店舗も含めると300店が普及啓蒙活動を展開している。「相談後に笑顔を取り戻して感謝していただけることで、スタッフも勇気づけられてきました。脱毛によるウイッグ相談や乳がん手術後のケア、下着といったサポートケア用品の販売もさることながら、心のケアも不可欠であり、二人に一人が、がんになる時代にあってドラッグストアの機能の一つとして、これからもアピアランスケア・ニーズに対応し、患者さんの“笑顔”を取り戻してほしい」とスギHD取締役副社長の杉浦伸哉さんは話している。健康の維持〜終末期を支援するスギHDは、トータルヘルスケア戦略の実践によって、地域住民から必要とされ続けるドラッグストアへ、さらに大きく羽ばたこうとしている。(取材・記事=流通ジャーナリスト・山本武道)


■働くスタッフたちも“笑顔”になるケアへの取り組み


「アピアランスケア対応薬局を増やしたい」と語る杉浦伸哉副社長

「先用後利」という言葉がある。スギ薬局では、まずは来店した相談客の悩みを聞き、心から「早く回復してほしい」と願いカウンセリングする。そして必要に応じて商品を提供し、その結果として自店の利益に結びつく。アピアランスケアの場合、専門教育を受けた美容部員が専用のメイクをして、相談客は店を後にする際に、“笑顔”という何にも変え難い素晴らしい財産を店舗のスタッフにもたらしてくれる。

それは、来店客の笑顔を見て現場に働くスタッフも思わず笑顔になることであるーそんな光景が目に浮かぶ。きっとスギ薬局のスタッフたちは、「この仕事に取り組んでよかった」と働き甲斐、生き甲斐の源になっているに違いない。ドラッグストアは物販の場でもあるが、がん患者が笑顔を取り戻し、家族、愛する人たちと共に生きてゆく勇気を与える場でもあると思う。

「競合店が近くにあり、新しい店をオープンするのであれば同じことはできない。かといってどうするかを考えた時に、交流をしていたドクターが乳がんクリニックを開院なさることをお聞きして、ならば私たちにできることといえば処方箋調剤がありますが、そのほかに院長先生のお手伝いができればと思っておりました」(杉浦副社長)

一人の医師との出会い。それが、スギ薬局がアピアランスケアに取り組むきっかけとなり、そのことを耳にして取材をさせていただいたのが15年前のことだった。お邪魔したのが、がん患者対応型薬局(スギ薬局安城篠目店)である。

「初めてのケースでしたから、いろいろと試行錯誤しながら女性のがん患者さんのケアに取り組んできました。今は、がん患者さん専門の化粧法を学んできたスタッフが、相談日を決めて取り組んでいます。化粧は女性を美しくするためのものではありますが、対象者が、がんのサバイバーである女性患者さんの場合、なおさら心のケアも重要になってきます。そして、スタッフみんなが、患者さんに笑顔を取り戻していただきたい一心でケア活動を続ける必要がある。このことを学ばせていただいたのが、実は資生堂さんでした」(杉浦副社長)


■08年からアピアランスケア活動を始めた資生堂に学んだスタッフ


アピアランス(外見)ケアを通じた、がん患者・経験者のQOL向上に向けた取り組みが注目される中、2023年3月に閣議決定された第4期がん対策推進基本計画にも、アピアランスケアの必要性が取り上げられているほど、話題を集めている。いつ頃のことであるか忘れてしまったものの、スギ薬局の美容スタッフが学んだ資生堂でアピアランスケアの実践を取材したことがある。

スギ薬局でアピアランスケアに取り組む二つの店舗(スギ薬局安城篠目店と伏見店)に常駐する専門スタッフは、いずれもその技術を資生堂で学んだ。その資生堂が、アピアランスケ活動をスタートさせたのは2008年。がん治療の副作用に関する外見ケアを手がけ、がんになっても自分らしく生きることのできる社会を目指し、外見の変化に対する悩みを解決するための活動だ。

資生堂では、これまで化粧品とサプリメントについてお聞きすることはあったが、がんに関連した取材は今回が初めてだった。確かプロジェクトのスタッフに話をお聞きする1時間ほど前のことだったと記憶しているが、待合室で笑顔の家族連れとお会いした。むろん会釈を交わす程度だったが、笑顔のご家族に遭遇して、とても清々しかったことを覚えている。

今考えると、この時にお会いした家族連れは、アピアランスケアのためにメイクアップにこられたがん患者とその家族だったのではないかと思う。化粧は女性を美しくさせるためにあるだけではなく、同時に心も美しくさせて笑顔になる。増え続く女性のがん患者にとってアピアランスケアのニーズは、ますます高くなると思った。資生堂を通じアピアランスケアの重要性を知ってから、長い年月が経過した今、杉浦副社長から対応するスタッフが資生堂から、がん患者のための化粧法を学び、店頭での
会話を通じ、がん患者の笑顔を取り戻していることをお聞きして、アピアランスケアに対する取り組みの必要性を改めて認識した。


■ 取り揃えたケア用品で患者のQOL向上に結び付けられれば・・・


アピアランスケアの相談室(スギ薬局安城篠目店)

競合する他のドラッグストアが、これまで取り組んでこなかったことにチャレンジするには相当なエネルギーがいる。しかし、あえてスギ薬局がアピアランスケアを実践するのは、創業者夫妻の「来店客がたった一人であっても時間をかけて接客に力を入れる」思いが、現在もなお受け継がれているからに他ならないだろう。

営利企業である以上、ドラッグストアでは利益を生み出さねばならないが、「決して儲かるものではありませんが、がんサバイバーの方たちのために当店の活動が広がり、笑顔になっていただければ・・・」とアピアランスケ最前線に立つ杉浦副社長は話すが、悩みもそれなりにある。

がんケア用品は、売れる個数も、かなり限られてしまい飛ぶように売れるものではないからだ。したがって量産するものではなく、一つひとつ時間をかけた手作り商品が少なくないという。でも作業現場からは、がん患者のためのケア用品をスギ薬局に提供してくれている。

「なんとかして製造する企業さんと共に、必要とする多くのがんのサバイバーの方たちに、ケア用品を普及していきたいと思っています。必要な方が存在しても、その情報が届いていないようので、情報を発信する必要があると感じています。在宅医療最前線で活躍されている薬剤師さんがサポートされて誕生した商品も利用させて頂いていますし、こうした商品は、決して儲かるものではありませんが、ケア用品を使用していただくことによって患者さんのQOLの向上に結びつくことができれば・・・」(杉浦副社長)


■300店舗が情報発信基地として普及啓蒙活動を展開中


「なぜ、私たちが頻繁に買い物に行くドラッグストアには、がん患者の悩みに対応するコーナーがないのですか?」―がん患者と家族に向けて2006年に始めた『週刊がん もっといい日』を運営してきた中で、がん患者とその家族から聞かれることが多かった。中には、「抗がん剤の副作用で頭髪が抜けてきた」「顔色が良くない」「乳がんの手術を受けたけれども、対応する下着はどこで売っているのでしょうか?」等々である。

近年のドラッグストアは、ヘルスケア・ステーション=健康生活拠点でもあり、こうしたニーズにも対応していかねばならないが、スギ薬局では、アピアランスケア対応店の情報をどう発信しているのだろうか。

「二人に一人が、がんに罹患する時代ですから、がん患者さんはどこにもでもおられる。ドラッグストアも当然、こうしたニーズを受け止めなければなりません。そこで、がんに特化した薬局だけではなく、街中に開局するスギ薬局の中から300拠点を通じ、調剤の待合室の広い店にはウイッグを陳列しパンフレットを置き、デジタルサイネージでも紹介するなど、がん検診率向上などについても普及啓蒙活動をしています。これからは医療機関と連携しながら、地域住民が困ったときに行けば、悩みを解決してくれるドラッグストアとして、がんケアへの取り組みを強化したいですね」と杉浦副社長は話してくれた。


ウイッグと乳がん患者のための下着(スギ薬局安城篠目店)


そこで、がん患者と家族のためのサイト(週刊がん もっといい日)に、「患者会の会場として、広いドラッグストアの店舗の一部をお貸ししていただきたいのですが、紹介していただけませんか」とのメッセージが届いたことを、杉浦副社長にお伝えした。すると、次のようなコメントをいただいた。

「患者会の集まりには、直接関与はしていないのですが、我々としてもご協力させて頂きたいとは思っています。がん患者会の規模にもよりますが、当薬局の郊外店の中にはコミュニティスペースがあります。ただ会の開催のための設備はありませんが、患者会の皆様にお貸しすることはできます。むろん都内にもありますので、もしご希望であれば店長と話し合い前向きに検討します。患者会とのコラボは、むしろ我々としてもありがたいと思います。アピアランスケア活動の普及にもなりますから・・・」


スギ薬局伏見店の2階にあるPRAIVATE ROOMの入り口


■地域から必要とされ続けるためのこれからの方向


地域から必要とされ続けるドラッグストアであるためには、物販力、カウンセリング力、PB商品の開発力に人財力も加わり、来店客の“笑顔の力”になる。健康の維持〜終末期を支援するスギHDでは、健康寿命延伸の武器となる“未病と予防”分野にもチャレンジし、売上高6676億円(2023年2月期決算)、経常利益323億9100万円(同)、勤務するスタッフは薬剤師3700名、医薬品登録販売者9000名、管理栄養士500名、看護師100名、ビューティアドバイザ−1200名、医療事務4000名。1565店舗を運営し、年間3億4000万人が来店するスギHDの杉浦副社長は、今後の方向性については以下のように述べている。

「ディスカウントには走らない、地域にお住まいの高齢者も含めて、生活者が買いやすい店舗のスペースは300坪。それ以上の店舗は作りません。取り扱う商品は、食品に偏らず医薬品、化粧品、雑貨等々もバランスよくしていくことは今まで通りです。

ただ生活様式の変化に伴い、例えばペットを可愛がる人たちが増えてきていますので対応したいですし、地域よって店の顔も違いますので、高齢者の多い地区ではシニアが興味を示してくれる商品をカスタマーズしていくことになるでしょう。

店づくりですが、昨年9月にオープンしたSIGI+ 羽田イノベーションシティ店は、流行の発信基地であり、我々の実験店舗で、いわば体験型薬局です。新しいビジネス創造の拠点として期待しています」


■ がんケアに取り組む活動拠点を増やしたい


新しいビジネスへのチャレンジを始めたスギHDの杉浦副社長は、今後のアピアランスケアの活動については、「私たちは、がんサバイバーの方たちの幸せを願い、アピアランスケアに取り組んできました。ドラッグストアという業態が、世の中になくてはならない存在として、がんケア活動への道を歩んでいきたいと考えており、当薬局で対応できないことがあれば、他の企業と連携してチャレンジしようと思っています。

さらに増え続くがん対策で大切なことは、がんの検診率をアップし予防の重要性の啓蒙活動も含めて、もし、がんになったことで悩みが生じた際にもサポートできるよう、アピアランスケアに取り組む店舗を増やしたい。それもドラッグストアの使命ですから・・・」と語ってくれた。

手術、抗がん剤、放射線療法は医師が関与しなければならないが、ドラッグストアでは最新情報の提供はできるし、がんにかからないように行う一次予防、早期発見・早期治療の二次予防、再発・転移させないための三次予防の相談に、ドラッグストア店頭で関わることはできる。 

スギ薬局が、15年前に始めたアピアランスケアへの取り組みのきっかけは一人のドクターだったが、がん患者のためのアピアランスケアの実践は、化粧品会社から学んだ。アピアランスケアは、まさにドラッグストアが担うべき大切な取り組みだ。

スギ薬局では、今のところスタッフが常駐して対応するのは二つの店舗だが、全国に展開する店舗のうち、300か所が情報発信基地としての取り組みが始まっている。スギ薬局の活動が、やがて全国に広がっていくことを期待したい。


3月10日にオープンし買い物客の行列ができたスギ薬局八千代東店


【著者プロフィール】
山本武道(やまもとたけみち)
千葉商科大学経営学部経済学科卒。1969年からジャーナリスト活動をスタート。薬局新聞社の記者として中小の薬局、ドラッグストア分野、自然食品・ヘルスフードを取材。健康産業新聞社取締役を経て、青龍社取締役に就任。その後、フリージャーナリストとして『JAPAN MEDICINE』(じほう社)、『ファーマウイーク』(同)の遊軍記者として参加。2007年、ヘルスビジネスマガジン社取締役社長、がん患者と家族に向けたWEBサイト『週刊がん もっといい日』を開設し、編集長に就任。2007年から中国ドラッグストア経営者対象の『月刊中国葯店』(北京市)に連載中。現在、ヘルスケアワークスデザイン取締役会長、モダン・マーケティング代表。『週刊がん もっといい日』編集長、シード・プランニング顧問。元麻布大学非常勤講師。