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マルゼン創業者・石橋幸路さん<その3>
“進化”から“真価”へドラッグストア・ストーリー素晴らしき経営者との出会い⑤

“進化”から“真価”へドラッグストア・ストーリー素晴らしき経営者との出会い⑤
マルゼン創業者・石橋幸路さん<その3>


「人は、どんなに立派であっても努力しなければ、
その経験はやがてストップしてしまう」


マルゼン創業者の石橋幸路さんの信奉者は、実に多かった。年商1億円以上の53社(560店舗・総年商520億円)を結集させ、医薬品小売業最大の協業グループの総帥として、地域で猛烈な生存競争を繰り広げていた大型店の旗揚げを支えた石橋さんは、経営者としての実力は誰もが認めるところだが、人としても素晴らしかった。錚々たる会員企業は、ライバルでもあったが、“昨日の敵は今日の友”として交流し、会員企業の発展に尽力した石橋さんは、「人は、どんなに立派であっても努力しなければ、その経験はやがてストップしてしまう。そのためにも絶えず勉強しなければならない」と、ことあるごとに語られていた。ドラッグストア創世記、1970年に出会ってから53年後の今、石橋さんとの交流は、忘れることのできない日々であり、素晴らしい笑顔が“走馬灯”のごとく蘇ってくる。(流通ジャーナリスト・山本武道)


■待ちに待った取材OKの回答をいただいた


笑顔で語る石橋幸路さん(AJD創設20周年記念誌から転載)

ボランタリーグループのAJD本部長、法人のオールジャパンドラッグ株式会社代表取締役社長は9年に及び、本部長を辞してからも引き続きオールジャパンドラッグ株式会社の代表取締役会会長、同代表取締役相談役として組織拡大に尽力してきた石橋さんから、ある日、連絡をいただいた。

「山本くん、待たせたね。AJDのすべての役職から身を引いたので、取材を受けてもいいよ」―待ちに待った石橋さんから、取材OKの回答をいただいた。石橋さんには、上京された際に時間をとっていただくようにしていただいた。

AJDの事務所でお会いするようになってから、AJD設立時の思い出話に耳を傾けると共に本題のテーマを切り出し、「激戦が続く医薬品小売業界にあって、どうしたら薬局・薬店が繁栄できるのでしょうか」とお聞きしたところ、「山本くん、そのことは私自身が知りたいくらいだよ」と話されながらも、「自身の体験も踏まえながら、経営者を始め医薬品小売業に携わる多くの方たちにお伝えしたい」としてロングインタビューにお答えいただいた。

AJDの役員から身を引かれたとはいえ、尼崎に本部のあったマルゼンの経営者として、日々の業務をこなす傍ら、多くのドラッグストア関係者やメーカーの幹部が、ひっきりなしに石橋さんに教えを乞いに訪ねるようになって、通商、“石橋学校”が誕生していた時にお会いすることは至難の業だった。

そこで、どうしたら原稿を執筆していただけるか。いろいろと考えたあげく、私がインタビューし、まとめた原稿を石橋さんがチェックしていただくことになり、薬局・薬店はどうしたら繁盛するのか話された内容は、「今さら紹介されなくてもわかっている」―そんな声が聞こえそうだが、どうしたら時代の流れに沿って成功することができるか誰もが知りたいことだったから、石橋詣をする人たちは増えていった。


■“当たるも八卦、当たらぬも八卦”の未来予測


本連載の冒頭で、『温故知新』について記した。ドラッグストアの創世記を生き抜いてきた創業者たちの物語は、フィクションではなく、すべてノン・フィクションであり、膨大な経費をかけてアメリカ流通業の視察に参加して、自身の目で見て聞いて、日本にドラッグストアという業態を根付かせるための実録は決して古いことではない。むしろ、「新しきビジネス創造に役立つこと大」であることを指摘したい。

「経営者は、多くの仕事を抱え込むことがありますが、大切なことは、その中で何が一番大切で即実行しなければならないかー自分が今、何をしなければならないかを見出し実践することです。考えることも必要ですが、まずは取り組みを始めること。ましてや地盤が沈下しつつある薬局・薬店が、どうしたら繁盛するかなんて誰もわからないが、多くの人たちが私にお聞きになることが増えたことは、これまで私が過去十数年にわたり学び実践してきたことを話し記したことが、当時はわかりにくく不明確だったことが、明確になり現実なものになってきたからかもしれない」

石橋さんから教えていただいたことが、まさに現実なものとなっていることは、講演を聞かれた方、当時マルゼンに勤務されていたスタッフ、“石橋学校”で学ばれた多くの関係者はきっと、そう受け止めているに違いない。

「未来予測は確実なことは誰にもわからない。だから当たるも八卦、当たらぬも八卦なのだ」とも言われながらも、石橋さんが指摘された薬局の未来像は、専門型薬局、一般型薬局、ドラッグストア型薬局、スーパードラッグの4タイプに分けて、それぞれ上昇気流に乗るタイプを見事に言い当てたのだ。

専門型タイプ店では、調剤センターとメディカルセンターは成長し、中でも調剤専門機能を持つ店は急成長を遂げ、一般型薬局(業種店)の場合は、例えば漢方相談を打ち出しているような専門性のある薬局、コンビニエンスドラッグは成長し、専門性のない“金太郎飴”店とディスカウント薬局は鈍化すると指摘する一方、新しい業態としてのドラッグストア、とく健康をメインとした品揃え(ヘルス&ビューティ)の店舗、スーパードラッグストア、ディスカウントドラッグストアは垂直上昇気流に乗り成長していく。その理由は、国民はモノを消費する消費者から、快適な生活に役立つ商品のある店、国民に支持され隆盛を誇っていたアメリカのドラッグストアを手本に挙げられた。


■ 経営者には情報の取集力と分析力が不可欠


今や情報産業は巨大化した。ノートパソコン、タブレット、さらにはスマホを始め、私たちの情報の伝達は、とてつもないスピードで一瞬に日本列島に流れ、入手も簡単になった。では、日々、膨大な量の情報が流れる時代にあって、どのようにしたら正しい情報を入手し提供することができるのだろうか。

「石橋社長が、駅ホームの売店で普通の雑誌から女性誌など10数冊を買われ列車内で信じられないような速さで目を通され、読み終えると私たちに渡してくれました。目的の駅に着くまでに、すべての雑誌に目を通され、可能な限りの情報にいつも目を配られているのだな、博識の一部はこのような時間の使い方と努力によるものと関心した思い出があります」―私の連載を読まれた、かつてマルゼンに勤務されていた方からメッセージをいただいた。

「よき師、良き本、良き友を持ちなさい」―ことあるごとに石橋さんからお聞きしていたことだ。石橋さんの読破力はものすごく、多くの書を読まれ役に立つ情報が盛り込まれた内容、そして目を通された新聞や雑誌のコピーに、会社経営の実践で培われたノウハウを惜しげもなく付加され、多くの経営者や同胞に提供されていた。

情報を入手する、提供する方法は、人それぞれ異なる。私のようなアナログ人間にとって、新聞や雑誌、書から得られる情報、ラジオ、テレビ、あるいは取材を通じ出会った様々な企業の方々、中でも石橋さんからお聞きした話は、とても役に立った。そんな時にVAN(Value Added Network:付加価値情報通信網)が話題になり、私は、このVANに「ヘルス」という3文字を付加し、「ヘルスVAN」の重要性を、所属していた新聞に執筆してきた。

やがて高齢社会になれば、国民の間に病気にならないための予防意識が高まるから、医薬品小売業界は、医薬品を中心とした“病気産業”からヘルスケアを核として“健康産業”時代が到来する。そのためにも多くの情報を異業種企業からも入手して、新しいビジネス創造の武器として活用すべきだと思ったからだ。

石橋さんは、早くからわが国における高齢社会の到来を見定めておられていたし、VANのこと、POS (販売時点情報管理)のことも熟知され、多くの情報収集力と分析力を持つことに加えて、次世代経営者たちに、「かつて優秀な企業は長く存在していたが、これからは一流企業が3年も経つとボロボロになっているケースが増えてくる。このことは、医薬品小売業でも同じことがいえる。だから経営者は耐えず勉強しなければならない」と告げておられた。


■単なるモノを売る時代から情報を売る時代が到来した


石橋さんから、ある日は、こんなことをお聞きした。

「山本くん、小売業、特に医薬品小売業は、単なるモノを売る時代から情報を売る時代になる。これまでは大量生産、大量宣伝をすれば売れていたが、日々来店するお客をいかに自店のファンにしていくかは、商品に情報を付加させていくことが重要になるから、そのためには研鑽が不可欠になる。こうした努力は即利益に結びつくわけではないけれども、来店客には健康を維持する、さらにより健康になるための正しい情報を提供することに力を注ぐべき時代が到来した。今から早急に正しい情報をできるだけ多く収集しなければ、薬局・薬店は将来、国民にとって必要でない業種になる可能性は高い」

石橋さんは、「どんなに忙しくても来店客には笑顔で声をかけること。繁盛している店では、例え品出しをしている最中に、お客が来店した場合にも、必ず『いらっしゃいませ』と声を掛けているスタッフが、仮に自社が展開する店舗のうち、どのくらいの何店舗が実践しているか経営者は知らなければならない。体調がすぐれない来店客へのスタッフの笑顔と声掛けが、どんなに大切か認識したい。店の働くスタッフは、お客を大事にすることだ」と話されていた。

「実は店の規模が拡大しスタッフ数が増えれば増えるほどに実行しなければならないことは多い。そして商品を販売する場合、大量の広告をして商品を超特価で販売すれば売上げはアップするものの利益幅が薄くなること。これから重視しなければならないことは、カウンセリング力を持たなければならない」とも指摘されていた石橋さん。

「人材は、あくまでも材料。人材として立派であっても努力しなければ、その経験はやがてストップしてしまう」―石橋さんは、ことあるごとに働くスタッフの教育の重要性を指摘されていた。

私自身は、文章には企業に働くスタッフのことを「人材」とは書かない。企業の中には、スタッフを材料のようにする企業が存在するが、人は材料ではなく、大切な財産であると思っているから、「人財」と記すことにしている。石橋さんの語録にあった、「人材は、あくまでも材料」が記憶に残り、人は材料ではなく財産であることを意識するようになったと思っている。石橋さんの語録には、企業発展のノウハウが凝縮されていることを気付かされる。


【著者プロフィール】
山本武道(やまもとたけみち)
千葉商科大学経営学部経済学科卒。1969年からジャーナリスト活動をスタート。薬局新聞社の記者として中小の薬局、ドラッグストア分野、自然食品・ヘルスフードを取材。健康産業新聞社取締役を経て、青龍社取締役に就任。その後、フリージャーナリストとして『JAPAN MEDICINE』(じほう社)、『ファーマウイーク』(同)の遊軍記者として参加。2007年、ヘルスビジネスマガジン社取締役社長、がん患者と家族に向けたWEBサイト『週刊がん もっといい日』を開設し、編集長に就任。2007年から中国ドラッグストア経営者対象の『月刊中国葯店』(北京市)に連載中。現在、ヘルスケアワークスデザイン取締役会長、モダン・マーケティング代表。『週刊がん もっといい日』編集長、シード・プランニング顧問。元麻布大学非常勤講師。