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クローズアップ企業「太陽化学」①
太陽化学は、なんの会社?
食品産業を技術・素材で支える“ソリューション型企業”が
エビデンス持つ多様な素材でヘルスケアの可能性を広げる



ヘルスケア業界の皆さんは太陽化学株式会社(本社:三重県四日市市)という企業をご存知だろうか。ヘルスケア業界に身を置いている人であれば、グアー豆食物繊維「サンファイバー」ブランドの製造・供給している企業であると認識があるだろうが、実は、太陽化学がカバーする事業領域は多岐にわたる。創業以来、多くの食品メーカーや化粧品メーカーと安全・安心・高品質なモノづくりを行い、知見を積み上げてきた。「緑茶抽出物」「グアー豆食物繊維」「L-テアニン」などのヘルスケア素材を統括するニュートリション事業部、約70年にも及ぶ研究開発のもとで製造される「食品用乳化剤」や「乳化安定剤」などを展開するインターフェイスソリューション事業部、知らず知らずに誰もが口にしている「粉末卵」や「マイクロ波加工品」などを研究開発するナチュラルイングリディエント事業部。太陽化学は、この3つの事業を柱とし、なんと2,000品目以上の素材・製品を展開しているというから驚きだ。今回、太陽化学に取材を依頼し、同社の事業について深掘りすると、一人のジャーナリストとして「ヘルスケア業界とコラボレーションすることで、両者の可能性を広げることができる」と強く感じた。今回、数回にわたる連載記事として太陽化学を取り上げるが、読者の皆さんには、ぜひ、同社を深く知り、自身のビジネスに役立てていただきたく思う。(記事=佐藤健太)


無味無臭の鉄との出会いが
太陽化学を知るきっかけに


吸収型鉄サプリの「サンアクティブFe」

筆者と太陽化学との出会いは、大木ヘルスケアホールディングスが主催する「カテゴリー提案商談会」(2023年開催)だった。この展示会には毎回参加しているが、いつものように会場内を取材していると、こんな声が聞こえた。

「無味無臭の鉄があります!」

これまで数多くの鉄系サプリメントを取材してきたが、鉄には特徴的な臭いや味があるのが当たり前だと思っていたため、その言葉に惹かれるように振り向くと、そこには太陽化学のブースがあった。そこで実際に、液体と錠剤を試飲・試食をさせてもらうと、「本当に無味無臭だ!」と驚いた。

「鉄を強化した乳製品がありますが、当社はそれに配合する鉄を供給しています。乳製品本来の味を壊さないように、同時に吸収率を高めるために研究開発された素材で、この技術を用いて作られたのが、今お試しいただいた『サンアクティブFe』です」

太陽化学の担当者は、そう説明してくれた。今まで出会わなかった製品が、自身に思ってもみない衝撃を与え、その延長上で「後日、取材をさせてください」とお願いし、会場を後にした。「サンアクティブFe」という製品自体もそうだが、それを製造する技術や企業姿勢は、ヘルスケア(予防)推進に大いに寄与すると強い可能性を感じたからだ。

グアー豆食物繊維の「サンファイバー」

筆者の認識では、「太陽化学は、グアー豆食物繊維の『サンファイバー』ブランドを一部のドラッグストアに供給し、根強いリピーターを確保している企業」というものだった。一通り同社を取材した今、当時を思い返すと「極めて勉強不足」の一言に尽きる。

後日、太陽化学を取材させてもらった。同社は、ドラッグストア業界には馴染み深い「緑茶抽出物(カテキン)」「グアー豆食物繊維」「L-テアニン」などのヘルスケア素材を統括するニュートリション事業部と、「食品用乳化剤」や「乳化安定剤」などを展開するインターフェイスソリューション事業部、そして、粉末卵やマイクロ波加工品などを追求するナチュラルイングリディエント事業部と、事業領域が多岐にわたる。

取材を重ねるごとに「太陽化学は、なんの会社?」と聞かれたとしても、一言で表現するのは難しいことが分かった。そして、事業を個別に探っていくと、いずれもプロフェッショナルであり、私たちの生活を支える“なくてはならない技術・プロダクト”が数多いことに驚かされた。


「ヘルスケア推進」という社会課題に
立ち向かうニュートリション事業部


まず初めにヘルスケア業界と最も馴染み深いニュートリション事業部を紹介したい。この事業部は、「サンファイバー」などに活用されている「グアー豆食物繊維」や、多くの機能性表示食品に配合されている「L-テアニン」、茶カテキンを高濃度含有する「緑茶抽出物」などのヘルスケア素材を展開する事業部だ。

直近の動向として、太陽化学は2023年に新たな工場「IDT(Intelligent Design & Technology)工場」を竣工した。IDT工場は、同社が持つ素材を組み合わせ、よりユーザーのニーズに寄り添える最終製品を、エビデンスと安全性を担保しながら、よりスピーディに世に送り出すというコンセプトを持つ工場である。本連載の次回以降で詳細をお伝えしたい。


2023年に竣工した「IDT(Intelligent Design & Technology)工場」


各素材については、こちらも次回以降で詳細を執筆するが、まず本稿では簡単に「グアー豆食物繊維」について記したい。

「グアー豆食物繊維」の原料となるグアー豆

「グアー豆食物繊維」とは、インドやパキスタンなどの乾燥した地域で栽培されているグアー豆から採れるグアーガムを、酵素分解で低粘度化した水溶性食物繊維。これを自社で製品化したのが「サンファイバー」だ。現在「サンファイバー」は一部の大手ドラッグストアに導入されており、「腸活」を訴求しながら一般用整腸薬とのクロスマーチャンダイジングによって、販売状況でシナジーを発生させ、根強いファンを獲得している。

また、「グアー豆食物繊維」は海外からの評価が非常に高く、販売実績も6:4と国内よりも海外が上回る。特にアメリカでの評価が高く、「サンファイバー」を100%リパックした製品がサプリメントショップなどで販売されているほどだ。

アメリカは1994年にダイエタリーサプリメント健康教育法(通称:DSHEA)が施行されて以来、消費者のヘルスケア素材に対する知識が深まった。食物繊維についてもさまざまな種類があり、それぞれの特徴を理解しているユーザーが多く、そうした人たちから「サンファイバー」が選ばれ、ユーザーの裾野を広げているという。

一方、日本では2015年に機能性表示食品制度がスタートした。現在では届出件数が7,000品目を超え、市場自体も5,400億円と急成長を遂げている。太陽化学が展開する「グアー豆食物繊維」も機能性関与成分として、「食後血糖のピーク値を抑える」というヘルスクレームで受理されている。


出典:富士経済「機能性表示食品、特定保健用食品などの国内市場を調査」リリースより


日本は世界に先んじて超高齢社会に突入しており、「医療費・薬剤費の高騰」「国民皆保険制度の持続が困難」との懸念がある。規制緩和によって機能性表示食品制度が誕生したのも、こうした背景があったからだ。事実、2022年度の医療費は46兆円と前年を上回っており、この数字は国家予算の約1/2にも及ぶ。さらに現在よりも高齢化が進んでいき、皆保険制度を財政的に支える側よりも、支えられる側が圧倒的に多くなる社会構造では、国民皆保険制度の持続は困難となるのは当然なのだ。

では、どのようにして皆保険制度を守っていけば良いのだろうか?「高齢化を止めるのは無理がある」「急性疾患はいつ訪れるのか分からない」。確かにその通りだ。そうなるとその答えは「予防すること」、ただ1つである。

特に慢性疾患を予防しながら、一人でも多くのアクティブシニアに繋げていくことは重要だ。慢性疾患の中でも、糖尿病または糖尿病の疑いがある人は2,000万人を超え、年々増加傾向にあるが、予防することが可能な疾患なのだ。この切り口で「グアー豆食物繊維」の「食後血糖のピーク値を抑える」というヘルスクレームは、日本のヘルスケア推進に大いに寄与すると位置付けられる。

太陽化学は「グアー豆食物繊維」だけではなく、社会課題に対応できるヘルスケア素材を有している。「L-テアニン」はストレスや睡眠の質、「茶カテキン」は肥満気味の人の内臓脂肪を低下など、いずれも今日的なヘルスケアニーズに応えた素材である。


医療・介護現場でも活躍する「サンファイバー」
患者・利用者のQOL向上に大きく寄与


実はグアー豆食物繊維「サンファイバー」は医療・介護領域でも活用されている。

これまで筆者は、施設・居宅を問わず数多くの在宅医療を取材してきたが、大半の現場では患者が慢性的な便秘・下痢・臭いに深く悩み、そして家族や介護従事者もその対応に追われており、現場取材の度に、高齢者の排泄問題は根深い問題となっていることに気付かされる。下剤や下痢止めを使用するドクターや施設は数多いが、そうなると患者自身が排泄のコントロールが難しくなり、オムツ生活を余儀なくされ、患者のプライドやQOLを著しく低下させてしまうのだ。

以前取材で、在宅医療の現場に詳しい帝京平成大学・薬学部の小原道子教授に、排泄ケアについて聞くと「在宅医療では、寝たきりや認知症の方などの排泄ケアを介護従事者だけではなく、ご家族が行うことも。介護が必要な方に向けての経口便秘薬の場合は、服用後いつ排便するか判らない、何度もおむつの交換が必要になるなどの相談も多く、ご家族もご本人も大変です。ご本人も、思いがけない時に排便したときなど心の負担は大きいと思います」と語っていた。

太陽化学は、こうした状況に対し「『サンファイバー』ができることは何か?」と考え、都内・特別養護老人ホームにて「サンファイバー」の供給を実施した。もちろん水分、運動、常食、規則的な生活に取り組んだ上で、入居者に「サンファイバー」を1日15g摂取してもらった。そうすると、開始前は「100人中66人に下剤を使用」「下剤使用者の84.7%が軟便・水様便」という状況だったのが、7年後には「下剤使用者数が100人中8人」と劇的に減り、さらに「下剤使用者の95%が普通便」といった結果につながった(下記の表を参照)。さらに夜間排便はゼロ、自然な排泄時間帯に出るようになり、下剤廃止による利用者の健康状態異常は発生しなかったという。



介護現場での「サンファイバー」の活用は、利用者には「食物繊維の摂取」「QOLの向上」、そして施設側にも「オムツ交換・排便ケアに関わる労力軽減」「離職軽減・人材確保」「オムツ代、寝具リネン交換費、薬剤の削減」など、ベネフィットは大きいことが明らかになった。

また、「サンファイバー」は介護に加えて、医療現場での使用事例も多い。「経腸栄養剤使用時の食物繊維の摂取」「人工ストーマへの使用」「心臓血管外科・胃切除・腸切除後の術後食」など幅広い事例があり、病院介護市場向け食物繊維商品出荷量ではトップシェアを誇っている。


70年以上も乳化剤の研究開発に取り組む
インターフェイスソリューション事業部


ここからは太陽化学の歴史と、他の事業領域について解説したい。

同社は、太陽化学工業有限会社として1946年に創立し、株式会社に組織変更した1948年を設立年とする。先にも述べたように、3つの事業を中核とするが、最初に取り組んだのが、現在のインターフェイスソリューション事業部である。

かつて三重県四日市市は菜種油の産地として知られ、これを原料とした石鹸の生産が盛んだった。太陽化学は、その石鹸に活用する界面活性剤を製造、この技術を応用し、1952年に日本で初めて食品用乳化剤の開発に成功した。それから研究開発・製造技術のブラッシュアップを重ね、70年以上経過した今もなお、数多くの食品メーカーに各社が持つ課題を解決する“なくてはならない技術”として活用され続けている。

食品用乳化剤は、主にコーヒー飲料やチョコレート、アイスクリームなど、乳成分が使われている製品に使われる。水分と油分が時間と共に分離し、風味が落ち、乳脂肪が固まって見栄えも悪くなってしまうが、そこに乳化剤を配合することで、本来混ざり合わない水分と油分を結びつけ、長期安定させることができる。また、界面活性剤として、クレンジングオイルやメイクアップ素材、洗顔料など多岐にわたる化粧品・スキンケア用品にも幅広く活用されている。

それにとどまらずインターフェイスソリューション事業部は、精油類や油溶性ビタミン類を水中に透明溶解するスーパーエマルジョン技術、油脂の結晶・粘性を制御する油脂改質技術、乳化剤に多糖体・蛋白質を複合させたコロイド制御技術などを開発し、界面制御技術が持つ可能性をさらに追求し、取引先の課題解決に向けて進化し続ける。


時代に合った多様な食生活ニーズに応える
ナチュラルイングリディエント事業部


創業以来、乳化剤を研究開発・製造に取り組んできた同社だが、日本が高度経済成長期に突入し、食の産業化が進みつつある1958年、太陽フード株式会社(1981年に太陽化学工業と合併し、現在の太陽化学が誕生する)を設立し、鶏卵加工品を日本で初めて企業化した。

その当時、栄養価が高いプリンが流行したが、冷蔵管理の未発達で日持ちさせることが難しかった。プリンに対するニーズが高まる中、同社は卵に加工を施し、常温で日本中に流通させることに成功し、プリンの普及に一役買った。多くの家庭からこの技術は歓迎されたという。まさにイノベーターである。この仕事への姿勢を脈々と受け継いでいるのが、現在のナチュラルイングリディエント事業部なのだ。

マイクロ波を応用したマイクロ波加工品

ナチュラルイングリディエント事業部は、卵素材や加工食品、増粘安定剤、品質改良剤などによって、食生活を幅広くフォローする。取材をしていて特に印象深かったのは、電子レンジでも使われているマイクロ波を応用したマイクロ波加工品だ。普段、無意識に口にしている即席麺や即席スープで広く使用されているスクランブルエッグやカキタマフレーク、ふりかけ、お茶漬けの原料などが該当する。最終製品のパッケージには社名は掲載されないが、太陽化学は黒子に徹しながらも、誰もが「食べたことがある!」という原料を日々供給している。もちろん、非常に高い安全性を担保した上でだ。

例えば、コンビニで販売されているスープ。温める前はゲル状だが、工場から店舗、店舗からユーザーの自宅まで、こぼさず安全に運べるように工夫され、そして食べる前に温めるとゲルが溶け、サラッと美味しいスープになる。例えば、ツナマヨおにぎり。ツナマヨの水分が白米に吸われずに、マヨネーズのジューシーな状態を持続させ、顧客満足度を高める。売り手にも買い手にもメリットが大きい。これらは、太陽化学の増粘安定剤の活用によるものだというから驚きだ。

「意識しなければ分からない」「なかなか目には見えてこない」。太陽化学はその部分に培ってきた技術を投入する。しかも今に始まった事ではない、70年前からユーザーや取引先の課題解決を請け負うことで日本の食生活を支えてきた企業なのだ。太陽化学が長きにわたって社会から信頼され、愛されてきた理由の1つであると筆者は考えている。

これまで述べた通り、ニュートリション事業部は、ユーザーが抱える健康に対する課題を解決することで成長し、さらに今後、日本という国家を挙げての課題である超高齢社会や医療費の肥大化などにコミットしていくべき“ソリューション型”の事業部である。そして、インターフェイスソリューション事業部とナチュラルイングリディエント事業部は取引先やユーザーの課題を解決することで信頼を得てきた事業部だ。

本稿のテーマは「太陽化学は、なんの会社?」だ。取材を行い、一つひとつを整理していくと、この3つの“ソリューション型”の事業部を取りまとめる太陽化学という企業は、「食品産業を技術・素材で支えるソリューション型企業だ」という解に辿り着いた。そして、健康意識が高まる昨今、同社にはエビデンス持つ多様な素材でヘルスケアの可能性を広げる企業として期待が寄せられているのだ。(次回に続く)