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進化から真価へ歩み始めたドラッグストア JACDS設立25年の軌跡を追う

日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)が、1999年6月に誕生してからまもなく25年が経つ。医薬品を中心とした病気産業から生活者の健康と美、そして快適生活をサポートするヘルスケア産業への道を歩み、設立当初に2兆6600億円だった市場は、今や3.5倍の9兆2000億円に達している。2025年の10兆円産業化が当確になり、2030年の13兆円に向けて始動したドラッグストア業界。激しい競合の波が押し寄せる中、国民の間に高まる“未病と予防”ニーズに応えるヘルスケアストアへの扉が開かれ、進化から真価への道を歩み始めた。(流通ジャーナリスト・山本武道)

1950年代から1960年代にかけ、安売り商法を武器としたチェーンストアが各地に相次いで出店し、3割引、4割引といった手法で医薬品小売業の顧客を根こそぎ奪っていた。

そんな状況に危機感を抱いた経営者たちは、猛烈な闘いを繰り広げていた同業者にボランタリーチェーン(VC)形態による連携を呼びかけ、1970年に二つの協業グループが誕生した。一つはオールジャパンドラッグチェーン(AJD)、もう一つが日本ドラッグチェーン会(NID)である。

AJDは創設54年で会員総年商1兆8000億円に達するグループとなったが、その強みは、創設から今日まで共同販売機構の姿勢を貫いていることにある。会員企業による販売の成功事例を惜しげもなく仲間に提供し、高収益のAJDオリジナル商品も共同で開発した。年2回の商品フェアは、その商品のお披露目と同時に、販売の成功事例の発表の場となっている。

AJDは会員の千葉薬品と共同開発で次世代モデル店舗も開発した。同モデル店で、駐車場と店舗スペースが各々1650㎡の広大なスペースに、健康、美、予防、快適生活用品、日用品などに加えてカー用品も取り揃えるなど、ホームセンターともスーパーマーケットとも異なる商品構成、販促、人財活用等のノウハウを積み上げていった。会員企業はそれを参考に会多様な業態を次々と作り、その新業態を頻繁に視察し合い、日本のドラッグストアを大きく前進させていった。

やがて全国にドラッグストアを志向する企業が増加し、業態に対する支持も徐々に高まっていった。しかし、経済産業省が実施していた商業統計調査の項目にドラッグストアはなく、当業態は国から産業と認識されていなかった。そこでドラッグストアの産業化の窓口として、業界団体の発足が必要になっていく。

1999年6月16日は、我が国初のドラッグストアの業界団体が発足した記念すべき日である。25周年を迎える今日、業界の市場規模は9兆2022億円(2023年度調査)となり、協会の調査開始から3.5倍の成長を遂げた。

JACDSがどのような経緯を辿ったのか。ここで一人の人物を紹介したい。この人物なしに今日のドラッグストアの躍進は語れない。JACDS初代事務総長の宗像守さん、その人である。

宗像さんは、ディスカウントストアのオークマに勤務しホームセンター業界を出発点にドラッッグストア業界の発展に尽くしてきたが、2016年6月、多くの人たちに惜しまれながら逝去された。

彼の生前、どうしたらドラッグストア業界が成長していくかと問うと、「生活者から愛され信頼されることだ」と語っていた。その言葉を胸に秘め、彼は寝る時間も惜しまずに、ひたすら業界の健全な成長を願い、機会あるごとに各地の経営者たちと会い、結束の必要性を呼びかけてきた。

それに応えた1人が、ドラッグストアのバイゴーの社長だった明神正雄さんだった。協会設立の少し前の1995年、宗像さんと明神さんは、全国のドラッグストア企業とメーカ―、卸などが一堂に介し学ぶDRUGSTORE MERCHANDISING STUDY(DMS)を結成した。結成の趣旨は、「もはや国民皆保険制度で対応できる時代ではなくなった。早急に健康問題を解決するドラッグストアの産業化が必要だ」というものであった。

そこに集ったメンバーらと共にJACDSを創設した。初代会長には当時、売上規模でドラッグストアNO.1企業だったマツモトキヨシ副社長の松本南海雄さん(現マツキヨココカラ&カンパニー取締役会長)に白羽の矢が放たれ、紆余曲折の末に就任している。

松本南海雄さんの会長就任にあたり、宗像さんらが作り上げたのが、協会の5原則である。この5原則にのっとり協会は業界の発展に努め、現在もドラッグストア経営者たちの“バイブル”となっている。

以後JACDSは、業界の成長を阻む様々な規制改革に取り組んできた。その立役者はやはり宗像事務総長である。

医薬品登録者販売制度、医薬品3分類、インターネット販売ルール、検体測定、機能性表示食品の推進等々、数々の実績を残されている。特に日本再生戦略と健康寿命延伸産業育成政策を掲げた当時の安倍晋三政権に賛同し、彼と意見を交わしてドラッグストアの将来像を示してきた。

宗像さんが逝去されたのは、2018年6月26日午前7時25分。享年62であった。あれから6年が経過し、創設25周年を目前にしたJACDSは、これから、どのような進路を取るのだろうか。
  

JACDSの歩んだ道のりは、決してスムーズではなかったが、良きリーダーに出会った創成期の創業者たちは、生活者のための店づくりに奔走し、出店を進める一方で、志を共にする同士と融合を図りながら、規模を拡大していった。

JACDSが調査した業界の市場規模は、初年度(2001年度)が2兆6628億円で、2001年〜2003年度は2桁成長を続ける。(2001年度:前年比113.3%増→2002年度:155.8%増→2003年度:111.1%増)、2004年から2015年、またコロナ禍の2020年にも伸びが鈍化したが、2000年から一度もマイナスになることなく成長し続け、24年後の2023年度に9兆円を超えている。

M&Aを経て業界順も目まぐるしく変動しているが、ドラッグストア市場における売上げランキング上位10社の実績は表の通り(数字は2021年度と2023年度の推移と伸び率)である。

◇1位:ウエルシア…1兆0259億円→1兆2173億円(18.7%増)
◇2位:ツルハ…9157億円→1兆0330億円見込み(12.8%増) 
◇3位:マツキヨココカラ…7299億円→1兆0300億円見込み(41.1%増)
◇4位:コスモス薬品…7554億円→9160億円見込み(21.3%増)
◇5位:サンドラッグ…6487億円→7470億円見込み(15.2%増)
◇6位:スギ…6254億円→7445億円(19.0%増)
◇7位:クリエイトSD…3507億円→4041億円見込み(15.2%増)
◇8位:くすりのアオキ…3280億円→4350億円見込み(32.6%増)
◇9位:カワチ薬品…2795億円→2865億円見込み(2.5%増)
◇10位:薬王堂…1203億円→1422億円(18.2%増)

上位10社の合計売上は、2021年度:5兆7795億円→2022年度:6兆4014億円→2023年度:6兆9556億円で、それぞれ市場の67.7%、73.5%、75.6%を占有している。

2000年の総店舗数は1万1787店だったが、2023年度には1万1254店増の2万3041店(195.5%増)となり、こちらも右肩上がりで推移している。店舗数の増加は国民から必要とされてきた証。健康になるための商品があり、必要に応じてスタッフが、より健康になるための情報を添えてカウンセリングしてくれる。そして処方箋調剤もしてくれる…そんなドラッグストアに生活者の支持は高まり続けている。

25年間で3.5倍の規模に達した業界だが、JACDSが目標に掲げる2025年に10兆円産業化は実現できるのか。2021年−2023年度の年間成長率は平均7.7%であり、10兆円は年間5%の成長率でほぼ実現する。

◇2024年度:9兆2022億円×1.05%=9兆6623億円
◇2025年度:9兆6623億円×1.05%=10兆1454億円

実現には、市場の75%を占める上位10社の業績が大きく関与するが、10社以外のドラッグストアの奮闘も期待したい。

10兆円産業化の前提は、高齢者人口の増大に伴い高まっている国民の健康寿命延伸ニーズにいかに答えていくかである。総人口に占める65歳以上人口は29%を超え過去最多の3623万人、75歳以上の高齢者は7初めて2000万人に達した。

国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、65歳以上の高齢者人口は1950年以降、一貫して上昇を続けており、特に第二次ベビーブームで生まれた世代が65歳以上になる2040年には35%になるとされる。我が国の医療費は43兆円を超えてなお高騰しているが、その大半が高齢者のケア、特に生活習慣病に端を発する疾病の治療に充てられている。

今国民に求められるのは、自らの病を自分で防ぐ自己予防(SELF PRIVENTION)の意識であり、これらの課題に対する相談窓口として、健康ステーション機能を持ったドラッグストアの台頭が期待されている。

ドラッグストア業界のここまでの成長は、健康寿命延伸時代の到来に伴い、“未病と予防”をキーワードとして生活者の美と健康ニーズに対応し、豊かで健やかな生活を支えてきたからだと理解している。これからしばらく人口の減少が続く一方、高齢者比率は高まる。だからこそ、健康寿命延伸に向けた予防分野(ヘルスケア)に対応したサービスや商品、医療機関らとの多職種連携が不可欠になってきている。

JACDSは10兆円産業化を実現した後、2030年までに13兆円に到達するという絵を描く。この13兆円市場への成長率を、先の10兆円の推測と同様に成長率を5%として弾き出してみよう。

◇2026年度:10兆1454億円×1.05=10兆6527億円
◇2027年度:10兆6527億円×1.05=11兆1853億円
◇2028年度:11兆1853億円×1.05=11兆7446億円
◇2029年度:11兆7446億円×1.05=12兆3318億円
◇2030年度:12兆3318億円×1.05=12兆9484億円

最終年度に600億円ほど不足することになるが、成長率を6%台にすれば到達が可能になる。あくまでも推測数値だが、市場形成への道は、これからもヘルスケア最前線の一翼を担い健康生活拠点として、生活者の間に高まる健康寿命延伸の武器としての“未病と予防”ニーズに対応するための店づくりを強化することで間違いない。

JACDSの池野隆光会長(ウエルシアホールディング代表取締役会長兼社長)は業界に対し「ドラッグストアは、美と健康、健やかな生活を支える身近な存在だが、これからは生活者にとって相談の窓口、解決の入口となる“健康プラットホーム”になるべきだ」と呼びかけている。

池野会長が言う健康プラットホームをJACDSは、健康生活拠点(健活ステーション構想)という言葉で表現している。「ドラッグストア業界が自ら対応できる役割と機能の強化を図りつつ、解決できないことは地域で解決できる専門家や行政、団体、機関と連携する」ことによって、生活者の悩みや要望の解決に必要な情報提供を行う窓口機能を発揮することを目指すものである。

健活ステーション構想では、2030年を最終年度に次の項目の達成を掲げている。

・店舗数3万5,000店、従事する薬剤師4万人、医薬品登録販売者18万人
・受診勧奨GL(ガイドライン)対応スタッフ20万人
・食と健康アドバイザー10万人
・「食と健康売場展開店舗数」ならびに「ヘルスチェックサービス対応店舗数」を各々1万8000店
・「プラ容器回収対応店舗」を3万店。

先の創設25周年記念式典の記者会見で、池野会長は次のように述べている。

「今日のドラッグストアの発展は、人口動態や社会環境が変化する中で地域に根ざした商品構成で業態を変化し、深化してきた証である。直近のコロナ禍も変化を怠らず、従来とは異なるマーケットの創造に取り組んできた。ただこの発展を持続させるか否かは今後の(協会の)姿勢にかかっている」

ドラッグストア業界は、ターニング・ポイントに差し掛かっている。それはドラッグストア業界が寡占化状態に陥っていることだ。おりしも記念式典のすぐ後、業界No.1のウエルシアHDとNo.2のツルハHDが、2027年に統合し3兆円企業を目指すとの発表があった。

3年の猶予の中で統合スキームがどう固まるのかは不明瞭だが、ウエルシア創業者の鈴木孝之さん、ツルハ創業者の鶴羽肇さんの共通点は「お客が、また来たくなる店を作りたい」であり、生活者の健康を願う気持ちであった。その両社が、“ヘルス&ウエルネス”を理念に掲げるイオンと共同で、「ドラッグストアは生活者のためある」という理念を遂行しようとしている。

これまでのドラッグストアは、ヘルスケア関連用品を取り揃え調剤機能もあるワンストップショッピング機能が生活者から信頼され愛されてきた。これからも、「健康になるための様々な商品があって、スタッフの接客も良かった。また、あの店にゆこう」と言ってもらえる店づくりが、規模の大小に関わらず必要である。

店内にあっては、健康と美に食を加えたヘルスケア用品の物販、処方箋調剤に加えて、在宅医療・介護における患者宅への訪問活動、無菌調剤室を導入し高カロリー輸液の調整とデリバリー、疼痛管理、終末期医療への参画等々、積極的なコミュニティ活動も不可欠になるだろう。

時代は進化から真価へ、生活者の間に高まる“未病と予防”ニーズに対応するドラッグストアは、いわば健康生活の拠点、国民の健康を支えるヘルスケアストアである。その扉は開かれつつある。誰もが笑顔のある健康社会実現への“駆け込みドラッグストア”として、地域住民の健康づくりを支えて欲しい。

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