
カロリーゼロ、糖質ゼロの自然派甘味料として日本の健康市場を牽引してきたサラヤ(更家悠介社長)の「ラカント」シリーズ。発売31年を迎えた同ブランドが今、機能性を切り口に新たな市場の扉を開こうとしている。今回の「ラカントで紡ぐwell beingの輪」は、ラカントの生みの親である同社の村田雄司氏のインタビューを前後編でお届けする。前編では「ラカント」の根底に流れるSDGsのストーリーを、また後編では、機能性の取得に挑戦する次世代のストーリーをお伝えする。ーー以下は村田氏の発言要旨である。(取材と文=八島 充)

戦後日本の衛生環境の改善を目的に、手を洗うと同時に殺菌・消毒ができる日本初の薬用石けん液を日本で初めて販売したのがサラヤの興りです。ここを出発点に私たちは、食中毒や院内感染の「予防」を目的とした洗浄剤や殺菌剤等を開発してきました。高度成長期には石油系合成洗剤の排水による河川の汚染を受け、それを「予防」する植物由来の「ヤシノミ洗剤」を開発・発売しています。
さらに創業者・更家章太は、「当社ビジネスのキーワードが予防なら、健康を阻害する生活習慣病を予防する商品も必要だ」と、高度経済成長期に増加した糖尿病の予防を目的とした甘味料の開発を指示します。しかも「原料は安全な天然素材、かつカロリーゼロで血糖値を抑えよ」という条件付きで、私を含む当時の開発スタッフは頭を抱えました。
そのような折、日本の産官学プロジェクトが、天然甘味成分でカロリーゼロの「エリスリトール」の量産化に、世界で初めて成功したというニュースが飛び込みます。しかし、当時の食品市場にカロリーゼロのニーズは乏しく、画期的な発明品であるはずのエリスリトールが、工場に山積みされているというのです。それを聞いた私は即座にエリスリトールを取り寄せました。
エリスリトールの甘味度は砂糖の7割程度で、砂糖と同じ甘さにするには何かを足す必要がありました。でも、ステビアや甘草など既存の甘味料は美味しくないし面白味がない。あれこれ探し求める中で、「ラカント」の原料となる「羅漢果」の研究論文に辿り着き、執筆した徳島文理大学の教授を訪ねました。

教授はすでに羅漢果の研究をやめており、「興味があるなら引き継いでみなさい」と私に託されました。論文は成分の分析で止まっており、私はまず羅漢果の甘味特性の研究から始めました。すると、分析結果のレーダーチャートに、ステビアや甘草とは比較にならない「おいしさ」が示されたのです。
エリスリトールと同じ天然成分の羅漢果を合体させれば、世の中にない、かつ「おいしい」カロリーゼロ甘味料が作れると確信し、「ラカント」の商品化に向けた研究を本格的に始めました。そうして1995年、羅漢果の抽出エキスとエリスリトールという2つの天然成分で作られたカロリーゼロでおいしい甘味料「ラカント」が誕生しました。

「ラカント」の発売から3年後の1998年、羅漢果の原産地である中国の桂林を当時の会長と社長と訪問し、桂林市との共同プロジェクトに調印しました。

元々、羅漢果は桂林に自生していた固有の植物で、古くから漢方薬の原料として用いられていましたが、成分や用途の研究は進んでいませんでした。そこで、現地の大学と共同で羅漢果の研究に着手し、大量生産のノウハウと、羅漢果エキスの抽出技術の確立を目指します。
一方、当時の桂林には主要な産業がなく、経済的に恵まれた土地ではありませんでした。現地を視察した会長・社長は、「羅漢果を購入するだけでは農民の暮らしが良くならない」「短期的な儲けを追うのではなく、現地産業の活性化を第一に考えよう」と考え、羅漢果の生産に関わる全てのノウハウを開放したのです。


調印式の模様は人民日報にも取り上げられ、大きな話題となりました。やがてプロジェクトは実を結び、羅漢果の大量生産が実現します。現在では桂林市は羅漢果の輸出で発展し、人々の暮らしも豊かになりました。今のSDGsの17目標のいくつかにあてはまる貢献ができたのではないでしょうか。すなわち、「ラカント」の事業は当社のSDGsの一つでもあったのです。
羅漢果は、日当たりがよく農薬や降雨の影響を受けにくい山の斜面で育てられます。また昆虫による受粉がないため、農家の手で1つ1つ受粉するなど膨大な作業が必要です。一連のコストが価格に反映し、発売当初の「ラカント」は砂糖の約10倍の価格になりました。当社の家庭用品でここまで高額な商品を扱った経験はなく、営業にもなかなか結びつきませんでした。

そこで私は医療事業の営業マンに同行し、糖尿病の専門医に商品の特性を説いて回りました。すると、「植物性で安全性が高い」ことが評価され、商品を患者に紹介してくれる先生や、カウンターにチラシを置いてくれる病院が増えていきました。また、糖尿病学会に出展した際に管理栄養士が興味を示し、糖尿病患者やその予備軍の食事のレシピとして、「ラカント」を推奨してくれるようになりました。こうして徐々に、糖尿病マーケットで存在感を高め、スーパーやドラッグストアなどの量販店でも扱ってもらえるようになっていきます。
さらに2000年代に入るとり、「糖質制限ダイエット」そして2010年代には「ゆるやかな糖質制限=ロカボ」が話題になる中、この流れに合わせたコミュニケーションにより、美容・健康意識の高い一般の方に「ラカント」が受け入れられ、またいち早いSNSの活用により、これまで未開拓だった若い女性層にも認知される商品へと育っていきました。
当社は大手メーカーのように大量のCM放映などはせず、「商品の価値を認めてくださる方に届ける」というスタンスを貫いてきました。今日、その輪が大きく広がってきたことは、開発者として嬉しい限りです。
国内での実績をひっさげ、2018年にはアメリカに製造拠点を建設しました。アメリカで肥満対策は国家的な課題であり、砂糖の代替となる甘味料のニーズは高い。すでにステビアが市場を席巻していましたが、おいしさで勝る「LAKANTO」に勝算はありました。

同国では、羅漢果の英名「モンク・フルーツ=僧侶の果物」にちなんだパッケージデザインを採用し、菓子や調味料などのバラエティ化を進めました。「天然」や「自然派」を強調したPRが奏功し、オーガニックスーパーからの引き合いも増えました。現在はヨーロッパ市場への参入も準備しており、ブランドのグローバル戦略を進行中です。
「ラカント」の発売から31年が過ぎましたが、この間も私たちは、羅漢果抽出物の研究を重ねてきました。羅漢果は中国で漢方薬の原料として重用されてきたと述べましたが、成分に健康に良い機能があることは容易に想像できます。その機能を突き止め、「ラカント」を新たなステージに導くことが、現在の当社の目標です。
すでに羅漢果抽出物に関する多くの研究論文を発表しており、その成果を持って現在、機能性表示食品の上市を計画しています。その一端は次回、「機能性の取得に挑戦する次世代のストーリー」としてお話いたします。(続く)