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【社説】池野会長の求心力無くして直近5年間の発展は無い

およそ30年前、我が国に「ドラッグストア」という業態は無かった。正確に言えば、欧米に倣って「ドラッグストア」を冠する薬局・薬店は存在したが、現在のような「日本型ドラッグストア」の姿を、我々は想像できなかった。

「日本型ドラッグストア」とは、従来から薬局・薬店の生業であった医薬品を核に、化粧品、生活雑貨、そして食品をラインロビングし、日々の生活に欠かせない業態のことである。生活インフラとしての機能は今や、スーパーマーケットやコンビニと肩を並べるまでになった。

その「日本型ドラッグストア」は近年、医療の窓口を担う「調剤併設型」と、品揃えと価格を武器にした「食品強化型」の二極、あるいはその両方を融合した店が出現している。いずれも地域密着を追求した結果だが、業態構築のプロセスは企業により様々である。

もう1つ、大手による出店やM&Aが上位寡占を招き、中小企業との格差が広がってきた。ブランド力の有無で薬剤師や登録販売者の採用の難易度も変わるとあり、中小も生き残りをかけて大手との差異化を図るのに必死だ。

ひと足先に成熟したコンビニの売場が画一的になったのに対し、ドラッグストアは、1つの業態では語り尽くせないほど多様化し、それぞれ異なる戦略を遂行している。そのような岐路に立つ会員企業を1つにまとめてきたのが、2019年にJACDSの第5代会長に就任した池野隆光氏である。

JACDS25周年セレモニー(24年3月7日)にて

JACDSは2020年に一般社団法人格を取得し、名実ともに業界の代表となった。新たなスタートを切るにあたり池野会長は、「尊敬される企業集団を目指す」というビジョンと共に、社会に貢献するドラッグストアの姿を訴え、会員企業に結束を呼びかけてきた。

以後のJACDSは、レジ袋削減や返品問題解消、物流の効率化などの活動を、メーカーや卸、行政も巻き込んで実施していく。池野会長はいずれの活動も真っ先に自社に取り入れ、その姿勢に賛同した会員企業が、次々と輪に加わっていった。

「薬剤師、薬局、ドラッグストアの未来を語る」と題して開催した「薬業4団体シンポジウム」(23年8月5日)

池野会長の会社は言わずと知れた最大手で、一連の活動も自社のみで進めた方が合理的かつ効果的だったはずだ。おそらく社内では業界活動に対し、「総論賛成各論反対」の意見もあったろう。

しかし池野会長は、会員企業と自社の戦略との乖離を真摯に受け止め、自ら社内外の説得と調整に動き、結果を示してきた。数ある業界団体の中で、ここまで皆の声を拾い行動してきたリーダーは他にいない。直近5年間のドラッグストアの発展は、少なからず彼の貢献があった。

その求心力は業界内にとどまらず、異業種、異業態、それらに関わる産官学に広く浸透している。昨年8月に弊社が共同主催した薬業団体のシンポジウムも、池野会長の呼びかけに日薬、NphA、日病薬のトップが応えた形であった。

JACDSは6月に役員の改選を行う。池野会長の続投を望む声は根強いが、次代にバトンタッチする可能性は高い。多様化する社会や事業環境を背景に会員企業の思惑が交錯する中で、JACDSはより高度な運営が必要になっている。次のトップが誰になるのか、否が応でも注目が集まる。

他方、人生100年時代の国民生活を守るキーワードとして、JACDSが創設時から訴えてきた「セルフメディケーション」が、再度注目されている。先のオーバードーズ問題の解決策としても、JACDSが制度化に尽力してきた登録販売者に、ゲートキーパーとしての役割が期待されている。

医薬品の提供を生業とするドラッグストアは、現時点で人生100年時代の健康を支える窓口に一番近い業態だ。さらに、セルフメディケーションの手前の予防(= ヘルスケア)の市場を切り開くのもまた、ドラッグストアの役割であろう。そのことを強く意識し、明確なビジョンをJACDSが示すことができれば、業界の未来は開けるはずだ。

池野会長が蒔いた「尊敬される企業集団」という種は、5年をかけて花を咲かせた。後はその実を大きく育てて、 ヘルスケアの騎手たるドラッグストアをつくるのみである。次のリーダーにそれを期待し、弊社も微力ながら応援していきたい。(八島充)