中国・桂林を原産とするウリ科の果実「羅漢果」は、英名で「モンクフルーツ(僧侶の果実)」と呼ばれ、アメリカでもステビアに替わる植物由来の代替甘味料として人気を博している。今や「羅漢果」の市場が世界中に広がっているのも、元を正せば、栽培から抽出までの技術を確立し、それを現地に開放したサラヤ(更家悠介社長)の功績である。市場の拡大に伴い類似品も出回るようになったが、先駆者である同社は、安心・安全の品質にさらに磨きをかけて他を大きく引き離している。連載第2回目は、「ラカントS」の品質の高さを裏付ける栽培の現場と製造工場について紹介する。(取材と文=八島 充)
1995 年に発売された「ラカント」並びに99年にリニューアルした「ラカントS」は、2015年まで主成分の羅漢果抽出エキスを、ともに開発をしてきた仲間が起業した現地の会社から購入していた。しかし、世界的な需要増に伴い、原料となる羅漢果の品質にバラつきが発生し、サラヤが求めるレベルに達しないことも増えるようになった。
そこで2015年10月に、現地に自社工場を竣工するとともに、調達先の農家を管理して、栽培からエキスの抽出、製造までの一貫体制へと切り替えている。
ラカントの生みの親である村田雄司氏(現・取締役グローバル生産本部天然素材研究所所長)は、「培った技術を守りながら、他に真似のできない価値を創造するために、自社工場の建設は必須でした。ここから、ラカントを唯一無二の商品へと育てる取り組みがスタートしたのです」と語っている。
工場の役割の1つが高品質な羅漢果を確保すること。甘味が強い、熟した状態の羅漢果を納品させるために契約農家への指導を徹底。栽培状態や肥料などを記録し、安全性に細心の注意を払っている。基本的に農薬の使用は認めておらず、契約農家の栽培地も、他の作物による農薬の影響を受けない高地の山の斜面に限定している。
栽培地を山の斜面に限定した理由は、農薬の影響を受けないことのほか、雨量の多い桂林地方で大雨が振っても苗を腐らせにくいこと、そして、実に栄養を蓄えるのに必須の日当たりを確保することである。
これら条件が揃って初めて良質の果実を収穫できる反面、農家にとっては体力的にも厳しい環境となる。虫がいない高地のために、農家の手で1つ1つの花に受粉をさせなければならない。サラヤが扱う「羅漢果」は、こうした手間ひまをかけて収穫できる貴重な果実なのだ。
収穫レベルに達した羅漢果は、収穫時、工場入荷時、さらに抽出前と全3回の選定をおこなう。ここまで厳格に管理するメーカーは他になく、これが、「ラカント S」の雑味がなく砂糖と同レベルの「おいしさ」につながっている。
ただ、「おいしい」という感応は主観的で、具体的に説明がしにくいのも事実。村田氏は、味覚センサーと臭いセンサーの分析機械を駆使し、「おいしさ」を数値で表す「見える化」を図っている。
数値の基準はもちろん砂糖。甘さの「強度」「後引き」「くせ」「渋み」「苦味」といった味覚の種類を、様々な甘味料で比較したところ、 全項目において砂糖に最も近いのが「ラカントS」だけ、という結果を得ている。
ここで、高品質な「ラカントS」を生み出す心臓部、桂林工場(桂林莎羅雅バイオテクノロジー有限公司)を紹介しよう。
桂林市は、中華人民共和国広西チワン族自治区に位置する地級市で、珠江の支流である漓江に沿う街。台湾の首都・台北市とほぼ一緒の緯度で、気候は年間を通して温暖である。工場は桂林空港からも近い工業団地に位置し物流の便も良い。ちなみに関空→上海と、上海→桂林は共に約1300kmの距離である。
敷地面積4356坪の中に、第1–第2を合わせて1500坪強の製造棟のほか、700坪を超える倉庫並びに管理棟などで構成されている。2015年に最初の製造棟を稼働し、その後2020~21年の第2期工事で第2製造棟、検品棟、汚水処理施設を増設した。直近では80人のスタッフが働いている。
工場では「羅漢果配糖体の安定確保」「農薬汚染リスクの防止」「羅漢果製品の世界市場開拓」「新ビジネスの創出」という4つのミッションを掲げている。
現在は羅漢果配糖体と最終製品(ラカントS海外用)および羅漢果の残渣を活用したスクラブ剤(洗浄剤)を製造している。日米、ASEAN各国に輸出しており、近年はロシアやドバイにも口座を開いている。なおスクラブ剤の製造販売は、世界的な潮流であるゼロエミッション活動の一環として取り組んでいるものである。
以下に、見学した羅漢果配糖体の製造ラインを、画像とともに紹介する。
今や「ラカントS」は、安全性や品質の高さで、羅漢果エキス配合をうたう類似品を寄せ付けないレベルにある。その実現の裏には、中国・桂林との友好関係、契約農協・農家との信頼関係があり、何より先駆者としてのサラヤのプライド、強い信念が感じられる。
村田氏は今後の展開について、「さらなる高品質の商品を作り、世界中の食の分野でラカントを幅広く活用してもらうこと」と語っている。「世の中にないものを作り出す」という創業の理念に従い、さらに先の未来を見据える同社の今後にも注目していきたい。(次回に続く)
※次号は番外編、サラヤが創出した羅漢果の栽培〜加工技術が、桂林の産業界に深く根付いている様子をお伝えします。(羅漢果=モンクフルーツの名前の由来にも迫ります!)