第11回 サラヤ グローバル生産本部 天然素材研究所 所長/博士(応用生命科学) 村田雄司氏

サラヤ(更家悠介社長)のカロリーゼロ・糖質ゼロの自然派甘味料「ラカントS」。その原料の一つである羅漢果は、中国で古くから喉によい民間薬として親しまれてきた。「ラカントS」を開発した同社の村田雄司博士は、「薬になるなら機能性を有するのは必定」と考え、約30年にわたり羅漢果抽出物の研究を続けてきた。そしてこのほど、機能性関与成分「ラカンカ由来モグロール」を生成する技術を確立し、商品化に向けた準備を進めている。インタビュー後編では、大学との共同研究から成分の生成技術確立に至る歩みを聞いた。
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徳島文理大学の教授から羅漢果研究を引き継いだ私は、まず「おいしくなければ商品化できない」と考え、甘味特性の研究から着手しました。その結果、砂糖に代わる甘さとおいしさを備えていることが分かり、1995年にカロリーゼロ・糖質ゼロの甘味料「ラカント」(「ラカントS」の前身)を開発し、1998年にリニューアルした「ラカントS」を世に送り出しました。

「おいしさ」の研究と同時に進めてきたのが、機能性の研究です。中国では200年以上前から羅漢果が煎じ茶として飲まれ、咳や痰など喉の不調に用いられてきました。長く飲まれてきたという食経験に着目し、何らかの機能性があるのではないか、と考えるのは自然なことでした。
1990年代後半のある日、広島大学で動脈硬化を研究されている先生から、「羅漢果を使って一緒に抗酸化の研究をしないか」と打診されました。突然の申し出に驚きましたが、羅漢果にさらなる可能性を感じていた私は喜んで応じました。
その研究では、羅漢果の抗酸化作用がビタミンCなどと同程度であることを示す結果が得られ、2000年に論文を発表しました。この経験から「研究を続ければ、新たな機能性が見つかるはずだ」との思いを強め、各大学との共同研究を本格的にスタートさせました。
京都薬科大学との共同研究では、羅漢果の抗がん作用に関する結果を得て2003年に論文を発表し、岡山大学との共同研究では抗アレルギー作用に関する結果を2004年に発表しました。
抗アレルギー作用の試験では、ラットに抗アレルギー薬のトラニラスト、または羅漢果抽出物を与え、その違いを調べました。前者では1週間以内に効果が見られたのに対し、後者では4週間後に作用が確認されました。羅漢果抽出物でも、継続して与えることで効果が見られたことは、大きな成果でした。

大阪府立大学(現・大阪公立大学)との共同研究では、食後血糖値の上昇抑制作用(2005年に論文発表)や、糖尿病症状の軽減作用(2007年に論文発表)に関する結果を得ました。糖尿病の予防を目指して研究を続けてきた当社にとっても、大きな手応えでした。
これを受け、羅漢果抽出物が体内でどのように働くのか、代謝の観点から調べる研究に着手しました。この研究が後に、機能性関与成分の生成技術につながっていきます。
羅漢果の甘味成分であるモグロシド類には、グルコース(ブドウ糖)が複数結合した構造を持つものがあります。腸内細菌の働きによって糖部分が切り離されると、モグロールという物質が生じます。
研究を進める中で、モグロールの約80%は便として排出される一方、排出されない残りの部分が、これまでの研究で認められた機能性に関わっているのではないかと考えました。そこで、モグロールを生成し、安定的に量産できれば、新たな機能性表示食品の開発につながるのではないかと着想しました。
ただ、当時、モグロールを生成して食品原料として利用する技術には前例がなく、安全性についても確認が必要でした。安全性を確かめ、量産化を実現して商品化するまでには、医薬品に匹敵するほどの開発コストがかかります。当社の規模では手に余ると悩んでいた矢先、経済産業省の補助金事業の存在を知り、申請することにしました。
この補助金事業の審査で重視されるのは「商業的価値」です。厳しい審査基準をクリアするため、何カ月もかけて資料を作成しました。ただ、新原料の生成だけではインパクトが足りません。そこで、サブテーマに「世界の糖尿病患者を救う」という言葉を掲げました。
結果はA・B・Cの3段階中、最高のA評価。必要な資金を確保し、モグロールの生成技術の確立、安全性の確認、機能性の検証を進めることができました。

モグロールは、特定の酵素を作用させることで生成できます。その酵素を突き止めたことは、当社研究スタッフの努力の結晶であり、世界初の成果だと考えています。これによって、従来は甘味料原料として利用していた羅漢果抽出物に、新たな機能性素材としての可能性が生まれました。当社の食品事業も、次のステージへ進もうとしています。
機能性表示食品として届け出た商品は「モグモット」(届出番号:K1114)です。機能性関与成分は「ラカンカ由来モグロール」で、届け出た機能性表示は「本品にはラカンカ由来モグロールが含まれます。ラカンカ由来モグロールは、食事とともに摂取することで、食事に含まれる糖の吸収をおだやかにする機能が報告されています」となっています。パッケージには「ラカント」のロゴをあしらい、まずは同ブランドのファンに向けた販促活動を予定しています。

現在は当社の関東工場(茨城県)で、工程数を減らしても安定的に量産できるかを確認している段階です。現時点で「ラカンカ由来モグロール」の機能性表示は一つですが、これを出発点に新たな機能性を見いだすことが、「世界の糖尿病患者を救う」という目標に向けた次のステップになります。
羅漢果抽出物には、まだまだ知られていない機能性があると確信しています。「甘いだけではない」羅漢果の力を、これからもっと世の中に広めていきたいと考えています。どうぞご期待ください。(了)