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森製紐、生活者の困りごとを商品化 

ーー既存素材の応用でヘルスケア分野にも可能性


ひもやゴムなどの素材・加工技術を生かし、生活者の身近な困りごとを解決する商品を開発する森製紐(大阪府大阪市)。同社が9月3日に発売した「シーツズレンジャー」は、おねしょシーツや防水シーツのずれを抑えるバンドだ。開発のきっかけは、社員の家庭で起きていた日常的な悩みだった。発売前の調査では、朝起きたときにシーツがずれていた経験がある人が76.3%に上り、家庭での対策に悩む実態が明らかになった。サスペンダーなどに使われるゴムやクリップを組み合わせ、身近な不便を解消する商品へと転換した同社。リュックの肩ひもずり落ち防止バンドなど、既存素材の用途を広げてきた開発姿勢と、今後のヘルスケア分野への可能性について伺った。(取材と文=ヘルスケアワークスデザイン・笠原亜紀世)

シーツズレンジャー


身近な悩みが商品開発の出発点 既存素材を組み合わせて新たな用途を開拓


「シーツズレンジャー」の開発は、社員の家庭での経験から始まった。子育て中の社員が、おねしょシーツのずれに困っていたことを知った別の社員が、試作品を製作。実際に使ってもらうと、シーツがずれにくくなり、使い勝手の改善につながったという。この話をきっかけに、同社は商品化を検討するに当たり、どれほどの人が同じ悩みを抱えているのかを調べることにした。広報やウェブサイト運営を担当する社員が中心となり、SNSなどを通じてアンケートを実施。2026年6月26日から7月5日まで行った「おねしょシーツ・防水シーツの利用実態調査」では、有効回答59件のうち76.3%が「朝起きたときにシーツがずれていた経験がある」と回答した。

調査を通じて見えてきたのは、シーツのずれが一部の家庭だけの問題ではないということだった。ずれを防ぐためにクリップやゴムバンドを使うなど、各家庭がそれぞれ工夫して対処している実態もあった。社員の身近な経験から生まれたアイデアが、生活者の声によって商品化への確信を得た形だ。同社によると、こうした調査を伴う商品開発は今回が初めて。それまでも、社員や取引先などから「こういうことに困っている」「こんなものがあれば便利なのではないか」といった声を聞き、商品づくりにつなげてきた。今回の取り組みは、これまで感覚的に捉えていた生活者のニーズを、調査によって確認する機会にもなった。

商品そのものは、同社が従来から扱ってきた素材と部品を組み合わせている。ゴムバンドの両端に樹脂製クリップを取り付け、シーツを挟んで固定する仕組みだ。ゴム部分はサスペンダーなどに用いられる素材で、クリップもサスペンダー用の部品を活用した。約85~160cmの範囲で長さを調節でき、2本セットで販売する。価格は1,650円(税込)。新たな素材や複雑な機構を開発するのではなく、既存の素材が持つ「伸び縮みする」「挟んで固定する」という機能を、別の生活課題に応用した点が特徴といえる。サスペンダーでは衣服を支えるために使うゴムとクリップを、寝具の固定という用途に転用した。素材を知り尽くしているからこそ、その機能を別の場面で生かす発想につながっている。

商品づくりでは、使う人の気持ちにも配慮した。今回の商品は子育て家庭での利用を想定し、バンドには明るいレインボーカラーを採用した。寝室で使うものだからこそ、子どもが親しみやすい色合いにしたいという考えが背景にある。発売前のモニターからは、寝相によってシーツがずれやすかった子どもでも、朝まで固定されていたという声が寄せられた。保護者からは、シーツのずれや寝具の汚れを心配せずに眠れたという感想もあったという。おねしょへの対応は、寝具の汚れを防ぐだけの問題ではない。保護者にとっては、夜間にシーツや布団が汚れてしまうことへの不安があり、子どもにとっても、失敗したことを気にしてしまう場合がある。調査では、子どもが気にしないように、防水シーツを使っていることをあえて伝えずに対策している保護者の声もあった。

こうした背景を踏まえると、シーツのずれを抑えるという機能は、家事の負担を軽減するだけでなく、親子が安心して眠れる環境づくりにもつながる。もちろん、商品が睡眠の質を直接改善することを示すものではないが、睡眠中に生じる不便や不安を減らすという点で、生活者の悩みに寄り添った商品といえる。同社は、ひもやゴムなどの素材を供給する事業を基盤としながら、素材の機能を生かしたオリジナル商品の開発にも取り組んできた。今回の商品も、その延長線上にある。生活者の困りごとを見つけ、手元にある技術や素材を組み合わせて解決策を形にする。身近な気づきを起点とした商品開発が、同社のものづくりを支えている。

子育て用品から介護・ヘルスケアへ 生活課題を起点に用途拡大を目指す


森製紐では、「シーツズレンジャー」以外にも、素材や部品の組み合わせによって日常の不便を解消する商品を手掛けている。その一つが、リュックの肩ひもがずり落ちるのを防ぐバンドだ。リュックの肩ひも同士を固定するための後付け商品で、累計販売数は60万本を超えるという。リュックを背負って歩いていると、肩ひもがずり落ちて何度も位置を直さなければならないことがある。同商品は、そうした小さなストレスに着目し、既存のリュックに取り付けられる形で解決策を提供した。大がかりな製品ではなくても、日常的に繰り返される不便を解消することで、利用者に受け入れられてきた。

リュックずり落ち防止バンド



また、子どもがトイレに行く際にベルトのバックルを外しにくいという悩みから生まれたのが、バックルのないゴムベルトだ。両端のクリップでズボンに固定するため、ベルトを着けたまま脱ぎ着しやすい。靴が足に合わず、歩くときにかかとが浮いてしまう悩みに対しては、靴と足を固定するシューズバンドを開発した。さらに、教科書などをまとめて持ち運ぶためのブックバンドも商品化している。

テキストブックロック



これらの商品に共通するのは、素材ありきで用途を限定するのではなく、生活者が困っている場面に合わせて素材の使い方を変えていることだ。取引先から寄せられる要望も、商品開発の重要なきっかけになっている。商社や販売先などが顧客の声を聞き、それを同社に伝えることで、新たな商品づくりにつながるケースもあるという。同社は基本的に企業間取引(BtoB)を中心とする事業形態だが、自社のオンラインショップなどを通じてオリジナル商品も販売している。素材や加工の技術を持つメーカーが、顧客の困りごとを起点に商品そのものを提案することは、従来の素材供給にとどまらない事業の広がりといえる。こうした開発姿勢は、今後の介護・ヘルスケア分野にも応用できる可能性がある。今回の「シーツズレンジャー」は、当初、子育て家庭向けの商品として企画された。一方、寝具のずれを防ぐという機能に目を向ければ、在宅療養や介護施設など、寝具の管理が日常的に発生する場面でも活用を検討できる。高齢者の在宅療養では、身体の状態によって寝具の交換や整え直しが必要になることがある。介護施設でも、利用者の状態や生活環境に応じた寝具の管理が求められる。シーツを固定するというシンプルな機能が、こうした現場の不便を軽減できるかどうかは、実際の使用環境や安全性、取り扱いやすさなどを踏まえて検討する必要があるものの、用途を広げる余地は考えられる。

取材の中で同社は、介護現場での利用を当初から想定していたわけではないと説明した。今回の取材をじて、新たな用途の可能性に気づいたという。製品にはレインボーカラー以外にも、黒などのベーシックな色や異なる幅の素材を使う余地があり、用途に応じた仕様を検討することも可能だとしている。今後の課題として、介護などの現場でどのようなニーズがあるのかを把握し、必要に応じて展開を考えていく姿勢だ。また、同社が見据えるのは、介護を必要とする人向けの商品だけではない。高齢化が進む中でも、元気に働き、積極的に外出や活動を続ける高齢者が増えている。年齢だけで対象を区切るのではなく、日常生活をより快適にするための商品を考えることも、今後の可能性の一つだという。同社が扱う素材は、ゴムやひもを中心に種類や柄、幅などのバリエーションが豊富だ。細幅のベルト類を主力としながら、用途によっては幅の広い素材にも対応できる。素材そのものが持つ機能を見極め、どのような場面で役立てられるかを考えることが、新たな商品を生み出す土壌になっている。

現時点で、介護・ヘルスケア向けの新商品や具体的な事業計画が決まっているわけではない。まずは「シーツズレンジャー」の認知を広げ、販売を進めることが優先となる。一方で、現場の声や取引先からの要望、社員のアイデアを商品づくりにつなげてきた同社にとって、新たな用途の発見は今後の開発を考える上で重要な要素となりそうだ。生活者の困りごとは、必ずしも大規模な技術開発によって解決されるものばかりではない。使い慣れた素材や既存の部品でも、視点を変え、使う場面を変えることで、新たな価値を生み出せる。森製紐の取り組みは、日常の小さな不便に目を向けることが、子育て用品に限らず、介護やヘルスケアを含む幅広い生活領域での商品開発につながる可能性を示している。

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