ヘルスケア情報サイト「Hoitto! ヘルスケアビジネス」(ヘルスケアワークスデザイン株式会社)

特別対談:日本ヘルスケア協会・今西信幸会長×健康食品産業協議会・橋本正史会長

ヘルスケア(予防)の中心は“食”
健康食品の推進に重要なのは確かなエビデンス



2008年に機能性表示食品制度がスタートし、今では7,000件以上の届出が受理され、約5,400億円の市場までに成長した。ドラッグストアの店頭を見ても、多くの機能性表示食品が陳列されるようになった。市場と現場を見ても、機能性表示食品は、健康食品の重要性を大いに高めたと言えるだろう。今回、「ヘルスケア(予防)の中心は“食”」と位置付ける公益財団法人 日本ヘルスケア協会(JAHI)・今西信幸会長と、健康食品の健全な市場育成に取り組んできた一般社団法人 健康食品産業協議会(JAOHFA)・橋本正史会長に登場いただき、健康食品の可能性について語っていただいた。(記事=佐藤健太)


国民皆保険制度の持続にはヘルスケアが不可欠


日本ヘルスケア協会・今西信幸会長

――これまで日本ヘルスケア協会は、ヘルスケアの推進に注力してきました。日本では機能性表示食品などの健康食品の活用が、ヘルスケア推進に大きく寄与すると期待されていますが、今西会長はどのような見解をお持ちでしょうか。

今西会長 まず「ヘルスケア」という言葉は、昨今の健康意識の高まりによって、徐々に国民の皆さんに知られるようになっていますが、言葉の意味を正しく理解している人は少ない現状にあります。

当協会が発足して7年であり、経済産業省に「ヘルスケア産業課」ができてから13年。そうした意味では、「ヘルスケア」は新しい言葉でもあります。これが今、なぜ脚光を浴びているのか?それは「社会構造上または個人の問題点でヘルスケアが必要になってきた」といった理由であると位置付けています。

日本の優れた国民皆保険制度がありますが、医療費は46兆円(2022年度)と前年を上回っており、この数字は国家予算の約1/2となっています。さらに現在よりも高齢化が進んでいき、皆保険制度を財政的に支える側よりも、支えられる側が圧倒的に多くなる社会構造では、国民皆保険制度の持続は困難となります。

ですから、国民皆保険制度を守るために重要なのは「ヘルスケア」であり、病気にならない元気な高齢者を増やしていくことが、何よりも肝要であると考えています。治療の中心は、医療・医療技術・医薬品ですが、予防となると中心は食です。日本ヘルスケア協会は「ヘルスケア」を冠した公益財団法人です。こうした意味で、予防の中心となる食に力を注いでいこうとしています。

食品に分類されているサプリメントも、ヘルスケアの推進に大きく寄与するポテンシャルを持っています。ですが、きちんとエビデンスを持ち、安心してユーザーから使用してもらえる製品でなければなりません。ヘルスケア推進に役立つ素晴らしい製品を後押しし、逆に足を引っ張るような製品を排除していくことが不可欠です。この意味では、機能性表示食品をどのように国民に理解してもらうかが、サプリメントの定着化に大きな影響を与えるでしょう。


健康食品産業の健全化に欠かせない要素とは?


健康食品産業協議会・橋本正史会長

――健康食品産業協議会は、健康食品の健全な育成のために活動してきましたが、直近での課題・現状についてお聞かせください。また、日本における健康食品の市場動向はどのようになっておりますでしょうか。

橋本会長 機能性表示食品の市場は2015年に制度が始まって以来、約5,400億円に成長し、一方で特定保健用食品は約3,000億円と年6%ほどシュリンク傾向にあり、この状況はしばらく継続していくと見ています。市場自体は機能性表示食品の届出件数が7,000品目以上となり、それに引っ張られるような形で活性化しているというのが一般的な見方です。

私個人としては、健康食品の市場は工夫をしないといずれ近いうちに頭打ちになると予測しており、先ほど今西会長がおっしゃった人口動態の変化も一つの要因になるでしょう。健康食品をサステナブルに成長させていくためには、有用性・品質・安全性の3つの問題を解決し、産業自体が健全な状態にあることを国民の皆さんに理解していただく土壌を作っていかなければなりません。今の状態ですと、実際に景品表示法違反で措置命令が出るなどで、健康食品に対する不信感や不安を持っている方々もいます。事業者は、1つの企業・製品の違反やミスが、健康食品全体のイメージに重大な影響を与えることに責任を持たなければなりません。

私は、経済産業省の健康・医療新産業協議会の委員を担当しています。約3年を経過しましたが、当初よりはアウェーな雰囲気は少なくなってきたように感じます。それは「健康食品産業の成長」ではなく、あくまでも「健康食品産業の健全化」を第一に訴えた結果だと認識しています。ありがたいことに、少しずつではありますが、食品やサプリメントに関して議事録に挙げていただけるようになりました。

やはり、健康食品を信頼していただける基盤をしっかりと固める必要があります。「数量が伸びた」「売上がアップした」と一喜一憂しているだけでは、健康食品産業の健全化に繋がりません。きちんと自分たちの襟元を正し、可能な限り日本ヘルスケア協会のような業界団体との連携、健康食品に対して厳しいな印象をお持ちのドクターなどとのコミュニケーションが重要であり、それが最終的に健康食品産業の発展に繋がっていくというのが、私の見解です。


健康寿命と平均寿命の乖離を埋めるには?


――ヘルスケア協会は「予防の中心は食」「食と健康」などのキーワードを掲げながら活動してきました。これまでの医療は「治療」がメインでしたが、病気にかからないように努力する「予防」の領域が注目されています。「予防」を国民に定着させるために重要なこととは。

今西会長 それは「国民皆保険制度を持続させていく」という大きな課題を標榜していくと同時に、「国民の皆さんに情報を開示していく」ことが重要になるでしょう。日本は近代国家になった明治維新以来、平均寿命は延伸してきました。ところが2000年にWHOが「平均寿命を発信しても、実際に健康維持・増進の役に立ちにくい。大事なのは健康寿命である」と提起しました。それがわずか23年前、そして「健康寿命」という言葉が徐々に広がってきたのが直近10年です。

男性の平均寿命が81歳・健康寿命が72歳、女性の平均寿命が87歳・健康寿命が75歳となっています。男性で9年・女性で12年の乖離があり、長期にわたって健康な状態ではないということを意味しています。「寝たきりで9年・12年、そのままでいいのか?」という問いに、誰も「それでもいい」とは言いません。だからこそ今、ヘルスケアが必要不可欠であり、現実と対応策という情報を客観的に発信し、一人でも多くの国民から理解してもらうことが重要なのです。

健康食品を勧めるにあたっても「こうした実態・問題があるため、健康食品はあなたの生活にとって有用」という情報が必要なときに、目的を不明瞭にしたまま「当社の製品を買いなさい」としては、国民に重要性が伝わりません。しっかりとエビデンスを持つ健康食品を、しっかりと目的(なぜ使うのか?なぜ良いのか?)を明瞭にした上で活用してもらう。これが健康食品の社会的地位向上にも繋がりますし、ひいては市場の健全化にも寄与していくことでしょう。


健康食品業界が多方面の業界や人物と連携する重要さ


――国民の間で健康寿命延伸ニーズが高まっています。その中では、健康食品についての科学的根拠が要求されますが、協議会の取り組みについてお聞かせください。また、機能性表示食品は、「科学的根拠」という観点で、国民からどのように支持されているでしょうか。

橋本会長 「科学的根拠」に向けての認識は、正直なところまだまだだと感じています。機能性表示食品の製品数が増えたことで、何となく「パッケージに機能性を掲載した製品を目にすることが多くなった」という程度でしょう。消費者庁の調査でも、機能性表示食品を含めた保健機能食品のことを理解している国民は3割もいない状況です。

国民の理解を得ていくには、ヘルスケア全体での健康食品の役割・社会的責任を企業や関係者が知り、エビデンスの大切さをしっかりと理解していなければなりません。健康食品業界では、「この製品だけ摂っていれば、解決します」のようなアプローチをする傾向にありました。自分たちの業界の中では許されることかもしれませんが、多くの方々からすると、健康のためには日々の運動・食事・睡眠が重要ですし、健康食品はその生活をより良く支えるためのツールなのです。

機能性表示食品がスタートした直後、数多くの企業からルテイン系の製品が上市されました。その中で私共が気を付けていたのは、まさしくそこでした。眼科のドクターに聞くと「確かにルテインはいいかもしれませんが、他にもリスクファクターがあります。それを一緒に語らないとおかしいですよね」とおっしゃっていました。確かにその通りであり、食品や栄養素の寄与率はどの程度か計れませんが、喫煙や糖尿病など視力低下の原因は多くあります。それを無視して「ルテインだけ摂取していればいい」という考え方では、ヘルスケアの推進にはならないと思います。

平均寿命と健康寿命の乖離を縮めるためには、健康食品業界がいろいろな業界・人物と連携を取り、目的や役割を理解していく必要があり、そうしなければ健康食品業界の先行きが見通せなくなります。機能性表示食品は約5,400億円と大きな市場ではありますが、これを2〜3兆円にしていかなければ、本当の意味で健康食品を活用したヘルスケアの実現は難しいと考えています。



「高齢社会に成功している国」としての日本の強み


――今や海外、特に欧州では、日本食や日本酒などがブームとなっています。海外からの視点では、ヘルスケアという観点で日本の食文化はどのように評価されているでしょうか。また、その輪を広げていくために、日本の企業ではどのような取り組みが必要となるでしょうか。

今西会長 日本は世界に先駆けた「最高齢国家」です。財政面での負担は大きくなっていますが、「高齢社会に成功している国」とポジティブに言い換えられます。こうした切り口で日本のインフラや文化を世界にもっと発信していくべきです。例えば、なぜ今フランスで日本酒がブームになっているのか。それは、フランス人が日本に対して健康長寿というイメージを持っており、「日本で愛されているお酒は体に良い」ということが前提になっているからです。

日本は他国よりも高齢化率が高く(約28%)、第2位のイタリアよりも4%も高いという現状です。日本は高齢社会を支えるインフラを国内だけではなく、アジア、さらにはヨーロッパに発信していけば大きな市場形成にもつながっていくと思われます。ですが、より良い高齢社会を実現するのは、必ずしも医療=治療ではなく、むしろ、予防=ヘルスケアが果たす役割が大きいのではと考えています。その中で、健康食品の存在は非常に重要です。

こうした意味で、私は健康食品産業協議会とのコラボレーションは、企業だけではなく生活者にとって大変有意義なことになりますし、それがヘルスケア推進の大きなポテンシャルになるとも考えられます。先にも述べましたが、これから医療費は高齢化率が高まるにつれてさらに逼迫していきますが、ヘルスケアをきちんと生活に取り入れていくことで健康寿命の延伸、医療にお世話にならないアクティブシニアの増加にもつながるでしょう。


健康食品におけるASEAN諸国などとの
ハーモナイゼーションの必要性


――日本は人口減少となっていきますが、そうすると国内だけでなく海外、特に盛り上がりを見せるASEAN地域への参入も重要になってきます。協議会はASEANでのレギュレーションのハーモナイゼーション推進に注力していますが、現状は。また、参入に際して企業の課題は?

橋本会長 ASEANの国々はハーモナイゼーションを一生懸命に取り組んでいますが、日本はそこに強く関わりを持っているという現状ではありません。ただ、ASEANのハーモナイゼーションは、1994年にアメリカで施行されたダイエタリーサプリメント健康教育法(DSHEA)を参考にしながら作られていますからASEANだけでの問題ではなく、アメリカの関与もあります。この動きを韓国なども注視しており、自国の動き方の判断基準に取り入れようとしています。

一方で、残念ながら、日本は自国の制度を健全化する方向にあったため、あまり外を向いていませんでした。個人的には、ASEANは自身が代表を務めるケミン・ジャパンがカバーするマーケットの重要な地域であることもあり、それらの国々と日本は何らかの連携を取っていくことが大切だと認識し、少しずつ関係性を構築してきたところです。2023年3月にはASEANの業界団体のトップが来日し、一緒にパネルディスカッションをしました。それがきっかけとなり、10月に私がインドネシアで講演しました。

これまで、私も含めた業界関係者も行政関係者も、日本の健康食品をめぐる現状をアウトプットする努力をしてこなかった実態がありました。それをできる人間が「高齢化する日本で、健康食品業界が貢献している」という部分を見せていくことをしていかなければならないと考えています。

また、海外から日本の健康食品の評価は高く、海外展開は日本企業にとって大きなビジネスチャンスになります。そこで重要になるのは、日本における法体系も日本だけの特別なものを作るのではなく、ASEANから見ても、どの国から見ても「日本はハーモナイゼーションを意識した法整備をしている」と感じてもらうことだと思います。

――ありがとうございました。