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2023年からのプラネタリーヘルスな食のススメ

「地域創生医 桐村里紗の プラネタリーヘルス」
 第3回 2023年からのプラネタリーヘルスな食のススメ

明けましておめでとうございます。

昨年は、ウクライナ戦争が始まり、今年の漢字も「戦」に決まるなど、世界が平和とはかけ離れてしまった一年でしたね。

「プラネタリーヘルス」という考え方の中には、戦争のない世界も含まれます。

人と人のつくる文明、そして地球環境の全てが健全である状態が「プラネタリーヘルス」ですから、世界全体は今、「プラネタリーアンヘルス」な状態と言えます。

世界全体を一気に変えることはできませんが、私たち一人一人は、一貫して調和の心を持ち、プラネタリーヘルスにつながる暮らしを営むことができます。

自分にも地球にも悪い現代の食事

特に、人の健康にも地球の健康にもインパクトが絶大なのが食事です。

増殖し過ぎてしまった人類は、2050年には、100億人に届こうかという勢いと予測されています。その人類を養うために随分と地球環境に負担をかけていますし、そんな食事は人の健康にも悪いのです。

発展する国々では、食べ物が均一化され、小麦製品に乳製品、肉類が主に消費され、私たち日本人も朝からパンとカフェラテ、昼はパスタなど、夜はビーフカレーなど、伝統的な食習慣をすっかり忘れてしまったかのような毎日です。

食の均一化によって、食の多様性が失われること。

そしてハイパープロセスフードと呼ばれる工業化された精製度の高い食品は、本来の植物が持つ成分の多様性をすっかり失い、栄養価や様々な生理活性物質を失っています。

こんな食べ物は、腸内環境を劣化させ、生活習慣病へと向かわせます。

人の食事の偏りが生物多様性の低下に

そして、均一化された食糧生産で問題になるのは、生物多様性です。

地球上の生物は137万種類、脊椎動物は6万6000種類ほどいるにもかかわらず、人類の75%のエネルギーは、たった12種類の作物と5種類の家畜で賄われています。

それも、大規模な工業型の農業や畜産は、農地の周りの生態系をアンバランスにして、生物多様性を減少させる原因になっています。

特に、たらふく食べる人類の肉や乳製品のために育てられている家畜は、2018年には760億頭とも試算され、世界人口の11倍にもなっています(※1)。さらに、人類以上にたらふく食べる家畜を養うためのエサを育てるために、熱帯雨林が切り開かれており、google earthでブラジルのアマゾンをみると森林の中に人工的に禿げ上がったエリアが観察できます。

地球の肺と言われて大量の二酸化炭素を吸って酸素を放出していたアマゾンは、むしろ吸収量よりも多くの二酸化炭素を排出していることも明らかになっています。ブラジル国立宇宙研究所の研究で、二酸化炭素の年間排出量は年間10億トンと報告されています。(※2)

本来、植物と土壌は、二酸化炭素を吸収し、蓄える役割がありますが、人が食糧生産のために耕して、草を剥がし、土を露出させることによって、むしろ二酸化炭素が排出することになってしまいます。

※journal of Cleaner Production.2015 Apr 1;92: 142-151. 
※Nature.2021; 595:388–393 

プラネタリーヘルス・ダイエットは伝統食への回帰

世界的な食のコミッションであるEATランセット委員会が提唱しているプラネタリーヘルスを実現するための世界人類の標準食「プラネタリーヘルス・ダイエット」では、日本のような先進国では、肉を今の量の半分にして、その代わりにプラントベースプロテイン(植物性タンパク質)として、豆やナッツ類の摂取が推奨されています。そして、野菜を今の量の2倍にして、野生種や在来種も含む多様な種類を1日のお皿の半分ほどはもりもり食べること。
世界全体で痛み分けをしながら、美味しく健康を維持し、地球環境の負荷を減らす方法です。

日本人にとっては、伝統の和食に回帰すること。これだけで、立派なプラネタリーヘルス・ダイエットです。

雑穀ご飯に納豆、具沢山味噌汁の一汁一菜で十分。発酵を活かした食事は、微生物との共生にも役立ちます。

季節の旬のものを地産地消することで、輸送や季節外の栽培にかかる環境負荷も減らすことができますし、自分の体をその土地の季節に適合させることもできます。
お正月明け、ご馳走をたらふく食べた重たいお腹のリセットも兼ねて、地に足のついた食事に切り替えてみてください。

緊急告知!
1月7日(土)9:55〜10:25 フジテレビ「サスティな!」に桐村里紗さんが出演します。
プラネタリーヘルスに即した食事のあり方を紹介いただく予定です!是非ご視聴ください!!

プロフィール
桐村 里紗 (Lisa Kirimura M.D.)

地域創生医/tenrai株式会社 代表取締役医師
東京大学大学院工学系研究科道徳感情数理工学講座共同研究員

予防医療から在宅終末期医療まで総合的に臨床経験を積み、現在は鳥取県江府町を拠点に、産官学民連携でプラネタリーヘルス地域モデル(鳥取江府モデル)構築を行う。地球環境と腸内環境を微生物で健康にするプラネタリーヘルスの理論と実践の書『腸と森の「土」を育てる 微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)が話題。

(次回「地域創生医 桐村里紗の プラネタリーヘルス」は2月初旬に掲載予定です)