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地域創生医 桐村里紗のプラネタリーヘルス 第18回
紅麹問題からサプリメントの本質を問い直す

小林製薬の紅麹サプリメントにおける健康被害が波紋を呼んでいますね。

原因の特定にはまだ時間を要しそうですが、これを機に、改めて、サプリメントとは何かを問い直してみる必要があると思います。

サプリメントは、「健康食品」であり、機能性を謳うことができる保健機能食品以外は、「機能性」がないとされるただの「食品」です。

日本においては、医薬品(医薬部外品を含む)以外は、あくまでも「食品」であり、医薬品のような機能性はないものだというのが基本的な考えで、あくまでも例外的に、認可を受けた特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品については、「機能性」を発揮すると言えるが、それ以外は、表示をしてはならない。ということはつまり、その食品に含まれる成分が何かしらの薬理作用、生理機能を持っている場合にも、消費者に知らしめることができないことになります。

主には、医薬品以外には、薬理作用や生理機能を持っていないという前提に立っている訳ですが、その前提に立つことは本当に正しいのでしょうか?

医祖である古代ギリシアのヒポクラテスが「汝の食事を薬とし、汝の薬は食事とせよ」と述べたことに始まり、食品として摂取する自然の動植物の心身への作用は、アーユルベーダや東洋医学、そして西洋医学においても近代まで医学として珍重されてきました。

当然ながら、自然由来の素材には、身体や精神に作用する様々な薬理成分の中には毒もあり、これらを扱うことには専門知識を要するものでした。

これらの天然素材の中の薬理成分を単離し、抽出したものを医薬品として扱い、それ以外は、同様の成分が含まれていたとしても医薬品としては認めず、機能性を示すことができなくなったのは近年のこと。

未知なる成分も含めて数万種類の多様な成分が含まれている天然素材から、特定の成分を単離した医薬品は、確かに心身への作用の仕方が全く違いますが、だからと言って、食品には機能性を認めないというのは乱暴ではないかと思います。

単離する場合よりも、多様な成分が相乗効果を発揮する方が、より高い作用が得られる場合もあります。

こうした前提が生活者の混乱を招く原因になっているのではないでしょうか?

「サプリメントだから、大丈夫」「食品だから、安全」
当然ながら、そんなことはありません。自然界は、たくさんの毒にも溢れていますし、何かしらの化合物が腎や肝で代謝される限りは、体質的に合わない人も出てきます。

その一方で、動植物のもつ成分は、腸内や体内、時には脳内に作用して、心身の代謝系に影響を及ぼす可能性があります。

この心身のあらゆる生命活動は、全て、私たちが食べた食品の成分を原材料にして、ホルモンや神経伝達物質、あらゆる細胞、酵素等をつくることによって、または食品に含まれる成分自体が化合物として作用することによって機能しているという生化学的なファクトに基づいて、改めて考え直してみる必要があるのではないでしょうか。

今回の、紅麹サプリメントは、ただ単に一社の問題でも、紅麹サプリメントにリスクがあったのではという単純な問題でもなく、サプリメント、食品、また医薬品というもの自体の捉え方を問い直す機会にすることで、本質的な議論ができるのではないでしょうか。

サプリメントや食品が適正に評価され、適正に扱われるきっかけになることを願っています。

プロフィール
桐村 里紗 (Lisa Kirimura M.D.)

地域創生医/tenrai株式会社 代表取締役医師
東京大学大学院工学系研究科道徳感情数理工学講座共同研究員
日本ヘルスケア協会・プラネタリーヘルス・イニシアティブ(PHI)代表


予防医療から在宅終末期医療まで総合的に臨床経験を積み、現在は鳥取県江府町を拠点に、産官学民連携でプラネタリーヘルス地域モデル(鳥取江府モデル)構築を行う。地球環境と腸内環境を微生物で健康にするプラネタリーヘルスの理論と実践の書『腸と森の「土」を育てる 微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)が話題。

(次回「地域創生医 桐村里紗の プラネタリーヘルス」は5月初旬に掲載予定です)