11月半ばに「中国・北部で小児の呼吸器疾患が急増している」というニュースが流れ、日本でも季節外れの感染症が増えているとの報告が上がっている。原因は人流の回復とともに予防意識が低下していることや、生活者の免疫機能の低下が考えられる。このほど、サラヤ微生物研究センターのセンター長・原田裕氏に、直近の感染症の動向と同社の活動について伺った。話の内容は拡大が危惧される「薬剤耐性菌」にもおよび、「予防」を継続することの重要性を再認識した。(取材と文=八島 充)
中国国家衛生健康委員会は11月13日、主に小児が罹患する呼吸器疾患の発生率が増加していることを発表した。この発表を受けWHOは、中国当局に実態の把握と情報の提供を要請する事態に発展している。
WHOのモニタリングの結果、中国北部を中心に、5月から肺炎マイコプラズマ、また10月以降はRSウイルス、アデノウイルス、インフルエンザウイルスによる小児の外来診療や入院が増加していることが示された。
最近では肺炎マイコプラズマがピークアウトしたとの報告もあるが、中国とほぼ同時期に韓国でも肺炎マイコプラズマが流行しており、日本も十分な警戒が必要であることは言うまでもない。
サラヤ微生物研究センターの原田 裕センター長は、「RSウイルス、アデノウイルス、インフルエンザウイルスはその名の通りウイルスが原因、肺炎マイコプラズマは細菌が原因で種類は異なりますが、咳や発熱を伴う点で共通しています。いずれにしても、マスクの着用や手指消毒等によって感染のリスクを回避することが大切です」と指摘している。
中国での小児の呼吸器疾患の増加を受け、サラヤは現地での情報収集とともに、自社研究所で原因の究明に努めている。「ここまでの分析で新たな感染症でないことは判っていますので、現在は特定のウイルスや細菌の分析とともに、予防情報の発信を強化しています」(原田センター長)という。
サラヤ微生物研究センターは2009年の開設以来、現物の病原体を用いた研究をすすめ、解明した情報をもとに医療レベルの商材を開発してきた。先のコロナ流行時には大阪大学とタッグを組み、やはり現物のコロナウイルスを用いた効果検証を行い、国内外の感染症対策に役立てている。
その成果の1つとして昨年に、具体的なウイルス・細菌の名称を掲げた手指消毒剤の販促を、厚労省と消費者庁の基準をクリアして、国内で初めて実施している。
先述した肺炎マイコプラズマに関しては気になる点がある。治療に有効とされる「マクロライド系」の抗生物質が効かない、いわゆる「薬剤耐性菌」が、東アジアを中心に拡大しているのだ。直近では中国で発症した肺炎マイコプラズマの約8割が「薬物耐性菌」で、日本でも発症事例は少ないものの「薬物耐性菌」の割合は5割以上にのぼるという(下図参照)。
本来は細菌が完全に死滅するまで抗生物質を投与する必要があるが、病状が軽くなるなどで投与を途中でやめると、体内に残ったが細菌が耐性化していく。肺炎マイコプラズマに関しては、「マクロライド系」に変わる抗生物質も開発されているが、細菌と抗生物質の追いかけっこはキリが無く、医療機関でも大きな問題となっている。
他方、細菌と異なりウイルスには抗生物質を用いないが、特効薬「タミフル」が効きにくいインフルエンザウイルスも存在しており、感染症の治療は一層難しくなっている。こうした状況下ではコロナ禍にも増して「予防」の意識が求められており、ドラッグストアには、それを啓発する売場づくりを継続する必要が生じている。
最後に、原田センター長が生活者に向けてメッセージを伝えてくれたので掲載しておく。
――日本でもこのところ季節外れの感染症が増えています。インフルエンザに限らず、アデノウイルスによる咽頭結膜炎(プール熱)や、溶連菌による発熱や喉の症状がそれにあたります。
私たちがしっかりと対策を行ってきたことで、コロナとは共存に向かっていますが、感染症レベルが5類に引き下げられたことで、人流の回復とともに予防の意識が、やや薄れているように感じます。
またコロナ禍の約3年間に、インフルエンザのような感染症にかかることが減っことで、生活者の免疫力が低下している可能性も否定できません。今後1−2年は、感染症にかかりやすい状況が続くと考えられます。
こうした状況下でのリスク管理は何より「予防」であり、これまでの習慣を継続していただくことが肝要です。感染症を必要以上に恐れることなく、その一方で万全な対策を講じながら、日々の生活を送っていただければと思います――。