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マツキヨココカラグループの「愛されるPB戦略」
MCCマネジメント 商品統括本部 商品開発部 次長 櫻井壱典 氏 が語る

マツキヨココカラグループ(マツココ)の「愛されるPB戦略」
MCCマネジメント 商品統括本部 商品開発部 次長 櫻井 壱典 氏 が語る






PB開発に積極的に取り組むマツキヨココカラ&カンパニー。同社はドラッグストア企業の中でも、パイオニア的存在としてPB開発に着手してきた。マツモトキヨシ時代の1990年代からオリジナルブランド商品の販売を開始し、2006年には「MK CUSTOMER」、2015年には「matsukiyo」ブランドへのリブランディングを経て、ココカラファインとの経営統合をした現在においても、その存在感を高めている。直近ではPBと専売商品を合わせて約1,800SKUにも上る商品を持ち、数多くの生活者の暮らしに溶け込む同社グループのPB。今回、同社グループでPB開発に取り組んでいるMCCマネジメント 商品統括本部 商品開発部 次長の櫻井壱典氏(薬剤師)に、同社グループの「愛されるPB戦略」として、これまでの歴史、現在、これからを語っていただいた。(記事=佐藤健太)


「MK CUSTOMER」から「matsukiyo」へ
PBの歴史とリブランディングの理由


――貴社グループはドラッグストア企業の中でも、パイオニアとして1990年代からPB開発に着手し、「MK CUSTOMER」を経て、現在は「matsukiyo」にリブランディングしました。貴社のPBの歴史についてお聞かせください。


インタビューに応えてくれた
櫻井 壱典 氏

櫻井氏 PBブランド「matsukiyo」を展開する以前、当社(当時のマツモトキヨシホールディングス)は「MK CUSTOMER」というPB商品群を展開していました。当時の調査データを見ると、「マツモトキヨシ」という社名・店舗名の認知度は90%以上あったのに対し、「MKカスタマー」の認知度は10%以下と、かなり低い状況でした。しかし、その一方で商品に対する評価は高くあり、2015年に「MK CUSTOMER」を「matsukiyo」にリブランディングしたのはこうした経緯があります。

現在、当社のPBには「matsukiyo」と「matsukiyo LAB」というブランドがあり、それとは別に“独立型ブランド”として「ARGELAN(アルジェラン)」「THE RETINOTIME(ザ・レチノタイム)」「RECiPEO(レシピオ)」などがあります。これらを当社ではPB商品と定義しています。その一方で、「アミノバイタル(味の素)」や「inタブレット(森永製菓)」「GATSBY(マンダム)」など、メーカーさまのブランドを活用した当社の専売商品を“オリジナル商品”とし、「MAJIDE COCO DAKE(通称:マジココ)」というロゴをつけて展開しています。当社はPBとオリジナル商品を明確に分けさせていただいておりますが、PBとオリジナル商品の合計は約1,800SKUとなっております。

当社のPBは、幅広い全体のカテゴリーを抑える主力ブランド「matsukiyo」、薬剤師や管理栄養士、ビューティスペシャリストなどの専門家を介して提供するブランド「matsukiyo LAB」、「アルジェラン」「レシピオ」など商品の世界観にこだわった“独立型ブランド”の3つで展開している状況です。

2015年に「matsukiyo」にリブランディングした際のブランドビジョンは「日本の暮らしを楽しくする」というもので、コンセプトを「毎日の暮らしをより美しく、健やかに、楽しく彩る、アイデアを利かせたブランド」とし、その基準を「確かな商品づくり」「面白さや楽しさがあるアイデア」「暮らしを彩るおしゃれなデザインと商品の品揃え」としました。

以前は「MK CUSTOMER」の中に「アルジェラン」や「ザ・レチノタイム」を置いていましたが、このようにブランドが尖っている商品群を「MK CUSTOMER」から切り離して、残りの商品群を「matsukiyo」のコンセプトに合致できるかどうかを棚卸ししつつ点検し、場合によっては内容の改善や終売などをし、約3年をかけて商品を入れ替えたというのが、ここ数年の当社PBの動きとなります。


ブランド化に成功しPBのイメージを覆す
情緒的価値を重要視したブランド戦略


「使うと楽しい気持ちになる」「おしゃれ」「マツキヨらしさ」などの情緒的価値を重要視したブランド「matsukiyo」


――その歴史の中で、「アルジェラン」「ザ・レチノタイム」「レシピオ」など、多くのお客さまから支持を受けて、ブランド化に成功。ドラッグストア業界において「ボトムライン戦略」という“PBのイメージ”を覆しました。貴社グループが成功した要素をお聞かせください。


櫻井氏 他社のPBには価格を訴求したブランドが存在しますが、当社PBはプライス感を前面に出した訴求をしていません。お客さまは、価格よりも価値が上回れば「値ごろ感がある」と感じますし、当社はその品質と価格のバランスを見ながらPBを開発しています。もちろんNBとのコストパフォーマンスなどは念頭に置きますが、価格を前面には出さず、現有するNB商品にはない品質や付加価値、PBが持つ情緒的な価値を推し出しているというのが当社の特徴だと思います。

当社は、当時の大手GMSが、価格訴求を重視したPBを“PB第1世代”と呼んでいます。その後、大手コンビニエンスストアを中心としたグループが2007年にプレミアム系PBを生み出し、2013年に食パンを発売しました。東日本大震災以降の消費動向の変化により、コンビニエンスストアを利用する女性や年配の方が増加したことで、NBと比較して、値段は高くなりますが、格段に美味しくなった商品を受け入れた生活者を中心に、PBに対しての世の中の見方が価格的な価値だけではなく、品質や機能的価値にも意識を置くように変わった大きな転換点であったと思います。

こうした状況を踏まえて、2015年にリブランディングする際には機能的価値・品質だけではなく、当社は「使うと楽しい気持ちになる」「おしゃれ」「マツキヨらしさ」などの情緒的価値を重要視したブランドとして「matsukiyo」ブランドを生み出しました。現在は“新時代のPB”として「matsukiyo」の磨きをかけているところです。

最近では徐々にPBとNBの境目がなくなりつつあると感じます。特に当社PBは忖度無しで有名な某美容誌のような今までNBのみしか掲載されなかったようなシビアな雑誌から評価いただけるようになりましたし、お客さまからも「NBだから、PBだから」ではなく、「自分にとって良いもの」としてお選びいただけるようになりました。


「PBに求められる役割とは?」
ユーザーニーズへの対応と企業理念の存在


「ユーザーニーズに応えられるか?」「企業理念を具現化できるか?」「ストアブランドのイメージ向上に繋げられるか?」がPBを開発する上で大切な判断基準


――PBを開発していく上で重要視している点をお聞かせください。


櫻井氏 当社は「PBに求められる役割とは?」という考えを重要視しています。一般的に、PBは競合との差別化や来店客数増大などが役割とされており、もちろんその一面はあるのですが、当社はPBを開発する上で「ユーザーニーズに応えられるか?」「企業理念を具現化できるか?」「ストアブランドのイメージ向上に繋げられるか?」を大切な判断基準にしています。

初代「アルジェラン」は「ユーザーニーズに応える」という思いで開発されました。当時、オーガニックコスメは百貨店や専門店で販売されているハイブランドが大半で、手軽に購入できる商品がありませんでした。これを「ドラッグストアで、手軽に提供したい」と考えたのが「アルジェラン」のスタート地点です。まだまだ規模が小さく、大手メーカーさまも参入していない市場でしたが、PBとしては十分な規模だったため、この市場に“デイリーオーガニック”というコンセプトで、初代「アルジェラン」を投入しました。その後、「アルジェラン」は好調に売れていき、他の様々なメーカーさまからも気軽に購入できるオーガニックコスメも登場しました。当社には「アルジェラン」を武器に、この市場をリードして活性化し、拡大に寄与してきたという自負があります。

「企業理念を具現化できるか?」という視点において、当社は2023年4月に新たなPBブランド「iisam(イイサム)」の展開を開始しました。これは男性向け韓国スタイルのメイク商品です。当社には「未来の常識を創り出し、人々の生活を変えていく」「美しさと健やかさを、もっと楽しく身近に」という理念やビジョンがあります。この理念とビジョンに合致するPBだったら開発するべきという判断基準のもとで「イイサム」の開発に着手しました。 


同社の理念とビジョンに合致し開発された、男性向け韓国スタイルのメイク商品の新PBブランド「iisam(イイサム)」


現在、男性メイクの市場は10数億円という小さな規模ですが伸び率が顕著ですし、若い20〜30代のメイクアップする男性が少しずつ増えてきています。男性のメイクアップはまだまだ少数派ですが、未来の常識になる可能性は大いにあります。これも「未来の常識を創り出す」という当社の理念と合致しています。また、「簡単、韓国」というコンセプトを持たせ、より男性メイクを「もっと楽しく身近に」感じてもらえるようなラインナップで展開しています。


PB開発で最重要項目は「商品企画」
「レシピオ」が成功した要因


――貴社グループのPBはどのような手順を踏んで開発されるのでしょうか。


櫻井氏 当社はPB開発に向けて、「商品企画」という商品のイメージを作る工程と、それを具現化する「商品開発」を分けて考えています。「商品企画」は、「アイデア創出」「見せ方設計」「売り方設計」の3つのフェーズによるもので、これを経てから「商品開発」に移行します。


――「商品企画」は、どのような実務があるのでしょうか。


櫻井氏 「アイデア創出」では「PBアイデア創出コミッティ」という組織を作り、店舗従事者からアイデアを吸い上げる仕組みを作っています。店舗からPBアイデアを考えたい人材を公募して作られた組織で、店舗スタッフを中心に毎年メンバーを変更しています。通常、PBは商品開発担当がメインで担当していますが、市場分析や商談、情報収集など日常的な業務をしていると、どうしても先入観や常識、思考がメーカー寄りになってしまいがちです。一方で店舗スタッフのコミッティメンバーは、一般的な店舗でいうと約2万SKUの商品に囲まれ、直接お客さまと関わりながら仕事をしています。「2万SKUの商品があるのに、このニーズに合致する商品がない」ということに気づける強みがあります。商品開発担当者はデスクワークも多くなりますので、コミッティメンバーからのアイデアや情報、意見は大いに役立ちます。

商品の「見せ方設計」では、まずSTP(セグメンテーション、ターゲッティング、ポジショニング)設定をしますが、顧客分析はとても大切な要素となります。一般的なメーカーさまは商品開発において生活者へのアンケート調査などを行いますが、当社はビッグデータを中心とした社内資源を活用している強みがあります。

特に、このフェーズで特徴的なのは「商品DNA分析」を使っていることです。例えば、分かりやすく説明すると、家族のイラストの入ったハンドソープがありますが、この場合は意識スコアの中で「家族優先」というスコアに比重が高く置かれています。これと同様に、商品には様々な意識スコアを設定し、「この商品を購入しているお客さまは、どんなお客さまだろう」ということを分析するのが「商品DNA分析」となります。

これらを駆使して開発したのがコーセーさまと共同開発した「レシピオ」です。当社が保有する1億4,000万以上の顧客接点から得た購買データと「商品DNA分析」などを活用し、ターゲット層とKBF(購買決定要因)を明確化し、商品コンセプトやプロモーション方法など自社からはマーケティングを共有し、コーセーさまからは「透明感ケアアミノ酸」(味の素と共同で開発した素材)といった研究技術を商品に活用いただき、共に開発していきました。その結果、発売後、数カ月のデータを見ると、「レシピオ」はNBとの競合がほとんどなく約9割が新規のお客さまとなり、敏感肌カテゴリーを30%以上も伸長させることができました。


NBとの競合がほとんどなく約9割が新規客、敏感肌カテゴリーを30%以上も伸長させた「RECiPEO(レシピオ)」


商品の「売り方設計」では、まず「レシピオ」ではLPを制作し、LINE配信やアプリのプッシュ配信をしました。特にアプリプッシュ配信は、マーケティングの自動化により、商品を使い切る30日後に、購入したお客さまそれぞれのタイミングで詰め替え商品の提案をさせていただきました。売り場では動画を流すなどで連動させ、デジタルプロモーションとリアル店舗でのプロモーションを融合し、お客さまが手に取りやすい環境を醸成しました。プロモーションも「認知→興味促進→来店促進→棚前への誘導→購買→第3者への共有→リピートプッシュ→リピート購入」という一連の流れの中で、各段階においてメニューを用意し、これを最大化させることが当社の「売り方設計」の強みでもあります。


NBと競合しないPBを生み出し、
カニバリせずに新市場を掘り起こす


――現在貴社グループのPBは1,800SKU以上、売上構成比も13%弱と増加傾向にあります。その内訳をお教えください。また、PBのラインナップ拡大についてはどのようなお考えをお持ちでしょうか。


櫻井氏 内訳については非開示なのですが、当社は競合他社と比較すると化粧品の構成比が圧倒的に高いという事実があります。これは多くの女性ユーザーから当社は利用いただいていることの表れであり、今後も女性のライフスタイルを支える市場が主戦場となるのは言うまでもありません。化粧品はもちろん、ボディメイク、ロカボ、インナービューティなどの領域にターゲッティングし、市場を見つけて掘り下げていく方向性です。それに加えて、先述した「イイサム」のように当社の理念に合致するコンセプトに沿ったPB商品も開発していきたいと思います。


――いつの時代にもPBとNBは比較されがちです。両者のシナジーを最大限に生かすためには、どのようなPB開発が必要になるでしょうか。


櫻井氏 NBと類似したPBを開発し、お客さまにスイッチを促すのは、確かに利益は改善するかもしれませんが、カテゴリーの売り上げ自体は伸長しませんし、NBよりも安価なPBの場合ですとシュリンクする懸念も出てきます。それは市場にとって良いことではありません。「レシピオ」のようにNBと競合しない新たなマーケットとしてのPBを生み出し、カニバリしないことを意識することが重要だと考えています。


――「指にまきやすい絆創膏」が発売されたときは、SNSやニュースなどで大いに話題となりました。9歳の女子とのコラボレーションは大変面白く、社会的にも意味があると感じました。こうしたコラボの着想をお聞かせください。


9歳の女子とのコラボで開発された
「指にまきやすい絆創膏」


櫻井氏 当社も、メーカーさまも「絆創膏のパッドは真ん中にあるのが当たり前」と考えていました。絆創膏を作る工場の現場を知っていると尚更で、メーカーさまはパッドを真ん中に置くために企業努力は惜しみませんし、少しでも真ん中からずれてしまうと不良品扱いになるため、それを防ぐために細部までチェックできるセンサーで読み込み、効率的に良品を製造しています。

ですから、最初に小学生が「世界青少年発明工夫展」で受賞したニュースを見た瞬間に、「これは当社としてやるべきだ」と感じました。「巻きやすくするためにパッドをずらす」という固定観念にとらわれないアイデアは、当社の理念である「未来の常識を創り出し、人々の生活を変えていく」…。まさに、これを体現するものだと思いました。すぐに受賞した小学生にアプローチし、メーカーさまを説得して、なんとか商品化することに成功しました。


――貴社グループPBの商品力の高さが、消費者だけではなくOEM・原料メーカーさまからも大いに注目され「ぜひ開発を共にしたい」と考える企業が増加しています。PB開発にあたって、どのようなメーカーさまとコラボレーションしていきたいとお考えでしょうか。


櫻井氏 当社と共に、NBでは満たされていない細かなニーズに向けて、市場創出・拡大に取り組んでくれるメーカーさまや、そうした思いや考えがあり悩んでいるメーカーさま。そして、未来の常識を変えるようなアイデアや技術、素材などを保有しているものの、「まだ商品化できない」「どういう商品にしたらいいのか分からない」と悩んでいるメーカーさま。当社は、顧客のデータ分析やマーケティング策など持っていますので、これらを活用し、ぜひ一緒に仕事をしたいと思います。


――ありがとうございました。