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特別インタビュー JACDS・田中浩幸 事務総長

10兆円はあくまでも通過点
健活ステーション実現で、さらなる発展目指す


好調に推移するドラッグストア業界。この業界を「いかに健全に成長させていくか」、その土壌・道筋を作っているのが一般社団法人日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)だ。10兆円産業化を目前とするドラッグストア業界だが、現在は2030年に向けて「健活ステーション」の実現化に取り組み、ドラッグストアの社会的役割を広げようと注力している。物価高や負担増など厳しい社会情勢の中、着実に成長を遂げるドラッグストアにおいて、「健活ステーション」「食品拡充」「医薬品登録販売者」などのキーワードが注目されており、今回、JACDSの田中浩幸事務総長にインタビューをお願いした。(記事=佐藤健太)


22年DgS業界規模は8兆7,134億円


JACDS 田中浩幸 事務総長

――JACDSは設立当時から「2025年、10兆円産業化」という目標を掲げてきましたが、現在はどのような立ち位置にいるのでしょうか。


田中事務総長 当協会が実施した調査で、2022年のドラッグストア業界の規模は8兆7,134億円(381社2万2,084店舗)ということが明らかにされており、このペースで進んでいけば、10兆円産業化は現実のものとなり、2030年には13兆円規模になると見通すことができます。

これは、調剤と食品の好調が、ドラッグストア業界の規模拡大を牽引してきたことが大きく、人口減少や高齢化という問題はありますが、それを踏まえても10兆円には到達するでしょう。かつてJACDSは10長円産業化を目標に掲げてきましたが、現在、私たちはその先を見据えた業界活動に取り組んでおり、「10兆円はあくまでも通過点」という見方をしています。


高まる予防領域への注目とJACDSの方策


――現在の取り組みについてお聞かせください。


田中事務総長 JACDSは2020年に一般社団法人となり、「尊敬される企業集団になる」というビジョンのもとに、生活者の健康な暮らしの窓口となる機能について議論してきました。2022年10月には「健康生活拠点化推進計画」を発表し、「受診勧奨スタッフの育成」「食と健康アドバイザーの育成」「食と健康売場の強化」「ヘルスチェックサービス対応」「プラ容器回収プラットフォームづくり」などに取り組み、次世代型ドラッグストアに向けて動き始めました。

現在は、より分かりやすく「ドラッグストアの健活ステーション化」という目標を掲げ、2030年を1つのゴールに設定しています。2017年に設置した「街の健康ハブステーション推進委員会」は「健活ステーション推進委員会」に名称変更して中核を担うという形を取っています。ですが、単純に「街の健康ハブステーション構想」の延長上にあるのではなく、変化に可及的速やかに対応し、その時々の今を生きる生活者や社会に求められるドラッグストアを作り上げていくことをコンセプトにしています。

特に、医療費・薬剤師の高騰によって、予防領域への注目が高まっています。もちろんドラッグストアは医療の担い手として調剤や在宅医療に取り組んではいますが、そもそも病気にならない健康な身体づくりや、少しの不調や日々の健康管理などの相談窓口として機能していくことで、社会にとっても、多くのお客さまにとってもお役に立てると思いますし、私たちにとっても「ドラッグストア業界の発展」という意味合いでも大きなメリットがあると位置付けています。

これまでドラッグストアは、食品強化やインバウンド需要、面分業をフォローする調剤、コロナ需要など様々な要素を味方につけることで業界規模を順調に拡大させてきました。当協会の加盟企業・事業者の方々は、「健活ステーション化」などの実現について、ハードルが高くなると考えているように感じますが、それが結果的に商品の販売につながるインキュベーション機能につながりますし、お客さまの潜在需要を掘り起こす“生む力”の醸成にもつながると認識しています。


ドラッグストアはなぜ支持されているのか?


――コロナ禍を振り返ると、ドラッグストアはワンストップショッピングの場として、そして、気軽に購入できる価格帯の商品を多く取り扱い、以前よりも多くのお客さまからの信頼を得てきたように感じます。


田中事務総長 ドラッグストアは、物価高や増税、その他の厳しくなる社会情勢の中で成長を遂げてきた数少ない業界でもあります。そこで「なぜ支持されているの?」という疑問に対しては、店舗が日々の生活導線に組み込んでいただけて、日々の買い物でお客さまから「買って良かった」と感じていただいているから、という要素が強いと思います。業界が、いくら高尚な言葉を出したとしても支持を得ることはできません。このドラッグストアの基礎的な部分は違ってはいけませんし、JACDSの加盟企業は「ドラッグストアに行けば、解決する」という大前提をかなり重要視しています。

そんな中で、原材料や仕入れ価格の引き上げは、国の政策として誘導されている一面もあり、それを理解しないということではありませんが、闇雲に商品に転化するという前提はありません。ある意味、政府の施作に理解を示しながらも、私たちが行ってきた取引慣行の中で販売価格の低減化を目指すという姿勢には変わりませんし、今後も「良い商品を、手に入れやすく」という小売業の基本から外れることはないでしょう。


ドラッグストアが選ばれ続ける業態になるには


――ドラッグストアの食品売り場を見ていると、以前よりも洗練され、SKUの増加に伴って、ユーザーも商品を選べるレベルまで来ています。日々進化するドラッグストアの食品カテゴリーですが、田中事務総長はどのように見ておりましたか?


田中事務総長 ドラッグストアが食品を強化してきたのは「集客・来店頻度に大きく影響する」という意味合いが大きく、そのためにMD構築を急務としてきました。生鮮三品に関しても、もちろんニーズは高いのですが、かつては鮮度維持や技術的なバックアップについてドラッグストアではハードルが高いと見られていました。

しかし、時代が流れていく中で、技術的なフォローアップが進み、少量用で鮮度を保ちながらの生鮮食品の提供が、かつてほど難しくなくなってきました。それに加えて、高齢化と人口減少が進み、さらに1世帯あたりの人数も減り、老齢の夫婦や単身世帯もどんどん拡大しています。そうなると魚1尾やキャベツ1個をまるまる欲しいというニーズが減少してきます。少量パックを得意としてきたドラッグストアと、お客さまや社会からのニーズが合致してきたというのもドラッグストアの食品取り扱いの追い風になったと思います。

現在では、業態のバリエーションが増え、ドラッグストア自体の店舗数や露出度も高まっており、その中で差別化を図るのはとてもハードルが高くなっています。業態や店舗の数が増加すると、お客さまは買い場を取捨選択しますし、当然選ばれない店舗も出てきます。

こうした中で、「お客さまが店内で商品を選べる」ということはとても大切であり、難しいことだと思います。ある意味、お客さまと店舗の刺激のし合いであり、一歩間違えれば、かつてのスーパーマーケットのようになってしまいます。軸足を店舗の収益に寄せてしまい、可能な限り売れ筋商品に絞ってしまうと、逆にお客さまに選ぶ楽しさ・利便性を提供できなくなり、来店ハードルを高めてしまいます。

現在のドラッグストアを見ていると、それを極端に拡げたり、狭めたりするのではなく、お客さまのニーズを探りながら、拡縮を図り今に至っています。それは日々変化していくものですので、「これが成功、これが失敗」という答えはありませんが、お客さまから多くの店舗がふるい落とされている中で、ドラッグストアが選ばれている理由は、お客さまのニーズと真面目に向かい合ってきたからであり、それが価格への期待感へとつながっているからこそ、ドラッグストアが多くの方々から愛され、信頼され、結果的に業界規模が広がっていることの、現時点の理由であると考えられます。


医薬品登録販売者はリアル店舗の独自性を醸成するキーパーソン


――来年(2024年)で、医薬品登録販売者が誕生してから15年が経過します。


田中事務総長 JACDSは1999年に設立しましたが、業界が団結した大きな理由は「薬剤師不在問題」でした。これまで自分たちが取り組んできた商売が制度的に否定され、危機的状況に陥り、そして当時のドラッグストア業界の経営者たちは「新たな制度を作ろう」と受け入れることを決め、自分たちのアクセルに転換しました。2009年に当時の薬事法が改正され、医薬品登録販売者制度やOTC医薬品のリスク区分がスタートし、これらは現在のドラッグストア業界の発展に大きく寄与し続けています。


――極端な話、「医薬品登録販売者がいなくても、OTC医薬品を売れるようにしたい」など外部からの声もあるようですが、田中事務総長としての見解をお聞かせください。


田中事務総長 医薬品登録販売者の存在が意味を持たないという状況を要望しているとすれば、それは、この国にとって大きな損害となるでしょう。JACDSは、医薬品登録販売者を貴重な医療従事者に育てていかなければと考えていますし、そうした活躍ができる環境整備と人材育成をしていくことは当然です。「デジタル技術を使って、要指導医薬品やOTC医薬品を販売できるようにしてください」という要望については、厳密に言うと、「医薬品を売るための医薬品登録販売者の人数が減る」という解釈であって、「医薬品登録販売者は不要です」というものではありません。

当然、私たちドラッグストアは医薬品を提供する重要な業界ですし、現場に携わっている医薬品登録販売者の皆さんはリアル店舗の独自性を醸成するキーパーソンです。どれだけ彼らを重要視したとしても、し過ぎるということはありません。少なくとも2040年に向けて医療従事者がどんどん減少していく国の事情と、私たちが2030年に向けて具体化していく「健活ステーション」の構想は、ある意味同じ方向性で向かっており、それを形作る医薬品登録販売者は、国や行政の視点でも、ドラッグストア業界の視点でもキーパーソンになるのは間違いありません。「30万人もの医薬品登録販売者は、もっと国として活用できる存在である」ということを、JACDSは訴えていきたいと思います。


広げたい医薬品登録販売者の活躍と活用


――JACDSは医薬品登録販売者の価値や重要性について、どのような情報発信をしていますか。


田中事務総長 政府の検討会の中で、OTC医薬品販売の現場で、どのような事例があるのかを発表させていただきましたし、ドラッグストアショーのセルフメディケーションアワードでも、厚生労働省の医薬局や医政局、学会関連のドクターをお呼びし、医薬品登録販売者が医薬品の濫用防止に貢献していることをお聞きいただきました。

今年のセルフメディケーションアワードでは、「受診勧奨の重要性」というテーマを表彰させていただきました。漠然と「医薬品登録販売者が何のためにいるのか?」ではなく、「医薬品登録販売者によって救われた方々がいる」「店舗の信頼性が高まった」という好事例を知らせた上で、その背景に何あるのかを私たちが認識し、医薬品登録販売者自身に「自分たちだからこそ救えた」という認識を広げてもらう。そうすることでモチベーションが高まりますし、救える裾野が広がっていきます。それが生活者に伝わっていくことで、医薬品登録販売者の、彼らが店頭で活躍するドラッグストアの、価値は高まっていくものだと思います。


――ありがとうございました。