ヘルスケア情報サイト「Hoitto! ヘルスケアビジネス」(ヘルスケアワークスデザイン株式会社)


薬剤師や管理栄養士、医療事務など、
個々の専門性を高められる店舗環境を作っていきたい

――医食同源。言葉の通り、「健康増進には医も食も欠かせない」ということだ。私たちが従事する保険薬局業界やドラッグストア業界においても、近年、「医食同源」という考え方を重要視し、管理栄養士を積極的に雇用している企業が増加傾向にある。医薬品のプロフェッショナル・薬剤師、そして、食を中心とした栄養学のプロフェッショナル・管理栄養士の手腕を活かし、医と食の両面をサポートし、治療から予防・健康寿命延伸に対応する地域のヘルスケアを支える拠点。これが超高齢社会における薬局の理想像であるのは間違いない。神奈川県や東京都を中心に保険薬局を展開する薬樹も、この理想を追求する企業の1つだ。同社で特徴的なのは、管理栄養士をストアマネジャー(店長)に登用し、管理栄養士の活動だけではなく、薬局全体のマネジメントを任せていることだ。2016年からスタートした取り組みで、現在7店舗(正確な数字をお願いします)となる。今回、薬樹薬局宮前平2号店(川崎市宮前区)のストアマネジャーで管理栄養士の幾度さんに、ストアマネジャーとしての仕事に対する姿勢や、管理栄養士としての取り組み、思いを聞いた。(取材と文・佐藤健太)


――現在、幾度さんは管理栄養士・ストアマネジャーとして薬局で活動していますが、キャリアを簡単にお聞かせください。


管理栄養士とストアマネジャーを務める幾度さん

大学生時代から在宅医療に関心があり、病院実習などを経験しましたが、なかなか在宅の栄養指導まで手を付けられないという現状を知りました。だからこそ薬局による訪問栄養指導に可能性を感じ、患者さま宅などに訪問する管理栄養士に憧れ、就職先を薬局に決めました。

当時は住んでいる地域で在宅医療に取り組んでいる薬局がありませんでしたが、就職活動をしていく中で、訪問からセルフケアまで幅広い役割を担う薬樹と出会い、入社に至りました。入社後は訪問薬樹薬局などの勤務を経て、2020年7月に現在勤務している薬樹薬局宮前平2号店(入社3店舗目)に赴任し、ストアマネジャーに登用されたというのが大まかな流れです。


――保険薬局に勤務する管理栄養士として、どのような意識を持って仕事と向き合っていますか。


入社したばかりのころは、栄養指導の形も固まっていませんでしたし、1日に100名以上の患者さまに「栄養指導をしてみませんか?」とお声がけをしても2、3件ほど。「薬局の管理栄養士は本当に求められているのかな?」と正直な気持ちで不安もありました。

ですが、店舗で関係を構築した患者さまがイベントに足を運んでくださったり、気軽に来店して悩みを話してくださったり、一人の患者さまの健康サポートに長期間にわたって携わることができ、「地域の患者さまと繋がれるということが、薬局に管理栄養士が存在する意義なんだ」と意識を持つようになりました。


――これまで薬局店頭で活動をしていて、栄養指導など、管理栄養士としての取り組みで難しいと感じる部分はありますか。


対応が難しいと感じたのは腎機能が低下している患者さまです。管理栄養士として学習していくと「腎機能低下=たんぱく制限」というワードが出てきますが、ご自身で調べた患者さまから「たんぱく質は制限したほうがいいの?」とお聞きいただくことがあります。

もちろん管理栄養士として知識を持っていますし、ガイドラインも存在しているのですが、患者さまに合わせた栄養指導を確実に行なっていくためには、よりドクターと連携していく必要があると感じます。「腎機能が悪い」ということで栄養相談を受けた患者さまが、栄養指導になるケースも多くあります。

管理栄養士の知識と言葉で患者さまの行動を変えていかなければなりませんし、そうしなければ患者さまのメリットにつながらない…。これが薬局に勤務する管理栄養士の難しさだと感じますし、それを乗り越え、患者さまのQOL向上に寄与できたときの嬉しさが私自身のやりがいになっています。

薬局に勤務し始めたばかりのころは、患者さまの話を聞き、「この方法がいいんじゃないか?」というご提案を一方的にしがちでしたが、ある程度の経験を積んだ現在は、「患者さまがどうしたいのか?」を第一に考え、そのニーズに合わせられる現実的なご提案をいくつか挙げ、その中からお選びいただくという形を取っています。そうするようになってからは、患者さまとの距離が近くなり、患者さまからも自分事として取り組んでいただけるようになったと感じます。


薬局に管理栄養士が存在する意義とは?
最も患者に近い管理栄養士=薬局の管理栄養士


――幾度さんはストアマネージャーも兼務しています。ストアマネジャーに登用される前後で、仕事に対する視点は変わりましたか。


確実に変わりました。ストアマネジャーは初めての経験でしたし、それまでは管理栄養士の知見を活かした料理教室など地域に向けたイベントを手掛けてきましたので、薬剤師や医療事務の詳細な仕事内容を理解していませんでした。ですが、ストアマネジャーとして薬局を運営していくには、自分(管理栄養士)以外の方々が、どのような仕事をしているのかを理解する必要がありましたので、それを知ることからスタートしました。

私が抱いていた薬局のストアマネジャーのイメージは「バリバリ仕事ができる薬剤師で、後輩もその姿を見ながら成長していく」というものでした。ですが、私は管理栄養士ですので同様のことはできません。そのため「どのように薬剤師や事務の皆さんと一緒に仕事をしていくべきなのか?」ということを深く考え、心掛けるようになりました。

ストアマネジャーとして「薬剤師や管理栄養士、医療事務など、店舗に勤務しているスタッフの個々の専門性を高められる環境を作っていきたい」という目標を、当初から現在も変わらず持っています。店舗スタッフには十分に能力が発揮できるフィールドを提供しながら、店舗体制を構築していきたいと考えています。

スタッフ一人ひとりが持つ「どんな仕事をしたいのか?」「何を頑張りたいのか?」という思いに対して、「ストアマネジャーがどのようにサポートしていけばいいのか?」を最優先に考えるようにしています。それが働き甲斐につながっていきますし、スタッフのスキルアップ、薬局全体のレベルアップ、そして最終的には患者さまのQOL向上に直結していくといったビジョンを常に持っています。


――管理栄養士として薬局店舗で実施しているイベントや取り組み、その狙い、今後の目標についてお聞かせください。


宮前区は、区内で活動する管理栄養士・栄養士が連携できるネットワークづくりを強化しており、その一環として食育推進分科会を組んでいます。昨年から薬樹薬局も委員に選ばれ、「食育キャンペーン」などに参加し、昨年10月に宮前区役所のロビーへのポスター掲示を実施しました。これは区民に向けた食育の普及啓発を狙ったものです。

管理栄養士によるイベントは、薬局の管理栄養士を身近に感じていただける良い機会にもなります。私は、薬局の管理栄養士は、地域の皆さまから一番身近な管理栄養士であるべきだと考えています。店頭活動やイベントで、地域の方々に管理栄養士を身近に感じていただき、「薬局の管理栄養士は地域の方々がいつでも気軽に相談いただける存在(場)になれるという可能性を大切にチャレンジし続けたいと思います。


――ありがとうございました。