ヘルスケア情報サイト「Hoitto! ヘルスケアビジネス」(ヘルスケアワークスデザイン株式会社)

ヘルスケアレポート ウエルシアHDが展開する調剤ビジネス


カウンセリング力と商品提案力に人財力を付加し
“未病・予防・治療・介護のプロ”として
地域の健康ステーション戦略を強化

ドラッグストアランキング1位のウエルシア HDが、処方箋調剤、深夜営業、カウンセリング、介護を4本柱とするウエルシモデルの実践で年商1兆1442億円(2023年2月期)を達成した。中でも注目すべきは、年商の20%を占有する処方箋調剤部門だ。コロナ禍による受診抑制、薬価・調剤報酬改定など、市場環境が厳しくなる中、処方箋枚数が増え、調剤部門の売上げも二桁成長を続けている。同社では、さらにカウンセリング力と商品提案力に人財力を付加し、“未病・予防・治療・介護のプロ”として地域の健康ステーション戦略を強化する方針だ。記事=ヘルスケアジャーナリスト 瀬戸 寛(せと かん)


■増収・増益に貢献し年商の2割を占有し2200億円


JACDS(日本チェーンドラッグストア協会)の調べによれば、2022年度におけるドラッグストアの売上高は、前年比2%増の8兆7134億円、このうち処方箋調剤額は前年比9.1%増の1兆2811億円。最近4年間における伸長率は表1の通り。2019年度の7兆6859億円から2022年度に8兆7134億円、伸び率は13.4%(1兆275億円)、調剤報酬額は9807億円から30%アップ(3000億円)し1兆2811億円となった。



一方、ウエルシアが明らかにした2022年度の業績は、売上高1兆1440億円(前年比11%増)、売上げ総利益率3493億円(同8.8%増)、営業利益456億円(同6.1%増)だが、増収・増益に貢献したのは品目別売上げ構成比で20%を占める処方箋調剤部門。この4年間で処方箋枚数が37.1%増え585万5000枚、売上げは46.7%増の2281億円と大幅に進展している。(表2)




1965年時点の処方箋受け取り率(医薬分業率)は11%だったが、今や75%を超し、まもなく80%に到達する。ウエルシアの処方箋調剤ビジネスは、最近4年間で二桁成長を続けており、これからの経営の柱の一つとして期待されている。創業者の鈴木さんが、処方箋調剤の将来性を見据えて取り組んだ“先見性”を再認識したい。


■処方箋を持参する患者を優良顧客化するサービスを提供


記者会見で語る池野隆光会長(左)と松本忠久社長(右)


「新型コロナ感染は、今まで経験したことがなく世の中の常識が大きく変わった。この流れは今もなおリセットされることなく続いているが、この変化を、どう受け止め店舗運営を通じ改めて地域に住む人々の豊かな社会生活を提供していくか。その重要性を実感しており、コロナ禍による受診抑制にも対応したい」(ウエルシアHDの松本忠久代表取締役社長)

近年、ロボット調剤の導入、電子処方箋や服薬指導体制のDX推進もスタートするなどウエルシアでは超スピードで進むデジタル化の波への対応、24時間応需体制で処方箋調剤に取り組む店舗をはじめ調剤併設型店舗を増やしてきた。

特にウエルシアの店舗展開で目立つのが、処方箋を持参する患者のロイヤルカスタマー(優良顧客)化に結びつく戦略だ。来店客の体と暮らしのために高付加価値で必要とされるPB商品の開発・拡販に加え、生鮮食品を中心とした食品強化型店舗、健康チェックコーナーの増設だけでなく、医療過疎地区における高齢者ニーズを踏まえた移動販売車等々、新たな店舗フォーマット、介護事業の積極展開に注目したい。

加えて2021年、千葉市内の幕張に新設されたイオングループのイオンタウンが運営するショッピングセンターの1階に出店したウエルシアは、2階に誘致された医療機関や近隣の医療機関から発行される処方箋を応需し地域住民の在宅医療ニーズにも応え、都内の店舗内には独立した形で医療機関が同居するなど、医師の診察と処方箋調剤機能を融合したケースもみられるようになった。

こうした店舗展開は、定期的に年間2164万枚の処方箋を持参する患者をロイヤルカスタマーとして受け止め、ワンストプショッピング機能を最大限に活用し、健康で快適な暮らしを提供することで来店頻度を増やすための武器となっていることは見逃せない。


■いつでも調剤薬が受け取れる『薬受け取りロッカー』も設置


活躍する『薬受け取りロッカー』


ウエルシアが展開する調剤併設型店舗には、24時間体制で処方箋を応需する店舗以外に、いつでも処方箋薬を受け取ることができる『薬受け取りロッカー』が、259店舗に設置されている。事前に薬局ネット登録すれば、処方箋受付け、服薬指導、会計を済ませたら、薬剤師が調剤した薬を『薬受け取りロッカー』に入庫し、患者は薬剤師から伝えられたロッカーの暗証番号を入力すれば薬を受け取れる仕組み。

24時間、処方箋を応需するウエルシア薬局BBONの調剤室

「ウエルシアでは、オンライン服薬指導も行っており、時間を上手に活用しながら薬に関する悩みなどを相談できる」として、残業で遅くなったサラリーマンやOLにとっても便利だ。

同社では、自社のホームページ上で『薬の受取りロッカー』設置のメリットについて、次のように紹介している。

◇受付の手続きや調剤の時間を待つ必要はありません。自分の都合の良い時間に薬を受け取れるので、忙しい方も時間を有効活用できて便利です。

◇薬局が閉まっていても、物販(売場)は24時まで開けている店舗が多いので、買い物をするついでに『薬の受取りロッカー』を利用することができます。もちろん閉店後でも使えるので、働き世代にとっても便利で安心。

◇暗証番号を入力すれば、ロッカーから薬を受け取れますので、薬局の待合室で待つ必要も人と接触することもありません。コロナ禍でも安心して薬局を利用することができます。

このロッカーの設置店舗は、まだ259だが、メリットを体験した使用者からの口コミで徐々に広がっていくだろう。


■2030年を見据え新中期経営計画にアセアンNo.1ドラッグへの挑戦


2021年度にドラッグストア初の売上高1兆円、2022年に1兆1442億円を実現したウエルシア。次年度(2024年2月期)には店舗数2847、調剤部門は調剤併設率78.5%(2182店)、調剤売上高前年比11.7%増の2548億円、売上高は7.5%アップの1兆2300億円を見込み、2030年を見据えた新しい中期経営計画については、2026年度2月期に店舗数2970、売上高1兆5000億円、2030年には3兆円を目指す。



「当社に働く8000人の薬剤師をはじめ有資格者が、地域の人々のヘルスケアニーズに対応し、今日より明日が、さらに良くなっていることを常に思いながら、様々なことに取り組みたい」と語る池野隆光代表取締役会長、そして松本忠久社長は、「生活者が安心して暮らせよう地域NO.1の健康ステーションを目指す」として今後について次のように述べている。

「ドラッグストアは、地域住民にとって楽しく健康な生活を応援するコミュニティの場であり、“未病・予防・医療・介護”のプロとして信頼される健康ステーションでありたい。そのためにも、既存事業を進化させ、ウエルシアモデル、特に処方箋調の推進へ併設型店舗が初めて2000店舗を越したことで、調剤併設率を74.7%から80%、専門の人財教育の強化、地域医療で必要とされる薬剤師を養成し、様々な来店客のニーズへスピーディに対応していく。調剤売上げ構成比は19.9%から25%へ、さらに地域と医療との連携を進めたい。

売上げの回復が見込まれる化粧品のカウンセリング強化、深夜営業に介護を加えた4本柱のウエルシアモデルに、さらに専門性に磨きをかけ、地域住民の健康・生活に寄り添い支える一気通貫のプラットフォームでありたい」

松本社長は、国内の店舗展開だけでなく、海外への展開も積極的に進め、「ウエルシアモデルをさらに進化させアセアンNo.1ドラッグに挑戦したい」と話している。

ウエルシアは、2017年3月にアセアンの拠点として注目されるシンガポールに合弁会社(ウエルシアBHGを設立し、調剤併設型ドラッグストアの展開をスタートさせ、現在13店舗のウエルシア。松本社長は、「100兆円を超える市場規模がありビジネスの成長が見込める」として、シンガポールに加えインドネシア、マレーシアにも海外事業を展開していく予定だ。


■歴代のトップに受け継がれている創業者のフィロソフィー


「差別化を以って戦わずして勝つ」―薬剤師創業者の鈴木孝之さんが残された“名文”だ。存命中、再三、取材に訪れてお会いした応接間に掲げられていた。この名文は、ウエルシアのフィロソフィー(経営哲学)であり、地域住民の健康と美の創造、快適な暮らしをサポートし地域NO.1の健康ステーションを目指すためのウエルシアモデル(処方箋調剤・深夜営業・カウンセリング・介護)として歴代のトップに受け継がれている。

1965年、埼玉県に小さな薬局を開局した鈴木さんは、「これからの薬局には処方箋調剤が不可欠になる」として、競合の兆しが見え始めていた医薬品小売業界にあって、早くから地域住民の健康と美を創造する調剤併設型ドラッグの必要性を見据えた店づくりに取り組んできた。

「薬局は、なんのために存在するのか」―鈴木さんは、薬局を運営する傍ら、多くの住民が集まる店を訪れていた。「商品がたくさんあって、来店客が楽しく買い物が出来て、しかも健康になるための方法を教えてくれる。そしてまた来店したくなる店」づくりのためだった。

「来店した人たちが笑顔になってほしい」と鈴木さんは、いつも店頭で来店客の悩みを聞き出しアドバイスをしていた。「何よりも来店客第一」の考えは、ドラッグストアの運営を始めてからも続いた。

2000年、イオンとの業務・資本提携を皮切りに、当時、193億円だった年商は急速に増え、23年後の今、1兆1442億円、成長率は実に59倍に達している。その大きな要因は、競合の波が押し寄せるドラッグストア業界にあって差別化の柱として実践してきたウエルシアモデルにあることは間違いないだろう。