ヘルスケア情報サイト「Hoitto! ヘルスケアビジネス」(ヘルスケアワークスデザイン株式会社)

男性更年期市場で発生した新たな動き
ドラッグストア企業の挑戦で市場活性化に期待大

ウエルシア薬局による男性更年期市場への挑戦


金蛇精

ドラッグストア業界における男性更年期市場に動きがあった。売り上げ規模で業界トップのウエルシア薬局の売り場では、「アリナミン」シリーズや「キューピーコーワ」シリーズなどが販売されている、滋養強壮系の売り場の最上段に、男性ホルモン・メチルテストステロン配合の「金蛇精」(第1類医薬品)が陳列されているのだ。しかも、POPで「男性更年期障害」という、今までドラッグストアでは見慣れなかったフレーズを用いて大々的に展開されていた。

筆者は、これまで5年ほどドラッグストアにおけるメンズヘルスケアについて取材を重ねているが、「男性更年期」という認知度の低さや、ドラッグストアが男性更年期で悩むユーザーの受け皿になるというハードルの高さから、大規模にチャレンジするドラッグストアは存在しなかった。あったとしても、男性用化粧品のキャンペーンくらいだった。それを業界最大手のウエルシア薬局が、風穴を開けるかのように取り組み始めたのだから、非常に嬉しかった。

この売り場を目の当たりにした際、「新たな市場を開拓し、一人でも多くの方々のヘルスケアにつながるような売り場を」と常日頃から語っているウエルシアホールディングスの池野隆光会長や、以前お会いした際に「より利便性が高く、かつ、より専門的に。ドラッグストアがこれを実現していくにはチャレンジ精神が不可欠」と語っていた松本忠久社長の顔が頭を過ぎり、「なるほど、こういうことか」と思わず頷いてしまった。


日本人の6人に1人が男性更年期障害の懸念あり


「金蛇精」の製造販売するのは、兵庫県明石市にある和漢薬をメインに取り扱う摩耶堂製薬だ。昨年Webで開催された、日本ヘルスケア協会の年次大会2022に参加し、同社・綾井博之社長が、男性更年期市場について以下のように語っている。



日本人の6人に一人は男性更年期障害になると言われており、その症状は多様。全身倦怠感や筋力低下といった肉体的な症状だけでなく、不眠やうつ症状など精神的な症状にも及び、それは概ね深刻かつ長期化してしまうという。

しかも、欧米では男性の更年期は広く認知されていて、調子が悪くなればホルモン補充療法というのも当たり前となっているが、日本ではまだまだ認知されていない。多くの働き盛りの男性が、長引く不調を抱えたまま、対処療法的に薬をいろいろ試してみたり、病院を転々としているという現状がある。

さらには、大手メディアがテレビ等で男性更年期を取り上げた際、「金蛇精」の商品紹介ページの閲覧数が通常の25倍から40倍に伸長し、同様に滞在時間も4分以上にも及んだという。これは、多くの生活者が男性更年期について悩んでいたり、興味を持っていることを物語っている。また、女性の更年期障害のOTC薬の市場は約50億円から70億円と言われている。もし男性更年期障害も同等の需要があるとしたら、巨大な潜在需要が手つかずのまま眠っていることになる。


男性更年期は女性以上にオープンに話しづらい空気がある


日本インフォメーションが実施したメンズウェルネスに関する意識・行動調査では、「特に『更年期』に関する内容は女性以上にオープンに話しづらい空気があるのが現状」ということが明らかになった。

悩みの有無に関しては、「肩こり・腰痛」33.2%、「視力の低下」29.6%、「体力の低下」29.3%と身体関連の悩みが上位3つを占める。また、40代後半からは悩みがあるという回答が多い傾向が見られ、40代後半は悩みを自覚しやすい境界線の年齢と思われる。一方、「特になし」も2割と一定数存在している。



悩みの改善意向・不安 ・理由(身体)については、「改善したいし、不安もない」では30代後半が最も多く4割。一方、「改善したいが、不安がある」「どちらとも言えない」「改善したくない」が8割と最も多いのが60代。30代後半は改善意向が高いものの、「正しいケアのやり方が分からない」41.0%(全体より+10.6pts)、「どうやって情報を得たらよいか分からない」31.1%(+12.0pts)と正しいやり方や情報収集に懸念があることが表出されている。



次は、抵抗がある・したくない改善策に目を向けてみよう。「抵抗がある・したくない」 では、「病院の受診(泌尿器科)」34.6%、「病院の受診(心療内科)」33.9%、「AGA治療」「友人への相談」32.7%が上位。自分自身でできることはやってみたいが、専門医とはいえ他人を介する改善策にハードルがあるようだ。



要するに、「男性更年期の症状を持っている生活者は多いが、正しいケアが分からない。そして、誰かに相談はしにくい」ということだ。ki

冒頭で取り上げたウエルシア薬局の取り組みは、この調査から浮き彫りになった懸念にも見事に対応している。滋養強壮系の売り場に1つの商品として陳列しつつ「男性更年期」を表示しているため、悩んでいる生活者自らが商品を手に取ることができる。さらに潜在層に対しても気づきを与えることにもつながっている。これまでタブー視され気味だった男性更年期に、一石を投じるものと言えるだろう。この輪が、他のドラッグストアにも広がり、一人でも多くの男性更年期で悩んでいる生活者のQOLを高めていくことに期待したい。

(記事=佐藤健太)