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人口最少県人口最少町「鳥取県江府町」プラネタリーヘルス拠点へ

「地域創生医 桐村里紗の プラネタリーヘルス」

第2回 人口最少県人口最少町「鳥取県江府町」プラネタリーヘルス拠点へ

こんにちは。

人と地球の健康「プラネタリーヘルス」をテーマに連載させて頂くことになりました。

地域創生医として、人口最小県の人口最小の町・鳥取県江府町を拠点に、日本のローカルから地球課題を解決していくことを目指しています、桐村里紗です。

江府町をプラネタリーヘルス推進拠点に

2022年11月14日、鳥取県江府町(町長:白石祐治)と、私が代表を務めるtenrai株式会社は、「プラネタリーヘルス」推進に関わる連携協定を結びました。

11月14日の調印式にて(左が白石祐治 江府町長)

鳥取県江府町は、中国山地の中でも古くから霊山として知られる大山の水源域にある「水の町」であり、サントリーのCMでもお馴染みの天然水の採水地の1つです。SDGs推進の取り組みの中で、水資源や豊かな自然の保全・再生を図るとともに、それらのフィールドを活用した環境教育などの実践により、未来をつくる人を育み、持続可能な社会の実現に取り組んでいます。 今回、ご縁を頂いて、「プラネタリーヘルス」推進のための研究開発、学び、実践のためのフィールドとして、江府町の住民と共に、町全体を使ってやりましょう!という連携・協力を図ることになりました。 

調印式同日のテープカットの模様

プラネタリーヘルスとは、相互に関連し依存し合っている人の健康と社会・地球の健康の関係性を捉え直し、全体の健全性を実現していく、国際的に推進される最も統合的でホリスティックなヘルスケア概念です。

本来、自然界はサスティナブルが当たり前ですが、人類が創り上げたシステムによってその循環が失われてしまったがために、人も地球も病気になっているというのが現状です。ですから、プラネタリーヘルスを実現するためには、分野を超えたマルチステークホルダーでの実践が不可欠になります。結果的に、産官学民連携による町づくりが必要になるため、私もその実装フィールドを求めていました。

今回、江府町が私たちを温かく受け入れて下さり、一緒にやろう!と町を開き、手に手をとりながら実践できることは、本当に大きいことなのです。

私たちは、江府町の古民家に住民票を移し、これから会社の本社も町から提供頂いた遊休施設に移し、江府町民として、江府町の企業として、プラネタリーヘルスを推進していきます。プラネタリーヘルス拠点は冬の間は内装の改修のため眠りにつき、春のオープンを目指しています。

人生初めての調印式とテープカットを行いましたが、笑いあり涙ありのアットホームな式典になりました。江府町から町長、町議会議長、グランドゴルフ愛好会会長、そして我々の研究室。東京大学大学院工学系研究科道徳感情数理工学から光吉俊二特任准教授が並んでくださいました。最先端の研究が日本の古き良きローカルで真価を発揮する面白い時代になると思います。

今後、地域の医療介護福祉施設や教育機関、様々な企業や団体、町民の連携をはかり、同時にプラネタリーヘルスの推進に関わる最先端の研究や技術、そして志のある内外のアカデミアや企業の仲間を巻き込んで、「鳥取江府モデル」というプラネタリーヘルスのローカルモデルを共創していきたいと考えています。

パフォーマンスだけの「SDGsウォッシュ」や「グリーンウォッシュ」はお断り。

歴史文化や気候風土を踏まえないハリボテを乗せても、必然性のないものは淘汰されるものだと思います。

日本古来の生き方こそプラネタリーヘルス

このエリアは、縄文の頃から人が暮らし、古来から精神的支柱であった豊かな霊山「大山」の麓に、渡来の技術や文化を融合しながら、人と自然の持続可能な関係性が築かれてきた 2 つの”火”の川流域の文明が繁栄した場所です。もののけ姫のモデルにもなった中国山地は、源流を同じくする日野川と斐伊川という2つの川の上流にたたら製鉄が栄えながら、川の氾濫を治水技術で治め、山に植林をして保水力を保ち、田んぼは人を養うと同時に里の生態系を豊かにしてきました。それらは古事記などの歴史書に伝承され、この流域の人の心に今も息づいています.

私たちのイメージを、地元のご住職が曼荼羅図にして下さいました。

『大山-火の川流域曼荼羅図』

この図は、完成ではなく、これからどんどんと進化発展していきます。

古来の日本の里山では、人が暮らしの中で、自然を保全、再生しながら共生する、サスティナブルな生き方が行われてきました。

それを忘れてしまったことで、人類の営みによって人は病気になり、社会は混乱し、自然が壊れていく世界にあって、今こそ、失われた日本古来の精神性や生き方をこの地の無形文化として継承し、最新の科学技術を裏付けながら、古くて新しい文明を再び築き上げることができたなら、きっと良い世界になると考えています。

プラネタリーヘルスは日々の暮らしの中に

今回、私たちは、ご縁があり、水と人に導かれてこの土地にやってきましたが、人それぞれに、結ばれる土地があるのだと思います。それは、「水が合う」ということなのでしょう。

同じ山から湧く水を飲み、その水で育った田んぼの米を食い、その水と米を使い土地の微生物に醸された酒を酌み交わし、共に季節の移ろいを感じ、その土地を身体化すること。これは1つの通過儀礼のように必要なプロセスだと感じています。

プラネタリーヘルスとは、自分と切り離された地球環境へのアプローチでは決してありません。それぞれの人がその土地の気候風土の中で、当たり前に暮らしを営むことで、その土地と循環していることを思い出すことが、大切な第一歩なのだと思います。

(つづく)

 

プロフィール
桐村 里紗 (Lisa Kirimura M.D.)

地域創生医/tenrai株式会社 代表取締役医師
東京大学大学院工学系研究科道徳感情数理工学講座共同研究員

予防医療から在宅終末期医療まで総合的に臨床経験を積み、現在は鳥取県江府町を拠点に、産官学民連携でプラネタリーヘルス地域モデル(鳥取江府モデル)構築を行う。地球環境と腸内環境を微生物で健康にするプラネタリーヘルスの理論と実践の書『腸と森の「土」を育てる 微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)が話題。

(次回「地域創生医 桐村里紗の プラネタリーヘルス」は2023年1月初旬に掲載予定です)

桐村里紗のプラネタリーヘルス 第1回「ヒューマンヘルスからプラネタリーヘルスへ」(https://hoitto-hc.com/2309/