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新連載「地域創生医 桐村里紗の プラネタリーヘルス」

 第1回 ヒューマンヘルスからプラネタリーヘルスへ

 病院の中で「病気のない世界」を実現できなかった

こんにちは。

人と地球の健康「プラネタリーヘルス」をテーマに連載させて頂くことになりました。

地域創生医として、人口最小県の人口最小の町・鳥取県日野郡江府町を拠点に、日本のローカルから地球課題を解決していくことを目指しています、桐村里紗です。

私は元々、「人が病気に苦しまない世界」を実現したいという思いがあり、医者になりました。

私が幼い頃から、母親が薬害に端を発する症状に苦しんでいた姿を間近に見ながら、病気が人の人生、そして周りの家族の人生の大きな足枷になることを実体験したためです。

医者になってまずは、大学病院や総合病院に勤務もし、自分の理想の医療を実践しようと開業したこともありました。

でも、気づいてしまったのです。病院の中にいても「病気のない世界」を実現できないと。

もちろん、予防医療的高度な検査の提供や、それを踏まえたアプローチも色々と用意しました。腸内フローラを解析したり、有機酸検査で尿から腸内や体内の代謝をみたりすると、個々人の食生活やライフスタイルについてのアドバイスができます。

それらが有効でないという訳ではありませんが、そうした人間個人へのアプローチだけでは、まだ、部分的な対症療法と言わざるを得ません。

 環境の変化から逃れては、心身を健康に保てない

社会を見渡してみると、どうでしょう。

どんなに科学が発達しても、糖尿病やがんなどの生活習慣病、メンタル疾患などが目に見えて減ることはありません。

むしろ、コロナ禍に、心身の不調が増加しています。

国立成育医療研究センターが行った全国26医療機関の子どもの心の調査で、コロナ流行前の2019年度と比較し、2020年度では、いわゆる拒食症(神経性食欲不振)の初診外来患者数が約1.6倍、新入院者数が約1.4倍に増加。

また、一般社団法人 日本生活習慣病予防協会が行った、40~60代の男女3,000人を対象にした調査では、コロナ禍になり、6割が生活習慣の変化を実感し、運動不足や甘いもの・食べ過ぎが節制できず3人に1人は体重増加を自覚していること。新たに「高血圧症」「脂質異常症」「糖尿病」などの生活習慣病を診断された人も増加したと報告されています。

コロナ禍の、この圧力鍋のようなプレッシャーの中にいる人類が気づいたこと。

それは、人は、環境の変化から逃れて、自分一人だけ心身を健康に保つことなどできないということです。

コロナ禍に出版したプラネタリーヘルスについての理論と実践の書である前著『腸と森の「土」を育てる〜微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)は、「ヘルスケアというエゴイズム」という衝撃的な言葉から、序文をスタートしました。

人は、周りを取り囲む環境と一体です。

人の健康と地球全体の健康は、密接に絡み合っています。

呼吸をし、水を飲み、食べ物を食べる。生命を維持するためのその当たり前の行為は、常に、外側の世界から取り入れたものでエネルギーをつくっています。

五感という感覚器官から入ってくる様々な情報が、意識をつくり、感情や思考を生み出しています。環境の変化に応じて、自律神経という装置を使って、今いる環境に必死に心身を適応させます。

生命は常に、外界とやり取りをすることで生きている「開放系(オープン・システム)」です。外界とやり取りしない「孤立系(クローズド・システム)」では生きることができません。

人のヘルスケアやウェルビーイングについて考えるとき、これまでのアプローチは、人に対してだけ、さらに、人の各臓器などの各部分にフォーカスしてきました。

これを「部分最適化」と言います。

でも、真実には、どの部分も、人の心身のネットワーク、さらに外側の世界の全体と繋がり合い、影響しあっています。

人を含む地球上のあらゆるシステムは繋がり合っているという前提の上で、「全体最適化」を行い、その結果、人という部分も最適化される。

これが「プラネタリーヘルス(惑星の健康)」という新しいヘルスケア概念です。

 求められているのは、一人一人の変化

この国際的な新しいヘルスケア概念は、2015年に科学誌『The Lancet』において提唱されてから、世界全体で推進されることが求められています。

随分、話が大きくて、途方に暮れてしまいそうですが、根本的に求められているのは、一人一人の変化です。

私たちを取り巻く環境は、随分と混乱し、私たちの心身を乱しますが、これらを生み出している原因は、結局、人の活動です。

孤独な人類が生み出した人類中心の社会システムの中で、ただ生きているだけで、人を含む地球が病気になっているという現状。

これを変えることができるのは、全体との繋がりを取り戻した私たち一人一人です。

日々の暮らしの中で、そして社会を構築するそれぞれの分野から、プラネタリーヘルスを実現するためにできることがあります。

ヒューマンヘルスから、プラネタリーヘルスへ。

この連載では、こうした視野から役立つ情報をお伝えしていきたいと思います。

プロフィール
桐村 里紗 (Lisa Kirimura M.D.)

地域創生医/tenrai株式会社 代表取締役医師
東京大学大学院工学系研究科道徳感情数理工学講座共同研究員

予防医療から在宅終末期医療まで総合的に臨床経験を積み、現在は鳥取県江府町を拠点に、産官学民連携でプラネタリーヘルス地域モデル(鳥取江府モデル)構築を行う。地球環境と腸内環境を微生物で健康にするプラネタリーヘルスの理論と実践の書『腸と森の「土」を育てる 微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)が話題。

(次回「地域創生医 桐村里紗の プラネタリーヘルス」は12月初旬に掲載予定です)

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