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認知症対策の早期アプローチは認知機能の“見える化”にあった

日本認知症予防学会の森下竜一代表理事に聞く『増え続ける脳フレイルへのセルフケア』



増え続ける認知症と軽度認知障害(MCI)。罹患者数は約1000万人(2022年度の厚労省調べ)、2040年には1200万人になると予想されており、脳のセルフケアの重要性が指摘されている。では自身の脳の健康状態を知り、脳を育てるためには、どのような手法があるだろうか。そうした課題に挑戦したのが、大阪大学発ベンチャー企業のアイ・ブレインサイエンスである。脳フレイルの早期アプローチに着目し、誰もが手軽にできる自身の脳の健康度測定に基づき脳を育てるコンテンツ機能を付加したアプリの普及が始まった。開発に関わった大阪大学大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学教授で、日本認知症予防学会代表理事の森下竜一氏は、「これからは、脳を測り、育て、増やす、認知機能を最大化していく“脳の資産”作りが認知症予防の鍵になる」と語っている。(取材・文◎ヘルスケアジャーナリスト・山本武道)

認知症にかからないよう、環境・地域・社会作りの0次予防が重要

――  医療の流れは治療から予防へと変革しつつありますが、中でも認知症の予防対策の重要性が指摘されています。日本認知症予防学会では、どのような活動をされてきたのでしょうか。

森下 認知症は、年齢に関わらず誰もがなり得る可能性があります、認知症と認知症予備軍の軽度認知障害(MCI)のある人たちを合わせると、有病率は27.8%、約1000万人(2022年度の厚労省調べ)、2040年には1200万人を超えるといわれていて、その数は増えていくことが予想されています。
 認知症予防学会は、認知症予防に関連する諸分野の科学的研究の進歩発展をはかり、その成果の社会還元を目的として2011年4月に設立されました。具体的には、認知症予防のためのエビデンス創出とそれに基づいた実践活動、認知症予防のための人材育成、多職種協働・地域連携を3本柱としているほか、「認知症予防」の普及啓発にも取り組んでいます。

認知症予防には、個人としての生活習慣を通じた一次予防、認知症の早期発見・早期治療・早期対応の二次予防、認知症になった後、重症化しないように、また合併症を発症しないようにする三次予防がありますが、そしてもう一つ大切なことは0次予防です。

認知症の治療には、新しい医薬品や診断技術が開発されているにも関わらず、患者数は増えていますから予防は不可欠です。しかし年齢が高齢化すればするほど、個人の努力だけでは難しいケースも少なくありません。

そのためには、個人の日頃の予防対策は大切ですが、国民が認知症にならないような環境・地域・社会作りが今、必要であり、それが0次予防です。

これまでの認知症検査の課題

――  厚労省では、上野賢一郎大臣が率先して健康寿命のさらなる延伸に向けて、“人生100年時代“をより良く生きるために「攻めの予防医療」に関わる施策を明らかにしていますが、その中には「認知症対策」も盛り込まれています。

森下 認知症対策で重要なポイントは、自分の認知機能の“見える化”です。国民自らが体重の変化を見るには体重計、血圧の状態を測定するには血圧計がありますが、そうした機器を使用した場合、日々定期的に測れば、即その場で変化が把握できます。しかし認知機能は、その場で即どのような状態なのかは分かりませんから、「予防をしましょう」と言われても、自分の状態がわからないことには対応できません。

 認知症が気にはなっているけれども、自分の認知機能がどのような状態なのかがわかっていなければ、認知機能が低下していても、結果的には認知症の発見が遅れてしまうことになりかねないということです。

これまで認知症の検査には、医療機関で医師の診察を受け、問診や認知機能検査、MRやCTによる検査が行われていますが、現在の認知機能の測定方法では、認知機能の“見える化”ができないことが、認知症対策の課題だと考えてきました。

脳の健康度計測と脳を育てるアプリを開発

森下 「認知機能は20代〜30代でピークを迎え、30代から緩やかに減少し40代で急速に減少していく。40代〜50代からの早期介入が極めて重要」―2025年に開催された大阪万博のヘルスケアパビリオンで実施した50万人規模の測定データ(PHRコネクト共同企業体:博報堂、BIPROGY、JR西日本提供)で明らかになった新知見です。

今までのように、60歳を過ぎてから対策を講じるのではなくて、40代〜50代ぐらいから物忘れが気になるという状態が始まりますので、自らの認知機能を把握して高めていかねばなりません。

そこで大阪大学の研究成果を基に、「アイトラッキング式認知機能評価法」を用いた認知症の早期発見・早期介入の支援に携わるアイ・ブレインサイエンスでは、万博で得られた約50万人のビッグデータ解析と、科学的・医学的エビデンスに基づいた「アイトラッキング式評価法」を技術基盤として 認知機能の“見える化”に成功しました。

例えばMCIになった人たちの半分は正常に戻り、残りの方は認知症に進むか、あるいはそのままMCIとどまってしまう可能性があります。MCIの前段階である脳フレイル状態にある人たちを、早めに見つけることが、これからの認知症対策に非常に重要なポイントだと思っています。

自身の脳の健康状態を知り、脳を育てるためには脳フレイルの早期アプローチが不可欠であると考え、誰もが手軽にできる自身の脳機能の年齢測定、そして測定結果に基づき脳を育てるコンテンツ機能を付加したアプリを開発しました。

脳機能の年齢測定だけでは充分ではありませんので、認知機能のどの部分が低下をしているかに応じて、AIによって脳をトレーニングする機能を付加させたものです。認知症は、単純に認知機能の低下というイメージがありますが、そうではなく認知機能の中には、いわゆる記憶であったり注意力であったり、空間認知脳であったり、人によって衰える部分が異なりますので、脳年齢測定アプリで解析して落ちている機能の問題をAIが改善をする問題を出していく、非常にパーソナル化されたアプリです。このアプリを使うことによって、脳フレイルの状態から正常に戻す対応ができると思っています。

アプリの使用で“脳資産”を増やす

―― 脳の健康度を測定し脳を育てるアプリは、どのような内容ですか?

 森下 アプリには、自分の脳の健康状態を“見える化”するミルダケタッチと、楽しみながら“脳資産”を増やすブレインアセットセットがあり、2つを合わせて『ミルダケケア』とネーミングしました。アプリの一つは、約3分間で今日の脳の健康状態を脳年齢で“見える化”する「脳の健康度計測アプリ:ミルダケタッチ」。
もう一つは、1回約5分、コンテンツは約20,000種類。「脳の健康度計測」の結果に合わせて、AIが一人ひとりの脳の健康状態に合わせた課題を提供する二つの機能で、脳を育てて未来を豊かにするための脳トレを始める『ブレインアセット』です。
 これからは、いかに脳を育て認知機能を蓄積していくか。“脳の資産”作りが認知症予防の鍵になります。“アプリで始める脳の新習慣”として、様々なルートに向けて普及していきたいと考えています

認知症対策のキーワードは、“脳資産”です。老後の生活を考えて資金作りの必要性が言われていますが、認知症に関しても同様です。若い世代から、将来の認知症の罹患を見据え、脳の機能が衰えないよう日頃から、いざという時に備え資産を増やしておかなければなりません。アプリを使用することによって、“脳の資産”を育て蓄積し増やしていくことが重要だと思っています。

ドラッグストアや薬局での普及に期待

――  ヘルスケア路線を強化するドラッグストアや調剤薬局では、近年、認知症対策にも力を注いでいますが…。

森下 ドラッグストアは、積極的にヘルスケア路線に取り組んでいますし、機能性表示食品、免疫食品、サプリメントの取り扱いも多いし、特にセルフメディケーションを進めていただく場として注目しております。ぜひ店頭での認知症予防活動の一環として普及してほしいし、自分の認知機能がアプリで測定できる習慣を、ぜひ窓口で広げていただければと思っています。

処方箋を主力とする調剤薬局、カウンセリングに長けた薬局の方々にも、“脳の資産”として認知機能を増やす重要性が不可欠な時代が到来していることも、店頭でお話しいただくなど認知症予防キャンペーンを展開していただきたいと思います。

認知症予防学会の会員数は3000名弱で、様々な職種の方々に参加いただいています。特に認知症予防専門薬剤師も養成しており、オンデマンドのセミナーも開講しておりますので、ぜひ増える認知症に対応するためにも、ご一緒に“脳の資産”作りに参加をしていただき、“認知症のケアステーション”として活動してほしいと願っています。

最近、ドラッグストアでは、睡眠コーナーができていて、店内には睡眠を誘う商品やストレス解消食品等々の取り扱いが増えていると聞いています。開発された脳の健康状態を“見える化”したアプリを活用し、認知症になられた患者さんのご家族のケア、予備軍のMCIを増やさないようにする予防の普及活動にも取り組んでほしいですね。