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“ウェルビーイング”なショッピング・センター業界

世代を超えた地域住民が“心も身体も楽しく健康に”
ウエルネスなコミュニティ拠点が千葉県旭市にデビュー

全国に展開する3169か所のSC(ショッピングセンター)にヘルスケアの波が押し寄せるなか、“ヘルスケア&ウエルネス”をキーワードとした新しいSCに、連日たくさんの地域住民が来店している。このSCは、調剤ロボットを導入し調剤作業を効率化することで地域のヘルスケア・ステーションを目指す調剤薬局、食を通じ健康を提供するための低糖質、減塩、食物繊維コーナーや地場産の生鮮食品を拡充したほか、軽トラックに商品を積み、旭市内を巡回する移動販売も展開する健康強化型の『イオンタウン旭』。特筆すべきは、小児と子育て世代から高齢者まで多世代の交流施設、高齢者が定期的に通い手料理の食事や入浴を楽しめるデイサービス(通所介護)施設も併設していることだ。世代を超えた地域住民が、“心も身体も楽しく健康になる”ウエルネスなコミュニティ拠点を目指しデビューしたSCに注目したい。記事=ヘルスケアジャーナリスト◎瀬戸 寛(せと かん)

■WELL BEINGなSCが各地に相次いで登場

『SC JAPAN TODAY』と名付けられた雑誌がある。発行元は日本SC(ショッピングセンター)協会だ。その4月号では、「ウェルビーイング~心も身体も満たされるSCづくりとは」特集が掲載されている。ウェルビーイングとは、「心や身の回りの環境も含めて良好な状態」をいうが、来店する人々やSCに働く人々の幸福を願い、商品やサービスを提供する施設が読者の興味をそそる。
例えば女性特有の健康問題に焦点をあて、女性が相談しにくい悩みに寄り添う商品やサービスを取り扱うSC、セルフケアのワンストップサービスを提供する医療ウエルネスモールが核となるSC、「オーガニックっていいね」の思いを店名にした専門店、くず餅乳酸菌で購入客の体の内側・外側から体をサポートする老舗店、心を整えるためのスタジオなど、詳細なレポートが盛り込まれ、SC業界が、押し寄せるヘルスケアの波に対応していることが読み取れる。
日本SC協会の2021年度末の調査によれば、2021年度における全国のSC数は3169か所(2020年度:3195か所)が存在し、2018年から4年連続で減少しているものの、同年から3年間ダウンしていた年間の総売上高に歯止めがかかり25兆8392億円(前年24兆9016億円)となった。
2022年上期(1月~6月)では、2月度が36都道府県の蔓延防止重点措置の営業となったため前期比マイナス4.4%だが、全国的に行動制限が緩和されたことで通常営業に戻したケースが増え、そのほかの月は前期よりも上昇している。ちなみに新たにオープンしたSCのキーワードは、“ウェルビーイング”&”楽しい“で、女性の悩み解消スペース、eスポーツラウンンジの併設等々だ。

■薬剤師の接遇時間の拡充へ調剤業務にロボット3台を導入したAEON薬局
4月にデビューした『イオンタウン旭』

今年4月、東京から電車で2時間余りの千葉県旭市にデビューしたのが『イオンタウン旭』。運営するのは、イオングループ企業の一つ、イオンタウン株式会社で同社152番目のSCとなる。
「官民連携で地域住民が多世代で交流し、心も体も楽しく健康になるウエルネスなコミュニティ拠点を創造していく」として地元の旭市とイオンタウンとが官民連携で推進する町(未来旭)と商業機能を担う『イオンタウン旭』がコラボレーションした、直営売り場面積約3100㎡の健康強化型SCだ。
“生涯活躍の町”創出に向け旭市が進める新しい町づくりに対応させ、食と暮らしに関する商品・サービスを提供するとともに、地域住民の健康づくりの一翼を担うのが、イオングループのイオンリテール株式会社が運営するイオン薬局旭中央店。近隣の総合病院やクリニックから発行される処方箋応需には、3台のロボットを導入し調剤の効率化を図ることで、薬剤師は服薬指導に専念でき、医療機関や住民からの要望があれば在宅医療ニーズや無菌調剤に対応できるように準備は整っているという。

SC内に開局したイオン薬局中旭央店


「全国に260店舗展開するイオン薬局の調剤併設率は8割。イオン旭中央店は調剤室と待合室がそれぞれ100㎡。処方箋調剤の待ち時間の短縮や患者さまへの相談時間を拡充へ、最先端のロボット(錠剤・粉薬・シロップ剤に対応)を設置し、地域に根差す“かかりつけ薬局”を目指しています」(イオンリテール担当者)
同社では、買い物と調剤が1か所で済むワンストップショッピング機能を持つメリットを生かすだけでなく、患者自身が処方箋の写真を携帯で送信することで、調剤の出来上がりを連絡するサービス(ポケットファーマシー)を採用し、調剤を待つ間に買い物や食事をするなど時間を有効に使用できる仕組みも導入した。

ロボット調剤の現場

同薬局には、広域からの利用者や病院の勤務者のほか、施設内の多世代交流施設を利用する地元の生活者たちの利用が見込まれており、2023年以降、高齢者や移住者に向けた住宅も隣接地に整備されるそうだ。
「当薬局は、地域住民の生活に近い場に開局しているのが強み。日々の努力で信頼されていけば在宅医療、とくに終末期医療への参画も提案できるようになると思う」(同薬局の担当者)

■減塩・低糖質・食物繊維など健康志向食品コーナーを開設

SCの1階の売り場には、生活習慣病予防や食を通じた健康増進への関心が高まっているところから減塩コーナーを設置。ドレッシングや醤油などを取り揃えるとともに、調味料の使い方を工夫しながら塩分の摂取量を減らす食生活を提案し、低糖質のご飯や冷凍食品コーナーでは、低糖質のアイスクリームや、ご飯付きおかずセット、手軽に食べられて十分に栄養補給もできるシリアルコーナーには、食物繊維やビタミンB1、鉄分がたっぷりのオートミールも用意されているのも特徴。

高齢者の需要が多い看護師専用シューズ

最近、食品業界で話題を集めている、白米と比べて鉄分や食物繊維が多く含まれている黒米弁当、肉の代わりに大豆を使用したイオングル-プが販売するオリジナルブランドの『大豆からつくったハンバーグ』、牛乳の代わりに豆乳を乳酸菌で発酵させた無糖タイプのヨーグルト、畑でとれた旬の野菜や果物、オーガニック野菜、漁港で水揚げされた旬の鮮魚の美味しい食べ方の提案もする生鮮食品コーナーも人気だ。
さらに高齢者を対象とした買い物支援の一環として、旭市内で移動販売車を運行させ、日々の買い物が不便な人たちが多く住むエリアを中心に巡回販売も始まった。

■看護師のアイデアで誕生した文具類コーナーも

近隣にある病院やクリニックの看護師の日常業務や看護専門学校に通う看護学生が実習で必要とする文具類コーナーを見つけた。看護師のアイデアで誕生したもので、毎日の連絡事項や情報などがいつでも記入できる、白衣のポケットサイズのメモ帳、とっさにメモをしたいときに、腕に巻いて使用できるリストバンド式のメモ帳、重要なことをメモする際に滑らかな書き味のボールペン(赤・青・黒)、専用計算キー搭載電卓や薬剤師・栄養士向けて開発された電卓などを品揃えしているコーナーである。
看護師が、院内を歩き回る際に履く専用シューズも人気商品の一つで、購入者は看護師以外に高齢者の需要が多い。その理由は、足が疲れない、滑らないという特徴があるからだ。

■多世代住民の交流拠点『おひさまテラス』、自分で料理し食べる通所介護施設も併設
多世代の地域住民が交流する『おひさまテラス』

2階に導入されているのが、旭市が設置しイオンタウン旭が管理・運営する『おひさまテラス』。子育てを通して、街の人々が繋がり、支えあい、ともに育む場として、多世代の地域住民が交流する拠点として利用者が増えてきた。
物作りを通して暮らしを豊かにする体験作りの場として、子供たちが楽しく遊べる用具を取り揃え、子供たちが思い切り動けて、“心と体”を育む場として、来場者が自由にくつろげる場としての利用だけでなく、数千冊の書籍が並び、ゆっくりと読めるライブラリーもある。しかも地元の食材を取り入れた、こだわりのカフェレストランで食事を楽しめるという、一石五鳥の付加価値を持つのが『おひさまテラス』。
この多世代交流施設では、隣接の旭中央病院と連携した“健康や町づくり”がテーマの暮らしの健康講座、病気や健康知識だけでなく食事やコミュニケーションなど幅広いアイデアに広がるワークショップ、同世代の子供を持つパパやママが集い、暮らしの思いや喜び、悩みや相談ごとを共有する子育て交流会も行われる。「こんなSCに行ってみたかった」「楽しくて、何度も来たくなるね」-そんな声が聞こえそうだ。

加えて、高齢者が本来の力を引き出すことで暮らしを、より豊かにするデイサービス『わだち』も併設されていて、檜風呂への入浴、自分で料理を作り食べられるなど、好きな場所で暮らす、当たり前の暮らしを自然に作りだしていくことを目的としているだけに、利用者も増えてきている。

■これからはSCに働く人たちのために高齢者施設や保育施設が不可欠に・・・
手作り料理が食べられるデイサービス

高齢者人口の増大に伴い、国民のヘルスケア・ニーズは、さらに深まることは間違いない。健康寿命延伸の武器は、”未病と予防“だ。従来、SCはアファッション、食べる、遊ぶ店舗の集合体が多かったが、今や地域住民がSCに行く目的は、心を体の健康づくり。これからは、そのためのサービスや商品を提供する店舗が集う場になる。
かつて食品はスーパー、薬の購入や医療機関から発行された処方箋を持参するのはドラッグストアや調剤薬局、花屋、郵便局、クリーニング、高齢者施設、幼稚園・保育園、魚肉、野菜や総菜などの購入は別々の店舗に行かなければならなかった時代から、今やワンストップショッピングの場であるSCには医療機関が入居し、運動施設も図書館も参画し、調剤を待つ間に楽しく買い物ができるようになった。
こうしたなか、イオンはグループを挙げて国民の健康創造ニーズに応え、”ウエルネス”事業に取り組んできた。そしてこの路線こそは、来店する生活者にとっても、その場に働く人たちの幸福を願うキーワードであり、まさにウェルビーイングでもある。
自分の健康は自らが創造していくためのヘルスケア施設としてのSCづくりは、これからも増えるだろう。それらは、買い物に行くことはもちろんだが、働きながら親の介護が可能になる施設、子育てのニーズに対応した保育所を併設したSCであってほしい。