ヘルスケア情報サイト「Hoitto! ヘルスケアビジネス」(ヘルスケアワークスデザイン株式会社)

花王グループカスタマーマーケティング・中尾良雄 代表取締役社長執行役員 インタビュー

花王グループカスタマーマーケティング株式会社
代表取締役社長執行役員 中尾良雄さんに聞く
人と暮らし、生活者に寄り添い
“365日、常に挑戦し続ける躍動感ある会社”



生活者のニーズに対応し、様々なヒット商品を手掛けてきた花王。その中でマーケティングや営業、物流、売り場づくりを担うのが、花王グループカスタマーマーケティング株式会社だ。2023年3月、同社の新社長に就任してから1年余りが経過した中尾良雄さんに、“365日、常に挑戦し続ける躍動感ある会社”への思いも含めて語っていただいた。(インタビュー:ヘルスケアワークスデザイン代表・佐藤健太/文:流通ジャーナリスト・山本武道)


大きな課題は「お客さまの変化にどう対応するか」


――2023年3月に社長に就任されてから1年余りが経過しました。これまでを振り返り、どのような1年でしたか?


花王グループカスタマーマーケティング株式会社
代表取締役社長執行役員 中尾良雄さん

中尾社長 昨年の今頃は、春先にかけてマスクをどうするかが話題にはなりましたが、3月後半からは大谷翔平選手が活躍したWBCもあり、人々は週末も外出するようになってきました。当社のコモディティ商品は人の動きと連動しているものが多いので、4〜5月にかけてモノの流れは変わってきましたし、猛暑も当社にとってプラスに働きました。

一方で原材料の高騰に伴い価格も比例し、当社も値上げせざるを得ない状況になりました。ここの判断が非常に難しかったです。幸い小売業さまのご理解・ご協力をいただき値上げをすることができました。


――中尾社長は1990年4月に花王に入社してから今年で34年ですが、これまではどのような業務に携わってこられたのでしょうか? 


中尾社長 花王グループカスタマーマーケティング株式会社の社長に就任する以前の業務は、営業系が半分、事業系が半分でした。大人向けの紙おむつや食品、ヘアケア製品の拡販などに関与してきました。社長に就任する前には、ファブリックケア事業の責任者として販売にも携わり、さまざまな部署のスタッフたちとも交流し、互いの気持ちを理解し合いながら仕事と向き合ってきました。

私が20年前から取り組んできた中に軽失禁用品があります。当時、生理用品が頭打ちになるのは目に見えており、軽失禁マーケットを育成しようと全力を注いできました。かつては生理用品で代用する方が多かったのですが、ようやく市場が開花し「やっとここまできたか」という実感を持っています。今や売り場も確立され、軽失禁に対応した商品が普通に買われていく時代になってきました。昔はそうではなかったので、まさに「隔世の感あり」です。

当社は、花王商品の販売を担う企業ですから、メーカーと一体となっていることが強みです。昭和から平成初期にかけて販売会社の強みとメーカーのモノ作りは好循環で、出す商品がヒットするケースが非常に多くありました。世の中の、健康、ヘルスケアというニーズ、課題が強くあって、かつては企画した商品を提示すれば、お客さまが受け入れてくださる環境にありました。
時代が平成から令和に変わっていく中で、最も難しいと思ったことは、お客さまが、メーカーによるマス媒体の仕掛けひとつで動いてくださるような環境ではなくなってきたことです。それぞれお客さまがスマートフォンなどを見ながら、一人ひとりがいろいろな情報に接しながら正しい情報は何かを、ご自身で判断する時代になってきました。

世の中はネットやSNSの時代になり、情報の横の連携といいますか、メーカーからの情報よりも、友人や信頼できる筋からの情報をとても重要視し、周囲からどのように評価されている商品なのかを知れる環境になりました。つまり“目利き”をするお客さまが増えたのです。お客さまの変化にどう対応していくべきか。これを含めて、社長としての課題はたくさんあると思いました。


――モノ作りですが、新しい分野への参入にあたっては、どのような取り組みをされていますか?特に「健康」というコンセプトを、どう表現していくでしょうか?


中尾社長 生活者のための快適な商品を世に出すことは当社グループの責務ですが、「健康」というコンセプトをどう表現していくべきか。商品をデビューさせる時に共通していることは、お客さまが商品を使用する際の価値がどこにあって、お客さまが必要としているモノは何かということ。時代やニーズに変化があっても、手に取りやすいメッセージを添えて明確にお客さまに伝えることは、どの商品もどのブランドもアプローチ的には変わっていません。

そうでなければ競合の波に飲まれ、勝ち残りが難しくなります。そこでは自分たちのカラーをどのようにして鮮明に打ち出していくか。それは、長い歴史で育んできた技術であり、わかりやすいメッセージと共に、「健康」というコンセプトをお客さまに伝えることが重要だと認識しています。

もともと花王は家庭品と化粧品に注力していましたが、生活者のニーズが変化する中、ヘルスケアにも目を向けるようになりました。ヘルスケア分野ではサニタリー商品も含めますと、生理用品からスタートしてベビーオムツ、入浴剤の『バブ』等々に広がっていきました。

例えば『ヘルシア』ですが、お客さまの健康スイッチが入るタイミングはどのような時なのか。より効果的なメッセージを伝える場として、電車の中吊り広告であったり階段であったり、“あなたとともに健康をサポートする”というブランドを伝えるために、いろいろな場で訴求しました。『ヘルシア』ブランドが多くのお客さまからご愛用いただいているのも、こうした工夫の賜物だと思います。

当社独自の研究と生活者価値にこだわってブランド育成に取り組んできましたが、『ヘルシア』発売後、飲料の専業メーカーやNO.1企業が参入してきた際には、これまでの自分たちのやり方では、通用しなくなってきました。

そうした中で、機能性表食品として初めて「免疫」を表示したプラズマ乳酸菌を開発されるなど素晴らしい技術をお持ちのキリンビバレッジさんとのご縁があって、『ヘルシア』を今年8月(予定)に事業譲渡することになりました。キリンビバレッジさんは飲料販売のプロフェッショナルですので、今後の『ヘルシア』の動向にも大いに期待しているところです。


社長就任2年目にスタッフに呼びかけた三つの実践


――“常に挑戦し続ける躍動感ある会社”が、社長に就任にされた際のメッセージだそうですが、その言葉が持つ意味とは。


花王グループカスタマーマーケティング株式会社
代表取締役社長執行役員 中尾良雄さん

中尾社長 自らが考えて行動する“個”の時代になってきていますから、当社で働く人それぞれが、世の中の変化やお客さまの気持ちはもちろん、取り引きしてくださっている小売業などの皆さまのお気持ちを考えながら、上司からただ指示されるだけでなく、自身が考えて動けるようにならなければ、多くの環境変化に対応する強い会社にはなりません。そんな思いから、象徴的に“常に挑戦し続ける躍動感ある会社”という言葉を使わせていただきました。


――社長として4月から2年目になりましたが、これまでを踏まえどのようなことに取り組まれていきますか?


中尾社長 今年の年頭に、「自分の殻を破ろう」、「思考の殻を破ろう」、そして「組織の殻を破ろう」とこの3つについて話し、ぜひすべての社員に実践してもらいたいと思っています。

また、当社は組織的に動く力はとても強く、やり切る力を持っていることが強みです。ですが、考える力、人それぞれの思いを形にしなければ、組織としては脆弱になり競争にも負けてしまいます。とにかく社員一人ひとりに考える力を持ってもらいたいと思いましたので、「いろいろとチャレンジをしようよ」と機会あるごとに行動する必要性を呼びかけています。「当社には1万数千人の社員がいて、1万数千通りの考え方がある」と社員に投げかけながら、当社の商品を購入していただいておりますお客さまのことを第一に考え、今日まできました。

むろん1年間で答えが出るわけではありませんが、ここ1年間でようやくマインドセットできつつあると感じています。こうした活動が、アクションとして動き出すのは、まだまだ時間がかかるかもしれません。ぜひやり切っていきたいと思います。


成長を続けるドラッグストアへの今後の期待


――目先30年を見ますと、間違いなく人口は減り続けます。こうした人口減という課題に対しても、どのように対処していきますか?


中尾社長 日本の人口減という現実から目を背けることはできません。日本のコモデティ商品はグローバルに見ても価格は安いので、いかに一人当たりの購買単価をアップしていくかかが課題でもあります。それには提供する商品価値が、お客さまに理解されることが一番のポイントでもあり、今がチャンスだと考えています。

そのためにも、「様々なニーズに応えて、商品価値を提供していく」という責務を全うしていかなければなりません。人口が減る一方で、高齢者、特に単身者が増え、これから先、どうなるの?」といった不安を持つ人たちが増えています。そうした多くの人たちの不安解消のためにも、私たちは“未来のいのちを守る”をスローガンにして、研究と技術イノベーションを原動力に、社会課題の解決に挑みたいと考えています。


――コロナ禍では、花王さんは全力をあげて欠品対策を強化し地域住民から「助かった」といった声が上がっていたことも聞きました。また、健康寿命延伸ニーズが高まる中、ドラッグストアの機能がクローズアップされています。今日の成長と今後の期待についてお聞かせください。


中尾社長 ドラッグストアは、コロナ禍においては重要な健康ステーションでもありましたから、地域住民の方々から必要な存在として支持されたことも成長した要因の一つでしょう。ドラッグストアの一番の強みは、“未病と予防”、健康創造をサポートする商品にカウンセリング機能が付加されていることです。

セルフメディケーションの武器としてのOTC医薬品、ヘルスケア食品に強いところもありますし、健康志向商品、高齢者のための商品などを取り揃え、しかも処方箋調剤機能も持つことで地域に溶け込んでいったのは、お客さまに身近な存在として営業してきたからだと思います。常に地域のお客さまのそばにいて、健康と美を支えるというコンセプトを訴求してきた背景には、地域住民の支持があったからに他なりません。

「自分の健康をどうやって維持していくか、健康寿命をどのようにすれば延伸していけるか」といった意識が高まったというのも、ドラッグストア市場へプラスに働いたのではないでしょうか。いつまでも健康でいたいという人たちは、節制して体重をコントロールしたり、生活習慣病の予防のために必要な商品を薬剤師さんに選んでいただいたり、自らの健康を守るニーズに対してドラッグストアをうまく活用してきたことも成長してきた要因の一つでもあると思っています。

これからは、ますます競争の波が押し寄せる時代です。ですから一味も二味も違った他店との差別化が、より要求されるようになりますから、来店されたお客さまの幅広いニーズに対応した商品と接客力で勝負していくことになると思われます。特徴あるドラッグストアが利便性、ワンストップ機能を発揮して、さらにお客さまの健康創造のためのドラッグストアであることを、できることを打ち出して勝負しにいくのではと期待しています。当社もそれに貢献できるよう一丸となってご協力させていただきたく思っています。


――ありがとうございました。