「なんとかして日常生活の中で困っている人たちのために解決する方法はないか」―企画力と開発力に人財力を結集させることで、様々な快適創造商品を提供してきたアイリスオーヤマ。1958年4月、街の小さなプラスチック製品の下請け工場の大山ブロー工業所として創業したのが始まりだが、6年後の7月に創業者の父親(大山森佑さん)が亡くなり、19歳で事業を受け継いだのが現代表取締役会長の大山健太郎さんだ。それから60年が経過した今、健康寿命延伸時代の到来に伴い、高まる国民のヘルスケア・ニーズに対応し、血圧計や体温計などの健康機器、生活家電、調理用品、マスクやカイロなどの日用品、ペット関連用品、照明、空気清浄機、米、水、健康食品、介護食品と関連用品等々、モノづくりのキーワードは『健康』。国民のための生活提案型ベンダー企業として、ヘルスケア市場へ挑む一方で、CSR(企業の社会的責任)活動の取り組みの一環として、がん啓発及びがん検診の受診率向上に向けた支援をするなど、社員数6300名、年商2280億円、そしてグループ年商7540億円の押しも押されもせぬヘルスケア企業として、今もなお成長を続けている。「これからも、生活者が困っていることを解決するための商品開発にこだわり続けたい」と語る大山会長に、『健康寿命延伸時代の到来とヘルスケアビジネスへの期待』を聞いた。(取材と文◎流通ジャーナリスト 山本武道)
―― 何もわからぬままにプラスチック製品の下請け事業を受け継いだ際に、街の工場主からメーカ―への道を目指し、自社開発のヘルスケア関連商品を数多く普及されていますが…。
大山会長 世の中、急激な人口の高齢化によって、ビジネスは様々な変化を遂げました。生活様式が変わり、国民の間に“自分の健康は自分で守る”意識が高まり、そして高齢者を対象としたビジネスも「健康で長生きをしたい」という健康寿命延伸ニーズに対応する商品開発が進められ、ヘルスケア関連市場が拡大しています。当社も当然のことながら、こうした生活者のニーズに応えていかねばなりません。
当社は紆余曲折を辿りながら、時代にマッチしたモノ作りに力を注いできました。これからのモノ作りは健康を意識した商品開発が不可欠になりますから、生活者が困ったこと、悩みを解消するための商品開発に取り組んでいます。
こうしたヘルスケア商品に対する取り組みでは、変わりゆく生活者のニーズに応えている小売業の中でもドラッグストアに注目しています。例えばマスクですが、4年前から日本国内での生産を開始し、大幅に市場を拡大してきていますし、日常生活における健康管理をサポートする血圧計や体温計も家庭では必需商品となっています。
高齢者の癒しとなるペットはファミリーの一員でもあり、室内で暮らす時代ですので、トイレ、シーツなどに加えてサークルなども開発しペットフードも早くから手がけていますし、そのほか天然水や健康食品や米等々、当社のヘルスケア関連商品の開発は年々活発化し、売上げも増えています。
それに店舗に役立つ商品を求めていることにも注目し、店舗の省エネ対策としてLEDを開発し採用していただきましたが、ドラッグストアのシェアは高く、当社の商品を採用していただいています。掃除ロボもドラッグスアでの採用も増えてきました。
――SM(スーパーマーケット)、SC(ショッピングセンター)、HC(ホームセンター)の共通点は、いずれも“ヘルスケア”です。中でもドラッグストアを活用される背景は?
大山会長 ドラッグストアは、個店という業種から快適生活と健康をキーワードとした業態として市場を拡大してきました。地域住民の健康管理に役立つ健康機器、健康食品や一般食品も取り扱い、深夜まで営業し、薬も購入でき、処方箋を持参し調剤を待つ間に楽しく買い物もできるし、美しくなるための化粧品等々、1か所で買い物ができるメリットがあり、高まる健康寿命延伸産業の振興に欠かせないヘルスケア最前線でもあるからです。
ドラッグストアの来店客はヤング世代、それも女性が多く出産前、出産後の子育ての必要な商品が揃っていて、買いやすいのですが、ホームセンターの場合、来店客は50代の半ばから60歳台がメインですので、あまりにも店内スペースが広いと必要な商品を買い求めることが難しい。その点、ドラッグストアであれば、商品が探しやすいというメリットがあります。
そこで当社では、家電も、ヘルシー炊飯器など生活者のヘルスケア・ニーズに対応したモノ作りを心がけてきました。ヘルスケアに絞った商品の品揃えは、そんなに多くはないのですが、生活者が求めるニーズにマッチした商品開発はこれからも進めていきたいと考えています。
――その商品開発については毎週月曜日に新商品開発会議があり、そこで様々な商品が提案され、これまで多くのヒット商品が誕生しているそうですが…。
大山会長 “顧客の創造なくして企業の発展はない。生活提案型企業として市場を創造する”ことは、当社の企業理念の一つですが、当社が開発する商品は、日常生活における生活者の不便・不満を解消するソリューション商品で、暮らしをより豊かで快適にするためのモノづくりを行ってきました。
新商品開発会議からは、ヒット商品が多数誕生していますが、その根本となるのが生活者目線でアイデアを議論していることです。
この会議から、数々の新商品が生み出されていますが、その背景には、発案者自らも生活者の一人として料理や掃除をし、花を植え、ペットと暮らすなかで、いろいろな不満・不便を見つけて商品開発に繋げていることが挙げられます。
当社が取り扱っている商品数2万5000点は、すべてこの会議から誕生しました。私は商品開発にあたって常にスタッフに言い続けていることは、機能はシンプルに、価格はリーゾナブルに、品質はグッドの3点です。
調理家電の開発にあたっても、キーワードは“健康”。ヘルスケアは欠かせません。常に新しいモノ作りは、一つの業種にこだわらずに取り組まねばなりません。モノ作りの一番の悩みは人口の減少です。そして時代の流れを確実に捉えること。家電もヘルスケアとして普及に取り組むことで新しい創造が生まれます。我々は常に生活者が日常生活で困っていることを商品化し、これからも強化していくことにしています。
――高齢者人口の増大によって介護市場は拡大し様々な商品が販売されていますが、介護分野はいかがですか。
大山会長 当社では、グループ会社のアイリスチトセが医療福祉施設向けの家具の開発・販売を行い、介護施設を利用する方たちに向けて提供していますが、高齢者のための調理家電も工夫しています。
高齢者になると、1回あたりの食事の量は少なくなります。少ない量を調理するのではなく、一人暮らし、二人暮らしの高齢者用の食品をレンジでチンすれば即食べられますし、昨年は病院にパックごはんの「やわらかいごはん」を採用していただきましたし、コロナ禍によって、自宅待機の人たちに向けた食品の提供支援も行いました。
当社では先を見据えるビジネスを展開することも大切だとは思っていますが、生活者の悩みに応えられる商品の開発に対して、当社はメーカーですからモノづくりに対応できますし、販売していただく場合、店舗への流通網もメーカーベンダーとしての機能が生きてきます。
―― 二人に一人が、がんにかかる時代。大切なことは、がんを未然に防ぐ早期発見が重要です。そのためのPET(Positron Emission Tomography=陽電子放出断層撮影)検診施設のがん検診の受診率向上に向けた支援をされていますが…。
大山会長 当社に働く従業員の健康増進とCSR(企業の社会的責任)活動の取り組みの一環として、2014年8月28日に宮城県仙台市と『いきいき市民健康プラン』に基づくがん啓発及びがん検診の受診率向上に向けて連携して取り組むための協定を締結しました。
仙台市とともに、がんの早期発見と検診受診率向上に向けて、積極的に会社をあげて支援してきました。実は、創業者の父はがんで亡くなったこともあって、私自身もがん検診を受けてきましたが、支援するきっかけは、まずは当社に働くスタッフと家族のため、がんを未然にチェックしたい方々のためでした。
がん検診の受診率向上に向けた支援は事業ではありません。当社の社会貢献の一つですが、一人でも多くの方々にがん検診を受けていただきたいとの思いからですし、当社では35歳を過ぎたらPET検診を受けてもらうようにしています。私が存じ上げている著名人の方々にも、機会あるごとにPET検診を受けていただくように呼びかけています。がんにかからないよう早期発見をしてほしいですし、検診費用は安く設定していただいておりますので、ぜひ受けに来院してほしいですね。PET検診は、“まさに転ばぬ先の杖”でもあります。
―― ヘルスケア産業の一端を担う企業の経営者として、何度もお会いさせていただきましたが、78歳になる今、背筋もシャキッとしていて、肌の艶も健康色そのもの。これまでと同様に若さはまったく変わっていません。若さを保つ秘訣はなんでしょうか?
大山会長 間もなく80歳ですよ。健康の秘訣は?と聞かれましても、別に特別なことはしていません。ただ日々実行していることは、規則正しい生活をすることに尽きます。60歳までは毎日のランニング、70歳台になってからは週3〜4回のジョギング、そして週1回のゴルフと500mの平泳ぎ。泳ぎは80歳までは500mは続けたいですね。
私、一度決めたらやらないと気が済まない性分でして、歯磨きと同じ、習慣になっています。それと外食はほとんどしません。やはり自宅で、妻の手料理を食べるのが一番ですね。朝食はきちんと食べてエネルギーを補給して、昼は麺類、夜は魚や肉を中心としてタンパク質を摂るようにして、炭水化物の摂取は控えるように心がけています。
妻は料理することが大好きで、毎日、同じメニューはなく、種類が多く違った料理を食べたさせてくれています。まあ、妻の手料理が、健康の秘訣の一番でしょうね。帰宅すれば、妻の手料理が待っている。企業の経営者たるものは、自らが健康でなければ…。諺にいわく、“健康な体に健康な精神が宿る”。ですね。
――ぜひ100歳経営者を目指してください。ありがとうございました。
<取材を終えて>
今回の取材は、昨秋、都内で開催されたドラッグストアMD研究会の講師の一人として大山さんが登壇された機会を捉えてお声をかけさせていただいた。何年ぶりかの再会だったが、まったくお変わりなく、急な取材依頼にもかかわらずご承諾いただき、仙台駅前のアイリス青葉ビルでインタビュー。改めて確認したことは、アイリスオーヤマ躍進の秘訣は、「常に生活者が日常生活で困っていることを商品化してきたこと」にあった。
プラスチック製品にかかわるヒット商品は山ほどある中、衣類をしまっておく行李とガーディニングに使用する植木鉢のことをお話しいただいたことがある。行李に衣類を入れると、中身が見えないから取り出す時には不便。そこで中身が一目でわかるように透明なプラスチックで製作したこと。二つ目は植木鉢である。従来の植木鉢は、土を入れて木々を植えると高齢者にはけっこうな重さになる。しかも割れやすい。そこでプラスチックで軽量の植木鉢を製作。いずれも生活者の悩みの解消からのモノづくりであった。
「毎年多くの新商品をデビューさせていますが、真似されませんか?」ともお聞きした。大山さんからは、「真似ていただいてけっこう。当社は、その先を考えていますから…」の言葉が戻ってきた。その背景には、大山さんや幹部も出席する毎週月曜日の新商品開発会議にあると思う。
アイリスオーヤマのホームページに、「多種多様な素材を活用した製品を展開することによって、業種業から業態業へと転換し、現在では家電製品・食品・ヘルスケア用品など多岐にわたる事業と商品、サービスの提供を通して、移り行く時代と社会の変化にスピーディーに対応し、生活者の新たなニーズに応えています」と記載されている。大山健太郎さんのメッセージだ。
このメッセージには、アイリスオーヤマがなぜ“進化”してきたのか、この短い文章に60年にわたり辿ってきた軌跡が込められている。1958年に街の小さなプラスチック製品の下請け工場の大山ブロー工業所として創業してから66年、父親の死からバトンを受け継いでから今年でちょうど60年。「生活者が困っていることを解決するための商品開発にこだわり続けたい」と語る大山会長。2018年1月に社長に就任されたご長男の大山晃弘さん(45歳)とともに、アイリスオーヤマは、これからも生活者にも働く社員にも優しい企業として、さらなる飛躍を期待したい。