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連載 マレーシア・ボルネオ島レポートその③  サラヤの挑戦〜持続可能な経済活動を目指して

原生林が伐採され、新たなアブラヤシの苗が次々と植樹されている

安価な植物油として重用されるパーム油。主要生産地のボルネオ島では、世界的な需要拡大に比例して、森林破壊や違法就労などの問題を露呈している。当連載企画はここまで、サラヤが20年に渡り行っているボルネオ島の環境保全活動を紹介してきた。近年は同社と想いを共にする企業や団体が増え、それらが現地を監視・指導する役割を果し、関係する企業やヒトに前向きな変化をもたらしている。レポートその③ではその変化の一端を、パーム油の原料となるアブラヤシの農園と搾油工場の現状を踏まえてお伝えする。(取材と文=八島 充)

【ご参考】マレーシア・ボルネオ島レポート
 その①は→ココをクリック! / その②は→ココをクリック!


熱帯雨林気候の下で育つアブラヤシは、種植えから3〜4年で実をつけ、約15年に渡り安定して収穫できる植物。同じ面積から大豆の8〜10倍のパーム油が生産されるため、最も生産効率が高く、最も安価な植物油として、世界中の加工食品や洗剤、化粧品およびバイオマス燃料等の原料として重用されている。


かつてボルネオ島はゴム農園で栄えたが、合成ゴムの登場で衰退。代わりに80年代からアブラヤシ農園の開発が始まった。実が採れれば採れるほど金になるとあり、中国資本を中心に一攫千金を求めて農園の開墾が続いた。その結果、島の半分以上のジャングルが消失し、希少な動植物が絶滅の危機に追いやられた。さらには安価な労働力を確保するために、不法移民や児童による強制労働などの問題も表面化した。


また、アブラヤシは泥炭地で育たないため、土壌の水分を抜いた上で原生林を伐採し植樹する。この作業で放出された大量の二酸化炭素は温暖化の一因となっている。土壌の改良速度を上げるために違法の火入れ(野焼き)が行われ、不慮の森林火災につながることもある。森林火災による煙害は「ヘイズ」と呼ばれ、取材当日も東南アジア最高峰のキナバル山を暗く覆い隠していた。


様々な問題を抱えてきたパーム油の生産を、環境や人権に配慮した持続可能なものとするために立ち上がったのが、2004年に創設された非営利組織「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO=Roundtable on Sustainable Palm Oil)」である。

最終製品に与えられる認証マーク


RSPOはパーム油の各生産工程に厳格な基準を設け、基準に合格した農園、抽出工場、並びに最終製品メーカーに認証マークを貸与している。認証マークは国際的な信頼の証であり、事業の継続性を担保するものだが、取得に必要な基準が高く一定のコストもかかるため、中小事業者に敬遠される側面もあった。


サラヤは日本企業として初めてRSPOの会議に参加した企業で、現在は国内外で販売するパーム油使用の家庭用商品に認証マークを冠している。同社以外の邦人メーカーも輸出品にはマークをつけるが、国内の商品にはほぼついていない。これは費用対効果の問題および国内でRSPOの認知度が低いことが要因である。認証商品の市場を拡大するには、国内におけるRSPOの周知、さらには地球規模で環境と経済の相関を考えるSDGsの概念の浸透が不可欠となる。


そのサラヤは、現地政府公認のNGO「ボルネオ保全トラスト(BCT)」ならびに「ボルネオ保全トラストジャパン(BCTJ)」の創設に関わり、RSPOの普及を含め、現地の課題解決を広く呼びかけている。こうした取り組みに賛同する企業・団体が現地を監視し、一定の圧力となることで、環境破壊や非合法な生産活動に歯止めをかけつつある。以下に、変化の途上にあるアブラヤシの農園とパーム油の搾油工場のレポートを紹介する。


コマンドン・エステートは、マレーシア・サバ州最大のパーム油生産企業・サウィット・キナバル社の子会社の1つ。総面積2000haを超える土地に300人以上が就労する大規模農園で、創業した1989年に第1期植樹、2014年に第2期(再)植樹を行い、収穫を続けている。


取材時にまず説明されたのは19目項目からなる企業理念。環境と人権に配慮した活動を通じ、持続可能なパーム油の生産を徹底していること、18歳未満児童の就労禁止も徹底していることを強調していた。敷地内には労働者が家族で住まう住宅、保育施設、教育機関、モスク、体育館やサッカー・バレーコート他を完備し、運動会などのレクリエーションが催されるという。クリニックも完備しており、健康診断や献血活動が行われるなど、福利厚生面の充実を訴えていた。


農園は高さ10m前後のアブラヤシがどこまでも広がり、その1本1本に直径50cm超、30kgほどの実(果房)がたわわに実っていた。農夫は長尺のカマを用いて実を落とし、作業車に積み上げて運搬する。工程のほとんどが人力であり、相応の体力を使う仕事であることは予想できるが、取材時の農夫は皆笑顔で作業を行い、就労環境が健全であることを伝えていた。

長尺のカマで掻き落とし運搬されるアブラヤシの実
セパガヤ・ミル


セパガヤ・ミルもサウィット・キナバル社が保有する7工場のうちの1つで、115人の作業員が従事している。農園から運ばれた実(果房)を選別し、洗浄、脱穀、搾汁ののち、不純物を取り除き抽出する。工場から出荷されるのはパーム核油および粗パーム油で、精製パーム油を抽出する工場に届けるまでが業務の範囲となる。

独特の甘い匂いが工場内に広がっていた
セパガヤ・ミルの入り口に掲げられた看板:
18歳未満の児童は工場での就労・手伝うことは許可されていません。これは、サバ労働令(第67章)の要件および当社の人権方針(女性と子どもの権利)と同期です。経営陣は本件を真剣に受け止めており、この指示に違反した者は処分の対象となります–と明記されている

サウィット・キナバル社がRSPO認証を取得したのは2023年で、それ以前は国内基準の「マレーシア・持続可能なパーム油認証(MSPO=Malaysian Sustainable Palm Oil))」を取得していた。MSPOはマレーシア国内および新興国市場を対象とし、国内小規模農家を救済する目的もあるためRSPOと比べ基準が緩い。一方のRSPOは主に環境問題に厳しいヨーロッパ市場を念頭としており、監視の目が厳しくなるグローバル経済の中で、ポジションを高めようとする同社の狙いが見てとれる。


今回のツアーには、SDGsを実践する人と企業を支援するNPO法人・ピースフロント(新谷和美代表)が仲介した大学生が参加している。学生一行はサラヤの環境保全プロジェクトの現場(連載その②に掲載)とアブラヤシ農園とパーム油搾油工場のほか、マレーシア・サバ州政府の環境保全施設や、パーム油生産以外の産業を担う現地労働者にもコンタクトしてきた。


SDGsは2020年に小中学校、2021年に高校の教科書に掲載されるなど、学生にとって身近な研究課題。こと環境と経済の相関が今後の持続可能社会に大きな影響を与えるとあり、学生らは今後社会に出て、直接・間接的にSDGsを推進していく存在となる。サラヤがツアーに学生を招いたのも、そうした人材を育てたいという狙いがある。

(左から)出発前の成田空港で〜燕の巣の収穫場で意見を交わす〜発表会を前に各々が意見をまとめていた

その狙い通り、参加した学生はに中身の濃い体験に大いに刺激されたようで、ツアー終盤に行われた発表会では、

「動植物を保護する現場のほか、様々な環境で暮らす方々と触れ合い新たな学びを得た」

「教科書に書かれた環境問題に実際に触れ、問題の大きさを実感した。これまで当たり前と思っていた自分の行動を変えるきっかけにしたい」

「環境問題を深く考える機会を得た。これから社会に出て何をすべきか、自分と向き合い進む道を考えたい」

「世界のスタンダードと思っていたRSPO認証にコスト面の壁があることを理解した。また、その壁を越えようと努力している産業界に希望も感じた」

「失われたものを補うことの難しさを実感し、環境問題をより深く学んでいく気概を持った」

「合理性の追求で生じる不合理を感じ、分断された森と森の責任を誰がどのように取るのが正解なのか、さらに森と人間、需要と供給をどう接続させていくべきかを探究しようと思った」

「家族で愛用しているサラヤさんの商品が、様々な人、企業、国を介して作られていることを理解した」

「今回知り得たことは全体の1%かもしれないが、その1%を得たことが財産となった。今後も『自然とヒトとの共生』というテーマで勉強を続けたい」

「ボルネオが抱える課題に唯一の正解はないと感じた。正解を探す以前に、正しい正義や価値観を身につけることが大切だと思わされたツアーだった」

――といった感想を熱を込めて述べていた。


これを受け、広報宣伝統括部統括部長・廣岡竜也氏は以下のようにコメントしている。


消費者が安価で高品質な商品を求め、事業者はそれに応えるために合理性を追求するーー。その姿勢自体が悪ではありません。ただ、結果的に環境問題が発生していることは事実であり、課題の解決に向け消費行動を変えていくことが、我々メーカーの責務でもあります。環境を守るためにコストをかけた商品が爆発的にヒットすることはなくとも、消費者の選択肢の1つになることは可能であり、我々の目指すビジネスもそこにあると考えます。今後もサラヤは、環境にやさしいモノづくりと、そこに係る活動への理解を促しながら、消費を通じ世の中を変える一助となるよう努力する所存です。


2004年に始まったサラヤの「ボルネオ環境保全プロジェクト」は、現地政府をはじめ世界中の企業や団体から支持され20年に渡り続いてきた。しかし、パーム油市場が拡大を続けるなかで、新たな問題も次々発生しており、持続可能社会への道のりはまだまだ長く遠い。本稿の最後に、現地調査員としてサラヤのプロジェクトをスタート時から支え、NGO「ボルネオ保全トラスト(BCT)」や「ボルネオ保全トラストジャパン(BCTJ)」の創設にも尽力した中西宣夫氏のコメントを掲載しておく。


――現在サラヤは、「緑の回廊プロジェクト」で二次林を買い戻し動植物の生息域を確保することのほか、最近はボルネオゾウやオランウータンと並び絶滅が危惧されるオナガサイチョウの保護活動なども始めています。いずれも現地の環境保全に欠かせないという自覚はありますが、それが100%の正解だとも考えていません。


20年近く続けてきた「緑の回廊プロジェクト」も、動植物の数に反映しているか否かの検証には至っていません。ただ、土地を取得するという行為が開発の歯止めとなっているのは事実であり、何より生物多様性について現地の方々と相互理解を深めてきたことが、次のステップに進む上で大きな意味があります。


ボルネオから遠く離れた机上で練った案や国際的なルールを押し付けすぎないことも、今後の活動のポイントです。これまでのサラヤのプロジェクトは、現地の「助けてくれ」という声に応えた活動がほとんどです。例えば、ゾウが好んで食べる草を川沿いに植栽する「フードコリドープロジェクト」は、植栽する草が外来植物であることから、「生態系に影響を及ぼす」という反発を受けました。しかし当時はゾウとの衝突がヒトの命に関わる問題となっており、急いで生息域を分けるために、入手しやすい外来植物に頼るのがベストでした。


次のステップでは、「生態系を守る」という視点だけでなく、“人の営み”に一層重点を置いた活動が必要になると考えています。引き続き現地の声をしっかり受け止め、その期待に応える取り組みを探っていく…その意味で私たちの活動は、単なる環境保全ではなく、国際平和に資するものだと認識しています。


なお、20年前の環境保全活動はNGOが主導するのみで、企業の参画はほとんどありませんでした。しかし今日、持続可能社会という概念の浸透によって、環境は大きく変わっています。RSPOには今や6000を超える企業が名を連ね、今年開催されたグローバル・ネイチャーポジティブ・サミットも多くの企業が参画し盛況のうちに閉幕しました。さらに近い将来、SDGsを学んだ若者たちが社会に出て、従来とは異なるアプローチで一連の活動を盛り上げてくれるものと期待しています。


――今から約14年前、「ゾウの森とポテトチップス」(そうえん社)という写真絵本が発刊されました。作者はサラヤにもゆかりのある写真家の横塚眞己人さんで、ボルネオ島の熱帯雨林の減少や絶滅危惧種のゾウと身近な暮らしとのつながりを、分かりやすく伝えている絵本です。


今回、この絵本を小学3年生の時に読んだという学生がツアーに参加してくれました。「絵本に描かれた世界をこの目で見たい」という想いを持ち続けていた彼女との出会いは、長くプロジェクトに関わってきた私の新たな活力となりました。彼女が現地で何を感じ、今後の生き方にどのような影響を与えていくのか、親のような心境で見守っていきたいと思います。(終わり)



【おまけの動画】
SEPILOK® オランウータンリハビリテーションセンターの模様。施設に高い塀はなく、好みと違う餌を与えるなど、オランウータンがいつでも森に帰れるような環境を作っているという