
全薬工業が2024年11月、世界50カ国以上で展開される水虫治療薬「ラミシール」ブランドを承継した。その主軸となったのが、製品企画本部 OTC企画部 OTC開発課(当時はOTC開発部 商品開発課)だ。Karo Healthcareとのコンペや契約交渉を担い、薬事・製造・品質・安全管理などの専門部署と社外関係者をつなぐハブとして、約10カ月という限られた期間で複雑な承継を円滑に導いた。当時の担当者に、承継の舞台裏と5製品の特長、「1日1回」が支える継続治療、ブランドの認知拡大に向けた今後の展開を聞いた。(聞き手=ヘルスケアワークスデザイン代表・佐藤健太)
――全薬工業が「ラミシール」を承継することになった経緯をお聞かせください。
津地 2023年8月、Haleon(ヘイリオン、旧グラクソ・スミスクライン コンシューマーヘルスケア)から、「Karo Healthcare(カロ ヘルスケア、本社:スウェーデン)へのラミシール事業売却」が発表されました。Karo社は世界各国で「ラミシール」ブランドを展開するのですが、日本では法人を持っていないという事情があり、日本で承継できる製造販売元を探していました。日本の医薬品メーカー10数社に声がかけられ、そのうちの1社が当社でした。そこからコンペを通じて、当社への承継が決まりました。
契約上の関係で承継の期限は2024年11月1日と決められており、初めて当社へ承継の話が来たのが2024年1月末。承継までは約10カ月であり、今振り返ると、非常にタイトなスケジュールでした。間に入ったコンサルタントからは「手を挙げるのであれば、3月にKaro社の担当者が来日した際にプレゼンをしてください」と伝えられていたので、もちろん社内で慎重に検討を重ねましたが、スピード感を強く求められる案件でした。
――承継で印象に残った仕事は?
津地 やはりコンペですね。1月末に承継の話が来て、コンペが3月中旬。私自身、当初はKaro社について深く理解していませんでしたし、状況を整理しながら承継に対して、手を挙げるか・挙げないかを社内で検討し、最終的に挙げることになりましたが、そこから3月中旬に実施された英語でのプレゼンに向けた準備が大変でした。プレゼンの構成や内容、Q&A対策については、コンペ前日まで上司と相談しながら修正を加え、綿密に準備を進めました。結果的に承継先として当社が選ばれ、プレゼンを担当した私としては、とても印象深い仕事でした。
――私の耳には、OTC業界内から「『ラミシール』ブランドを獲得するにあたって数社間での競合があった」と聞こえてきましたが、その最前線に立たれていたのが当時の開発担当者である津地さんだった。「ラミシール」ブランドは、ドラッグストアにおいて水虫治療のOTC医薬品として第一選択となるレベルのビッグブランドです。この世界的ブランドを全薬工業が日本にて展開する意義とは。
津地 水虫治療薬として長期間グローバルで展開されており、数多くの販売実績を誇るのが「ラミシール」です。同時に信頼感もあるブランドと位置付けていますので、そのヒストリーと信頼を活かして、なお且つ海外での販売情報を取り入れながら日本で展開をしていくことに意義があると考えています。リピーターのお客さまはもちろんですが、ブランド力によって新規顧客層を掘り起こしていきたいと考えています。

――承継において、津地さんにはどのような役割があったのでしょうか。
津地 まず、先ほどのコンペ、それに至るまでの社内合意を得るための対応をしました。コンペ後はKaro社との条件面における協議・交渉、ライセンス契約の取りまとめを担いました。また、ラミシールの製造販売承認を持っていたのはHaleon社なので、実務面ではHaleon社から全薬工業に承認関係の書類や製造所に関する情報等を引き継ぐことになり、期限内に円滑に承継を果たせるように同社との定例会を開催するなど、Haleon社との窓口としての役割も担いました。
――私は19年間、この界隈で記者活動をしていますが、実際に承継を担当した方から話を直接聞くのは初めて。承継はOTC医薬品業界においてもなかなか発生しない仕事だと認識しています。企業と企業のやり取りですので、いかにスムーズに、軋轢を発生させず、両社がWin-Winという落とし所を探っていくのは、とても大変だったでしょう。
津地 Haleon社にも取りまとめてくださる方がいて、その方と協力して承継に向けた進捗を共有する「定例会」を、各部門が一堂に会する形で開催していました。そうすると、営業部門や薬事部門など各担当部署が、それぞれ話を進めた方が引き継ぎの効率が良い。そこで、詳細は部門ごと密に連携を取っていただけるよう、各部門同士の分科会を設けました。初期の段階でHaleon社との協力関係を十分に築けたからこそ、承継を円滑に果たせたのだと思います。
――OTC医薬品は、もちろん医薬品ですが、お客さまから購入いただく商品という面もあります。その中で最重要なのが、品質や製造、安定供給だと思います。承継において津地さんは、これらを維持するためにどのようなことを意識して取り組みをされましたか。
津地 私はあくまでも開発部門に所属していますので、もちろん大枠は理解していますが、詳細まで全てを把握できているわけではありません。そこで、品質や供給面などについては、各専門部署に対応をお願いしました。例えば、安定供給の観点からは、購買部門が中心になりまして、Haleon社から共有された在庫情報や過去1年分の出荷の情報を参考に、フォーキャストという形で、承継後の出荷予測をまとめました。品質面は、品質保証部門が中心となって、製造委託先との品質に関する取り決めや製造所監査の対応をおこないました。「ラミシール」は医薬品ですので、安全性情報の取りまとめも大切です。また、グローバルブランドでもありますので、海外情報の収集も含めた安全性情報に関する契約は、社内の安全管理部門がKaro社と直接協議して、取り決めていきました。
――承継において津地さんは、社内外のハブ的な役割を果たしたということですね。津地さんの話を聞いていて、開発担当者の業務範囲の広さに驚きました。これらの仕事は、当然全薬工業に対しての貢献につながっていると思いますが、津地さん自身にはどのような影響をもたらしましたか。
津地 全てが初めての経験でしたので、承継やそれに伴うライセンス契約に携わり、自身も成長しました。プレッシャーも大きく、スケジュールもタイトだったので辛く感じたこともありましたが、このような機会に恵まれて大変ありがたかったと思います。

――話の切り口が変わりまして、製品についてお話を聞きたいのですが、「ラミシール」ブランドには5製品があります。まずは、「ラミシールAT」と「ラミシールプラス」の位置付けについてお聞かせください。
北川 「ラミシールAT」は、「ラミシール」ブランドのベーシックな部分を担っている製品で、医療用医薬品と同量・同成分のテルビナフィン塩酸塩を配合しています。一方で「ラミシールプラス」は、かゆみにアプローチする成分をさらに3成分をプラスしており、かゆみに対する効果を高めた上位品という位置付けです。「ラミシールプラスクリーム」については、角質を柔らかくして皮膚への成分の浸透を高める尿素も配合しています。
「ラミシールAT」と「ラミシールプラス」にはそれぞれ液剤とクリーム剤があります。液剤はカサカサと乾燥したタイプの水虫、クリーム剤はジュクジュクや角化した水虫への使用を推奨しています。

――「ラミシールDX」は成分、そしてその配合量は「ラミシールプラスクリーム」と同じです。この2品の違いはどこにあるのでしょうか。
北川 「ラミシールプラスクリーム」は一般的な水虫薬として、患部である足にご使用していただくための製品、そして「ラミシールDX」はデリケートエリアにお使いいただくために、別製品として存在しています。水虫は足のイメージが強いですが、そのほかにもデリケートエリアや周辺の太腿にも症状が出てしまうことがあるため、「デリケートエリアにも使える」とお客さまに理解をいただくための製品となっています。
両製品は、ともに外用剤ではあるのですが、ドラッグストアの売り場に目を向けると、水虫薬の売り場とデリケートエリアのかゆみに対応する製品の売り場が、個別に形成されています。ですから、この2か所で「ラミシール」ブランドを陳列し、2製品でそれぞれのニーズに対応することは、ドラッグストアさまにもお客さまにもわかりやすい展開なのでは、と考えています。
――「ラミシールDX」のパッケージには「効果は24時間持続」と強調されていますね。他の「ラミシール」製品も「1日1回」という意味では同様なのですが、デリケートエリアは外出先や勤務先などでは塗布しにくい現状があります。そうした環境に置かれるお客さまに対しても、「24時間持続」というキャッチコピーはとても刺さるものだと思います。
北川 いかにお客さまから手に取ってもらいやすいか。ご購入するお客さまの視点に立って「24時間持続」というキャッチコピーを使わせていただいております。
――テルビナフィン塩酸塩の特長とは。
小山 水虫の原因は白癬菌です。その細胞膜の形成を阻害し、すぐれた「殺真菌効果」を発揮するのがテルビナフィン塩酸塩です。テルビナフィン塩酸塩は角質層に長くとどまり、1日1回で高い効果を発揮するという特長を持っています。
――この1日1回という用法は継続治療に直結すると思います。
小山 水虫は「きちんと治し切る」ということが重要です。水虫治療には「再発率が高い」という課題があります。そういった意味で1日1回という用法は、お客さまの利便性が高まりますし、その結果、継続治療、そして完治につながっていきます。
当社が水虫に関する消費者調査を実施したところ、一番求められているのが「効果の高さ」。その次に挙がってくるのが「1日1回で効くこと」という結果が出ており、これは治療の負担減が求められていることになります。1日1回は、風呂上がりなど毎日の生活に習慣として組み込みやすい、続けやすいというのが継続治療を後押ししていける要素となっています。

――貴社は「ラミシール」のブランドサイト(https://www.zenyaku.co.jp/lamisil/)を展開しており、訪れると「殺真菌」と大きく表示され、そのインパクトの強さと「ラミシール」ブランドの特長が伝わってきます。
津地 当社のプロモーション部門のもとで制作されたブランドサイトとなります。承継にあたって、「ラミシール」ブランドの認知を維持・拡大したいという当社の思いがあります。その実現には製品だけではなく、水虫の治療方法や症状をわかりやすく伝えなければなりません。さらに生活者の目につく形でのコミュニケーション活動が重要であることから、WEB広告やバス停広告など様々なプロモーションを実施しています。
――ブランドサイトには「セルフチェック」というコーナーがあります。
津地 OTC医薬品はお客さまが自己判断でお使いになるケースが多くあります。その判断材料として設置したのがブランドサイト内の「セルフチェック」コーナーです。水虫にかかっている可能性を確認するもので、数分でチェックできるため、ぜひお客さまにお使いいただきたく思います。
――自身が水虫かどうかわからない生活者が多く、かゆみを放置していたら悪化し、通院。これは生活者のQOLやタイパの低下となってしまいますし、事前に防ぐことがセルフメディケーションの1つの意義だと思います。今後の「ラミシール」ブランドの展開についてお聞かせください。
小山 まずは「ラミシール」ブランドをより多くの方々に知っていただく。これが大切だと考えています。その上で、水虫で困っている方、生活者のニーズに合わせた形で幅広いコミュニケーション活動を展開していきたいと考えています。
――本日は貴重な機会をありがとうございました。
