
かぜ薬「ジキニン」で知られる全薬工業は2026年に創業76年を迎えた。1950年の創業以来、同社が大切にしてきたのは「模倣せず、一歩前進した医薬品を創生し、効きめを創り、効きめで奉仕する」という創薬理念だ。生活者のセルフメディケーションを支えるOTC医薬品から、基礎化粧品や健康食品、医療用医薬品まで、全薬グループの事業は時代の健康ニーズに応じて広がってきた。2022年には持株会社体制へ移行。全薬ホールディングスを創設し、「共創する全薬」を掲げる。76年で築いた信頼を、次のヘルスケアの価値へどうつなげるか。全薬グループは今、新しい歩みを進めている。(記事=佐藤健太)
全薬工業の創業は1950年7月19日。戦後の復興期にあって、保健衛生の向上が社会的な課題だった時代だ。医療機関にかかる前に、セルフケアでどう体調を整えるか、身近な不調にどう向き合うか。そうした暮らしの切実さの中で、同社は医薬品づくりを始めた。

創業以来掲げてきたのが、「模倣せず、一歩前進した医薬品を創生し、効きめを創り、効きめで奉仕する」という創薬理念だ。製薬企業にとって「効きめ」は当然の価値だが、同社の場合、その言葉にはものづくりへの誠実さがにじむ。流行を追うのではなく、自分たちの手で確かな製品をつくり、ユーザーに実感してもらう。その姿勢が、同社の原点だと言える。
1955年には「全国皮膚病薬研究会」を発足させ、皮膚病薬の研究と相談活動に取り組んだ。薬をつくるだけでなく、生活者の悩みに耳を傾ける。その姿勢は、後のスキンケア事業展開にもつながっていく。
大きな転機となったのが、1958年に発売した総合感冒薬「ジキニンC錠」だ。薬局やドラッグストアの棚で見慣れたこのブランドは、多くの生活者にとって身近な安心感を持つ存在となり、やがて、全薬工業を代表するブランドに成長していった。

その後も同社は、総合保健薬「ドックマン」、カルシウム剤「カタセ」、滋養強壮系の「リコリス」などを展開し、セルフメディケーションの範疇である、かぜ、疲れ、栄養、肌、口腔といった日常の健康課題に向き合ってきた。2001年には敏感肌用基礎化粧品「アルージェ」を発売し、2026年は発売から25年の節目を迎えている。一方で、医療用医薬品分野にも取り組み、悪性リンパ腫治療薬「リツキサン」など、高度な専門性を要する領域にも歩みを広げた。

「ジキニンの会社」と呼ばれることは、全薬工業にとって大きな財産だが、その言葉の奥には、皮膚研究の蓄積、健康食品やスキンケアへの展開、医療用医薬品への挑戦がある。創業76年の歩みは、家庭の薬箱に寄り添いながら、時代に応じて健康への関わり方を広げてきた歴史でもあるのだ。
全薬グループは2022年4月、持株会社体制へ移行した。グループ経営管理を担う全薬ホールディングス、その傘下に、研究・開発・製造を担う全薬工業、販売と通信販売を担う全薬販売を配置している。
この体制は、単なる組織変更ではなく、OTC医薬品や基礎化粧品、健康食品、医療用医薬品、通販、地域活動など、広がってきた事業をグループ全体でより有機的につなぐための土台づくりでもある。
同社グループは中期ビジョンに「共創する全薬」、長期ビジョンに「共創しつづける全薬」を掲げ、生活者や取引先の薬局・ドラッグストア、医療関係者、研究機関、地域社会など、さまざまな接点を活かしながら価値をつくる姿勢を示したものだ。
その基盤となるのが、東京都八王子市南大沢の研究開発センターと、栃木県大田原市の栃木工場だろう。研究開発センターではOTC医薬品、健康食品、基礎化粧品から医療用医薬品まで幅広い研究に取り組み、栃木工場では「安全第一・品質第一」のもと、研究成果を安定した品質の製品として形にしている。
企業存続にとって大切なのは、積み上げてきた信頼を守ることと、時代に合わせて変わることの両立である。全薬グループは持株会社体制のもと、創業以来の「効きめ」へのこだわりを、次のヘルスケアの価値へと広げようと尽力している。

全薬グループの事業の中心にあるのはヘルスケアである。OTC医薬品、基礎化粧品、健康食品、医療用医薬品、オーラルケア、除菌関連商品など、その領域は幅広く、生活者の日々の不調に寄り添うものから、医療現場で患者を支えるものまで、多様な形で人々の健康に関わっている。
最もよく知られているのは、前述にもあるかぜ薬「ジキニン」シリーズだ。かぜは誰にとっても身近な不調であり、大きな病気ではなくても、仕事や家事、学校生活に響く。ジキニンは、そうした日常の困りごとに長きにわたって向き合ってきたブランドである。
OTC医薬品では、ジキニンのほかにも、カルシウム剤「カタセ」シリーズ、滋養強壮系の「リコリス」シリーズ、漢方製剤の「アロパノール」シリーズなどを展開してきた。いずれも、生活者が自分の体調と向き合い、必要に応じてドラッグストアや薬局で相談しながら選ぶ商品である。
スキンケア事業では、敏感肌用基礎化粧品「アルージェ」シリーズ、エイジングケア発想の「ジュレリッチ」シリーズなどを展開。背景にあるのは、創業まもなく始まった皮膚病薬の研究と相談活動だ。敏感肌、乾燥、ニキビ、年齢に伴う肌の変化など、肌の悩みは医療と美容の間に位置しており、同社のスキンケアは、美しさだけでなく、“肌を健やかに保つ”というヘルスケアの視点を持つのが特徴であり、非常に製薬企業的なものと言える。
健康食品分野では、医食同源の考え方のもと、健康素材を取り入れた「養生」食品シリーズなどを展開。健康食品市場は競争が激しいが、製薬企業としての品質管理や安全性への姿勢が他社製品との差別化となっており、これは生活者にとって大きな安心感を与える。
医療用医薬品では、悪性リンパ腫治療薬「リツキサン」などの実績があり、店頭で選ぶOTC医薬品とは異なる領域だが、患者に希望を届けるという意味では、同じ理念でつながっている。身近な不調に応えることも、専門医療に貢献することも、根底にあるのは「効きめで奉仕する」という創薬理念を貫いている。
全薬グループの商品群は、一見すると多くのカテゴリーに分かれている。しかし生活者の側から見れば、それらはすべて「毎日を健やかに過ごすためのもの」であり、創業75年で培った信頼を土台に、同社はこれからも、身近な健康課題から専門性の高い医療領域まで、幅広く支えていくことを目指す。
全薬グループはサステナビリティの取り組みにも注力する。製品・サービスの安定供給、地球環境への配慮、人材投資、リスクマネジメント、多様な価値観に対応した製品・サービスづくりなど、製薬・ヘルスケア企業としての責任を広くとらえているからだ。
象徴的なのが、栃木県大田原市の栃木工場。1985年に操業を開始した同工場は、那珂川のほとりに位置し、豊かな自然環境に囲まれていることから「公園工場」とも呼ばれる。全薬工業は2006年に環境マネジメントシステムISO14001の認証を取得し、資源・省エネルギー、廃棄物排出の抑制、環境負荷の低減に取り組んできた。
地域との関わりも大切にし、2009年には、河川や道路の環境美化に取り組む「愛リバーとちぎ」「愛ロードとちぎ」の実施団体に認定され、2023年には栃木工場が「とちぎSDGs推進企業」に登録。社員一人ひとりが日々の仕事を通じてSDGsへの理解と実践を深めている。2026年2月に「愛リバーとちぎ」の活動に対して、栃木県の福田富一知事から知事感謝状を授与された。



さらに次世代育成にも注力する。八王子市や文京区、豊島区、板橋区などでは、キャリア教育副読本を通じて、製薬事業の役割や仕事の内容を子どもたちに紹介。また、小学生から大学生までを対象に、正しい薬の使い方やスキンケアをテーマにした出前授業も実施している。


薬は、正しく使ってこそ本来の価値を発揮する。子どもたちが早い段階から薬との付き合い方を学ぶことは、将来の健康リテラシーを育てることにもつながる。スキンケア講座や研究開発センターでの職場体験も、化学や製薬の仕事に触れる貴重な機会になっているだろう。

創薬理念の「効きめを創り、効きめで奉仕する」という言葉は、医薬品づくりの精神を示すものだ。だが、今の全薬グループにとって、その「効きめ」は製品だけに限らない。環境への配慮、地域とのつながり、次世代育成もまた、社会を少しずつ良い方向へ動かす効きめである。
――創業76年を迎えた全薬グループは、その歴史で育まれた生活者・患者との信頼を核として、社会とともに歩むヘルスケア企業として新しい時代へ向かっている。