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特別インタビュー/薬王堂 取締役 常務執行役員 営業本部長 西郷 孝一 氏

特別インタビュー/薬王堂 取締役 常務執行役員 営業本部長 西郷 孝一 氏
EDLP導入や効率化、PB戦略で薬王堂の成長に大きく寄与



2024年1月12日、薬王堂のトップ人事が発表され、3月1日付で取締役 常務執行役員 営業本部長の西郷孝一氏が代表取締役 社長執行役員に就任することが明らかになった。偶然にも2023年11月に同氏にインタビューをお受けいただき、社内改革やEDLP導入、効率化、PB戦略などについてお聞きした。(記事=佐藤健太)


西郷常務の社長就任に関する記事はこちらから。

https://hoitto-hc.com/9327/


――薬王堂は創業から45年が経過しました。

西郷氏 実は、薬王堂と私は同い年で、1978年4月に薬王堂が、11月に私が誕生し、お互い45歳になりました。母(西郷喜代子氏・現代表取締役副社長)が薬剤師の免許を持っていたことがきっかけで、父(西郷辰弘氏・現代表取締役社長)と共に薬王堂を創業し、医薬品小売業に参入したと聞いています。

私はアメリカの大学を卒業後、花王に入社し、それから2012年に薬王堂に入社しました。そのころの薬王堂は、社員のガッツやモチベーションによって支えられてきたように思います。それを全て否定するわけではないのですが、やはり限度がありますし、社員やスタッフのキャパによって現場の動きが大きく左右されてしまいます。

当社の社員には真面目に働いてくれる人が多く、これは企業のベースとしては素晴らしい部分です。そこで経営陣や上司が思い付きのような仕事を与えずに、きちんと道筋を明らかにすれば、薬王堂は強固な企業になると感じました。真面目に働くドラッグストアを運営している現場には大きな問題はなく、改革をしなければならないのは本部、特に商品部だと思っていました。


――なぜ商品部に目をつけたのでしょうか。取り組みと成果をお聞かせください。


西郷氏 当時の商品部は、目の前の仕事をこなそうとするがあまりに混沌としてしまい、何が成功か、失敗かも判断できない。商談に関しても、バイヤーはバタバタと来週・再来週の商談をしていて、さらに当時商品を統括していた責任者の指示が入ると売り場を変えなくてはいけない…など、店舗からすると「意味がわからない」という状況でスパイラルしていました。この状況をなんとか変えていかなければと強く思いました。ここで「今日から2ヶ月は無視してもいい!」と、3ヶ月後を見据えた商談に無理やり変更したのです。

そして毎週・毎日・顧客によって変えていた売価を多くても年2回に減らすEDLP施作をスタートしたのはこのころになります。当時ドラッグストア業界でEDLPに取り組んでいたのは少数の企業で、まだSKUも限られている状況でした。他社の動きを学びながらEDLPに取り組み、少ないSKUではお客さまから気付いてもらえないため、これを覆すために少しずつレイヤーを増やしました。

EDLPを取り入れた当初は売上増・粗利減でしたが、それを我慢していたら粗利が上がってくる。ただしEDLPを増やしすぎると粗利が下がり続けることもあり、バランスを見極めるのは非常に難しかった記憶があります。ようやく約3年で売上構成比・粗利のバランスが分かり、これをこのまま維持しているという具合です。

また、私が営業責任者に就任して以降は、現場の生産性向上と効率化を強力に進め、やめるべき仕事をやめ、やるべき仕事を明確化しました。そして店舗運営にシステムとデータを導入し、さらなる効率化に向かっていきました。このノウハウは花王で勤務していた際に学んだもので大いに役立ちました。現場からは「仕事が楽になった」「目的がわかりやすくなった」と声が上がり、目で見ただけでも明らかな成果を得ることができました。


――西郷常務がおっしゃるように「薬王堂=EDLP」というイメージがあります。


西郷氏 薬王堂のEDLP比率は約30%で、ハイ&ロー比率は約15%となっています。競合他社を意識し、チラシなどによる価格訴求に取り組みながら、この15%を引きつけておくことは非常に重要だと考えています。EDLPだけに偏らず、ハイ&ローとのバランスを取りながら売上と粗利を安定的に維持していくことが、店舗の力を一層高める戦略だと認識しています。


――薬王堂は福島県南部まで勢力を拡大しています。


西郷氏 ドラッグストア業界全体を見ると、他社も大きく成長していますので、当社は少し出遅れた感じがあります。今からでも間に合う可能性もありますので、アクセルを踏みにいくところです。

当社の商圏人口は約7,000人とされていますが、この指標はあまり当てにはしていません。なぜならドラッグストア各社は積極的に出店しており、商圏内に7,000人いたとしても、競合店の数で環境は大きく変化するからです。そこで重要になるのは店舗の吸引力だと思います。当社の店舗は、EDLPが生み出す売り場の安定による高い来店頻度を武器にしています。月6回も来店してくださるポイントカードユーザーも多くいますし、平均でも月4回ほど、特に多い8月では月6.5回になることもあります。この吸引力が、薬王堂の好調な業績に寄与しているのは間違いないでしょう。


――薬王堂の出店立地を見ていると「なぜここなのだろうか?」と感じる立地が多くあります。その理由をお聞かせください。


西郷氏 これはデータサイエンスでもなんでもなく、父のセンスと、それをたまたま完璧に引き継げた私の親子のDNAですね(笑)。出店に際しては、当社の店舗開発の基準で評価し、社長と私で判断していますが、約9割は正解しています。ここだけはセンスの問題ですので言語化できていません。


――商品部の改革やEDLPの推進、店舗の効率化などで腕を奮ってきた西郷常務ですが、創業者であるご両親とのぶつかり合いはありましたか。


西郷氏 当然ぶつかることはありましたし、普通の家族よりも喧嘩の数は多いと思います。それはもう口を利かないくらい(笑)。ただ、両親も私も薬王堂に対する想いがあるからこそぶつかり合うのであって、そこで結果を出すことで認めてもらえましたし、私の成長にもつながったのだと感じます。特に私は、父ができなかったことを激しいスタイルで取り組んできましたので、「間違ってはいないけれどやりすぎだ!」とぶつかることが多かったです。


――PB戦略についてお聞かせください。


西郷氏 現在当社のPBは商品構成比の9%ほどで、上げたとしても12%程度だと考えています。当社の規模で多くのPBを取り扱おうとするとロットの問題で無理やり感が出てしまいますし、中には新規開発もありますが、現状では数を増やすよりは「売れている商品を、もっと売れるようにする」という方向性が正しいと判断しています。一時期PBをたくさん作ったことはありましたが、ここ数年で商品数を4割ほど減らしました。ただし、残っている商品は、1商品あたり125%程度で成長していますので、売上構成比はシュリンクしていません。

また、PBよりもNBを大切に売っていきたいと思います。NBはメーカーが莫大な時間と労力、コストをかけて生み出される商品です。そうしたNBをPBは上回ることは大変に難しいことですし、広告宣伝という意味でもNBは店舗が享受できるメリットも大きいですので、その価値は大きいと位置付けています。


――ありがとうございました。


(略歴)
西郷 孝一(さいごう・たかひと)
米ノースイースタン大卒後に花王入社。2012 年4月・薬王堂に入社。19 年3月・薬王堂 執行役員 経営戦略本部長、20 年5月・薬王堂 取締役 常務執行役員 経営戦略本部長、21 年5月・薬王堂ホールディングス 常務取締役(現任)、22 年3月・薬王堂 取締役 常務執行役員 営業本部長(現任)を歴任。24年3月・薬王堂代表取締役社長執行役員に就任予定。