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自治体もスタートアップも巻き込み道内コンソーシアムを形成 地域と生きるDgS〜北海道編〜サツドラHD

2020年9月に札幌市東区に移転開設した本社ビル

2025年に10兆円産業になると予測されるドラッグストア業界。店舗数は増加の一途だが、ナショナルチェーンの寡占化により、企業数は毎年減少している。そうした中で近年のリージョナルチェーンは、独自性に磨きをかけ得ることで、従来とは次元の異なる成長路線を歩み始めている。その1社、北海道に本社を置くサツドラホールディングス(富山浩樹社長 CEO)は、地域と共に生きる姿勢を強く打ち出し、産官学との有機的コンソーシアムを形成し注目されている。同社の取り組みの一端を紹介する。(取材と文=八島充)

店舗は社会課題解決の窓口

サツドラホールディングス(サツドラHD)は1972年、創業者の富山睦浩氏(現特別顧問)が札幌市西区(当時の手稲区)のスーパーに「サッポロドラッグストアー」を出店したのが始まり。83年の株式会社化後は多店舗化によって売上を伸ばし、2004年にジャスダック上場、2010年に札証に重複上場、13年に東証二部、14年に東証一部に上場している。今年は設立51年となる。

富山浩樹氏が第二代社長に就任したのが2015年で、翌16年に持株会社体制に移行し、店舗の愛称を冠した「サツドラホールディングス」をスタートさせた。以後は店舗を社会課題解決の窓口と位置付け、地域のヒト・モノ・コトをつなぐ「地域コネクティッドビジネス」を志向。従来のドラッグストア業界の概念には無かった、新たな事業を次々と展開している。

相互の資産を1つ屋根の下で形に

3,500点の蔵書が揃う「EZOHUB SAPPORO」 2階中央部吹き抜け部分

同社の方向性を象徴するのが、2020年9月に札幌市東区に移転開設した本社ビルである。建物は地上3階建で、1階がイベントスペースを備えた店舗「サツドラ北8条店」、2階が「EZOHUB SAPPORO」と呼ばれるインキュベーション(起業支援)オフィス、3階が本社執務スペースとなっている。

「EZOHUB SAPPORO」 は、2階中央部吹き抜け部分に約3,500点を蔵書する多目的ラウンジがあり、それを囲むように、コワーキングスペースやイベントスペース、会議室などを配置し、その奥にテナント企業のオフィスが続いている。

自由な用途に応えるコワーキングスペース

会員になればWi-Fi完備のコワーキングスペースや大小会議室、イベントスペースを格安で借りることができ、書籍の閲覧も自由。サツドラHDの取引先にとどまらず、企業、自治体、教育機関、各種コミュニティとの交流の場として利用されている。

テナント企業は直近で13社が入居し、サツドラHDと様々な分野で協業している。

中でも、店舗の販促や映像プロモーションを手掛けるメディコム、メディア事業やネット広告事業を手掛けるサイバーエージェント、さらにAIカメラを用いたソリューション企業のAWL(アウル)は、昨年にサツドラHDのグループ会社・サッポロドラッグストアーとともに、小売業向けのデジタルサイネージを使用した広告事業プラットフォームを開発し、様々な広告配信を行っている。

「各企業が持つノウハウ・資産を1つの建物の中で議論をし、その実験を1階の当社店舗で迅速に実施し、実用化に向けて実験を重ねられるのはEZOHUB SAPPOROの大きなメリット。3社が開発したデジタル広告事業プラットフォームは当社のDX戦略の一翼も担っており、独自の取り組みや販促協業にもつながっています」(サツドラHD CEO室CI・広報チームの小寺氏)

DX含む最新の取り組みを注入
    ――サツドラ北8条店

天井から吊り下がるカメラ群

本社1階の「サツドラ北8条店」では、DX戦略を含む同社の最新の取り組みが垣間見られる。

大型モニターのサイネージの上にもAIカメラが

同店は売場面積が約445坪、50台の駐車場を備えた大型店である。売場には調剤薬局、イートインスペース、イベントスペースも併設しており、「地域課題の解決の機能も兼ね備えた新しい小売店の形」という、サツドラHDのビジョンを体現している。

入口を入るとまず、天井から通路に向かって垂れ下がる多数のカメラが目に入る。ゴンドラエンドには大型のデジタルサイネージが何台も配置され、そのモニターの上にはAIカメラが設置されている。

これらAIカメラで、個人情報に抵触しない形で顧客の顔認識をし、どの順番でどの売場に立ち寄るのか、またどれくらいの広告視聴がされているかなどを追跡しており、性別、年齢層、視聴時間などから分析することで、効果的な販促や売場づくりに活かしている。

敷地内のクリニックからも処方箋を応需する調剤薬局

入口右手の調剤室はガラス張りで、業務を行う様子が売場から見える。調剤室の奥には今年5月に導入したという黒い箱があった。その名は「薬局ロボットBD Rowa™️システム」で、医薬品の入庫とピッキングを自動化し、人的ミスの防止と業務効率の改善を図る最新のマシンである。

薬局ロボット内の様子を映し出すモニター

庫内の中の様子は、通路に設置したモニターに映し出されていた。訪れた患者に、安心感とともに一種のエンターテインメントを提供している。

顧客も買い物通じて地域を支援

無料のヘルスチェックコーナー

オーダーサプリメントコーナー

カウンセリングにも応える漢方薬コーナー

調剤室前から奥に進んだヘルスケアゾーンでは無料で使えるヘルスチェックコーナーがあり、その隣ではオ―ダーサプリメントコーナー、漢方薬コーナーが連動していた。同コーナーの前には個々に仕切られた机があり、常駐の管理栄養士らによるカウンセリングが行われている。

サッカーJ1リーグのコンサドーレを応援する商品の一例

売場のいくつかの場所に、地元サッカーチームの「北海道コンサドーレ札幌」を応援する関連商品が見られた。

また、今年3月には、同社も参画する「EZOCA※コンサドーレサポートプログラム」で拠出した還元金が、同チームに贈呈された。コンサドーレEZOCAを使ってプログラム参加店でお買い物をされた金額の一部がチームに還元するもので、こうした活動の1つ1つが、地域生活者の支持率を集める材料となっている。

(※EZOCA=サツドラHDのグループ会社であるリージョナルマーケティングが運営する北海道共通カード)

サッポロドラッグストアーは早くから生鮮を含む食品を強化してきた企業として知られるが、同店はそれをさらに進化させていた。スーパーマーケットにも引けを取らない品質の精肉や惣菜売場、リーチインケースで品揃え豊富に展開する冷凍食品売場、洋酒からライトリキュールまで充実している酒類売場などがそれだ。

豊富な品揃えかつ安価が強みの精肉売場

リーチインの冷凍庫で提供する冷凍食品
有力テナントが運営する惣菜売場
酒の品揃えもスーパーに引けを取らない

高齢社会の新たな経済モデルに

EZOCAカード

最後に、同社のグループ会社であるリージョナルマーケティングが進めるコンソーシアムの実績を一部紹介する。先述した北海道共通カードのEZOCAは210万人に発行され、提携店舗は800店を超えた。最近は自治体とも提携を進めており、自治体オリジナルEZOCAでは、道内のサツドラ店舗での購入金額の一部を提携自治体に還元している。

昨年には札幌大学の敷地内に出店し、店舗で得た販売データを授業に活用する取り組み(データサイエンス)も始まった。このほか経産省・国交省ともに、公共交通の維持や地域活性化なども目的としつつ、店舗に足を運んでいただくMaaS実証実験も進めている。

北海道は高齢化の上昇率が高く、高齢者が生産者の数を上回る自治体の数も増えている。サツドラHDが進める産官学コンソーシアムは、高齢社会の社会課題解決を図る狙いもあり、その活動が日本を支える新たな経済モデルになる可能性を秘めている。ドラッグストア企業としては中堅クラスながら、地域密着度でトップレベルの同社を、今後も注視していきたい。(了)