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スギ薬局「羽田イノベーションシティ店」
売場の制約超えて需要を創造

DXフル活用で近未来の実験スタート

我が国の先端産業拠点・クールジャパン発信拠点を目指して整備された「羽田イノベーションシティ(HICity)」。B棟(写真)の2階にスギ薬局の店が出店している

「SUGI+羽田イノベーションシティ店」が出店する「羽田イノベーションシティ(HICity)」は、我が国の先端産業拠点・クールジャパン発信拠点を目指して整備された施設。延床面積約13万㎡を超える物件に、研究開発施設・オフィス、先端医療センター、イベントホール、宿泊施設、日本文化体験施設、飲食施設など多彩な施設が集積する。最寄りは京浜急行線と東京モノレールの「天空橋駅」で、「羽田空港第3ターミナル駅」から1駅の位置にある。

「SUGI+羽田イノベーションシティ店」は、藤田医科大学東京最先端医療研究センターの開局に合わせ、HICityのB棟2階部分に9月28日にオープンした。店舗面積は約100坪で、うち物販が約80坪、調剤室と待合室を合わせて約20坪の規模である。

店舗を案内してくれた山下部長とモニター越しにお辞儀するSaya+さん

同店のコンセプトは、「ヘルスケアの最先端を体験できるDX実験型店舗」で、開発には同社のDX戦略本部が携わっている。自動車部品メーカーのアイシンとパートナーシップを結んでおり、外看板にも「SUGI+powered by AISIN」と表記されていた。

入口すぐのモニター前を通ると、見習い店員「Saya+」さんに「いらっしゃいませ」と声をかけられた。人間同様にOJTで接客を学ぶAIのシステムだそうで、悩みを質問すると解決方法を示してくれた。

「何やら普段の店とは違うな〜」と感じ振り返ると、通常なら季節品等のプロモーションとなるスペースに、同店の最大の特徴である体験スペースがあった。陳列された商品群は従来のドラッグストアで見かけないものばかりで、まるで商品見本市のような光景が広がっていた。

未来のヘルスケア商品が展示された提案コーナー

例えば、タンパク質量や皮下脂肪量、骨格筋量まで測れる体組成計(ミラーフィット)、バスマット型の体重計(issin)、携帯型心電計(高度管理医療機器、オムロン)、赤ちゃんの体動をモニタリングするセンサーやカメラ(ベビーセンス)など。いずれもアプリと連動してスマホで気軽に管理ができる、近未来のセルフチェック機器群である。

このほか、かけることで近視リスクの回避が期待できるという眼鏡(クボタビジョン)、エステサロン品質の美顔器(ベレガ)などの高額な商品も紹介されていた。

店舗を案内してくれた店舗DX推進部(取材当時)の山下光宏部長は、「健康に対する気付きを与えることが目的なので、あえて価格帯にはこだわっていません。商品に対するお客様の感想をデータ化してメーカーさんと共有しており、マーケティングに活かしていただく狙いもあります」という。

体験コーナーの一角に一脚の椅子があった。座った人の状態を「活動的」「良好」「疲労」の3段階で検知し、「疲労」の場合にリフレッシュ機能が働く。これもパートナーのアイシンが開発した製品で、モニタリングを通じて活用の場を研究しているという。

同店は現在、ヘルスケアを切り口に商品のテストマーケティングを実施したいメーカーの参画を広く呼びかけている。今後HICityは企業のオフィスの誘致も進める計画で、イベントに訪れた客や宿泊客、空港利用客、さらにオフィスワーカーといった、ターゲット別のマーケティング活動も可能となる。

3カ所ある店舗の入口にはAIカメラも設置されており、どのような層が、どのように売場を滞留するのかも検証していくという。

さらに体験コーナーでは、スギ薬局独自の商品やサービスの一端を垣間見た。その1つが、「アピアランス(外見)ケア」の一環として取り組む、医療用ウィッグのコーナーだ。

同社は15年ほど前から、一部店舗で「がんケアコーナー」を展開している。店舗ではがん患者の相談窓口を設け、医療用ウィッグを含む関連商品も販売している。「SUGI+羽田イノベーションシティ店」でも、50点にのぼるウィッグのサンプルを自由に手に取り試せる。

基礎化粧品PB「Prieclat」のコーナーに、大きな鏡が据えられていた。なるほどテスターを試すのに便利だなと思ったら、それだけではない。鏡がモニター画面となっており、会話が文字になって表示されていく。

これはアイシンが開発した意思疎通支援システムで、主に耳が聞こえにくい顧客とのコミュニケーション手段として活用するものだという。発した言葉は英語、中国語、韓国語ほか22カ国の言語に変換可能で、インバウンドへの対応にも有用である。

同システムは調剤カウンターにも設置され、患者と薬剤師の意思疎通を支援している。このほか持ち運びできるタブレット型のシステムも用意しており、顧客からの不意の問い合わせにも対応が可能となっている。

オリジナルのピクトグラムも掲げられている

定番ゴンドラの上方に、スギ薬局が独自に考案したピクトグラムがあった。インバウンド客でも迷わず商品に辿り着けるような工夫である。また、ゴンドラや展示テーブルは全てキャスター付きで容易に移動ができる。新商品発表会などのイベント時に合わせてレイアウトを変更しているという。

全てのゴンドラにキャスターをつけて臨機応変に売場レイアウトを変更する

取材を終えて…

同店はあくまで実験店で、多店舗化ありきのものではない。ただ取材を終えてワクワクした気持ちで店を出たのも事実。日常を支えるドラッグストアが街に溢れる中で、新たな機能を提案するこのような店があれば楽しいだろうに…と言うのが率直な感想だ。

同店の狙いは、「DXを用いて店頭の可能性を模索する」「メーカーのテストマーケティングを促す」のほかに、「スギ薬局は最先端かつユニークな取り組みを考え行動している」ことを、学生など将来を担う若者に知ってもらうことだという。

ドラッグストアが生活のインフラとして定着して30年近くが過ぎる。成熟期に入った業界が成長を維持するには、業態をいっそう進化させる必要も出てくる。同店から発想を得て、若者がイノベーションをおこしてくれることにも期待したい。(了)