4月28日、創業205年の和菓子屋・榮太樓總本鋪の新社長に、これまで取締役副社長だった細田将己氏が就任した。細田新社長は、ヘルスケア和菓子「からだにえいたろう」ブランドや女性向けの「あめや えいたろう」ブランドなどを中心になって仕掛け、伝統を守りながらも和菓子に新たな価値を付加する商品開発に注力してきた。今回、新社長に就任した想いと、商品開発に対する考え方を聞いた。
――社長に就任された際、社内にはどのようなメッセージを出しましたか?
細田社長 「生涯働きたい榮太樓」というキーワードで話をしました。もちろん長く働いてくれる社員もいますが、一方で、数年で退職する若い人材も存在します。今時ではないかもしれませんが、「この会社で一生働きたい」と社員が感じられる魅力を作り上げていきたい。それはお給料と働きがい、両面においてです。現在よりも、モノと心の充足感を感じてもらえるような企業に成長させたいと考えています。
当社は「古い・新しい」「流通向け・ギフト用」といったベクトルが全く違うものを同時に対応している企業です。例えば「古い・ギフト用」は、「榮太樓飴」や「金鍔」など昔ながらの商品、「新しい・流通向け」というと「からだにえいたろう」ブランド、「古い・流通向け」としては60年以上も販売させていただいているあんみつの缶詰、「新しい・ギフト用」は女性向けの「あめや えいたろう」など。
時間は巻き戻せませんので、歴史が長い商品を大切にしつつも、時代のニーズに合致した新たな商品にもチャレンジし、私が引退する時分には「お客さまから愛されている」と評価できる商品を、1つでも2つでも残していきたいと思っています。
――「からだにえいたろう」「あめや えいたろう」など長い歴史の中で培ってきた菓子作りの技術を、今風にアレンジする切り口から生まれたブランドですね。
細田社長 1つの商品でもマーケティングの切り口を変えたり、極端にいえばネーミングを変えただけでも購入客層や売れ方にも変化が出てきます。特に食品に対して、お客さまはコンサバな部分がありますので、「面白い」と感じていただけても、手を伸ばすのは馴染みの商品だったりもします。「昔からある商品なのだけれど、少しの変化がある」という商品でしたら、比較的ご購入されやすい傾向にあり、この切り口での工夫の仕方は無数に存在すると思います。
――これまでどのような工夫がありましたか?
細田社長 昔ながらの商品に「紅白饅頭」がありますが、賞味期限は2〜3日。お客さまが購入し、召し上がるころには、どうしても皮が乾燥しがちになってしまう問題がありました。日本中をリサーチしても全ての紅白饅頭が似たような日持ちでした。
そこで当社は「美味しく召し上がっていただける期間を長くしたい」と考え、トレイに入れて密封することで賞味期限を約2週間に伸ばし、乾燥しないためしっとりと美味しい状態を保つことを実現化しました。もちろん添加物は使っていません。ようやく「美味しいままお客さまに提供できる」と社内で喜んでいたら売り上げが10倍に伸び、予想外の動きに驚いたことがありました。
やはり2〜3日の日持ちでは、お客さまは「買いにくい」という心理になってしまいます。また、紅白饅頭を地域のイベントでお配りする際は、日持ちの影響で、近所の和菓子屋さんに発注する”地場産業”的な立ち位置にあったのですが、その和菓子屋さんも時代と共に減少し、絶滅危惧種のような存在になっています。
こうした状況でしたので、2週間日持ちする紅白饅頭をご紹介すると、お客さまから安心してご購入いただけましたし、さらに使用用途も多様化し、これが結果的に10倍の売り上げとなりました。「美味しく召し上がれる時間を伸ばす」。たった1つを変えるだけで、「こんなにも商品の動きが変わるのか」と実感を得ました。
お客さまのニーズに耳を傾け、それを既存商品や新商品に結びつけていく工夫。難しい部分もあるとは思いますが、積極的にチャレンジしていきたいと思います。
――ありがとうございました。