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ヘルスケアレポート『拓かれゆく、がん予防への扉』 

Craifが開発した7種のがん発症リスクを
判定するスクリーニング検査、
ドラッグストアでの普及始まる


二人に一人が、がんに罹患する時代。『がん対策基本法』が2007年に施行されてから16年目が経過した今、がんは、未だ死因の第一位に挙がり、罹患者数100万人、死亡者数は38万人と相変わらず増え続いている。そこで、がん検診率を向上へのアプローチが進められる中、1回の採尿で大腸がんや肺がん、乳がんなど最大7種のがん発症リスクを判定するスクリーニング検査が、がんの早期発見の武器としてクローズ・アップされている。尿中から採取される現在の体の状態を把握するのに適した物質のマイクロRNAを抽出・分析することによって、がんの罹患リスクを判定するものだ。全国30の大学病院・がん研究センターとの共同研究で実現した検査で、開発したのは名古屋大学工学部発ベンチャー企業の株式会社Craif。『miSignal(マイシグナル)』のブランド名で、350の医療機関を通じ普及する傍ら、5月からは札幌を拠点として店舗展開するドラッグストアチェーンのサツドラホールディングスが運営するサッポロドラッグストア約10店舗での取り組みが始まる。開発元のCraif代表取締役社長(CEO)の小野瀬隆一さんに、がん医療に取り組む思いと、尿で、がん発症リスクを判定するスクリーニング検査について聞いた。記事=ヘルスケアジャーナリスト・瀬戸 寛(せと かん)


■次世代尿検査『マイシグナル』とは?


「尿中核酸解析よるがん早期発⾒・がん克服に向けたコンソーシアム“CRUSH-Cancer”に参画」―今年2月28日、ニュースリリースが発信された。静和記念病院(札幌市)、北⽃病院(帯広市)、森⼭病院(旭川市)に加え、札幌市内を拠点にサッポロドラッグストアを運営するサツドラホールディングス株式会社、採尿でがん発症リスクを判定するスクリーニング検査を開発したCraif株式会社との5者間で、がんの早期発⾒と早期治療を⽬的としたコンソーシアムを発⾜することを紹介したものだ。

ニュースリリースの発信元は、がん領域を中⼼に疾患の早期発⾒や個別化医療を実現するための次世代検査開発に取り組むCraif。同社が、がんの早期発見・早期治療へ開発した『マイシグナル』は、現時点で、がんに罹患している可能性を判定するだけでなく、将来的に、がんを発症するリスクを調べられる次世代尿検査。

マイクロRNAとは、細胞間のコミュニケーションを担う伝達物質。がん細胞などでは特定のマイクロRNAの増減が見られることがわかっていて、『マイシグナル』では、独自技術を用いた様々なマイクロRNAの発現パターン情報を収集しAI解析を行うことで、がんリスクを判定しているという。1回の尿を採取し大腸がん、肺がん、胃がん、乳がん、膵臓がん、食道がん、卵巣がんの7種のがんが調べられるのが特徴だ。


■祖父と祖母が、がんになったことがきっかけで2018年4月に起業


Craif代表取締役社長(CEO)の小野瀬隆一さん


「祖母が大腸がん、祖父も肺がんとなり、とくに祖母は、がんの宣告を受けてから1か月後に亡くなったことで、がんという社会的な課題が自分事に感じられ、がん対策に取り組むようになりました。がん治療は、薬を投与しても根本的な解決にはなりませんし、早期発見が重要ですから…」

がん対策に取り組んだきっかけを話す小野瀬さんは、幼少期をインドネシアと米国で過ごした。早稲田大学国際教養学部在籍時に、カナダのマギル大学に交換留学。卒後、三菱商事に入社し米国からシェールガスを輸入するLNG事業に従事していた。

「ヘルスケア関連とは関係がなかったのですが、相次いで家族が、がんになったことがきっかけで、がんに関連したビジネスで起業しようと思い三菱商事を退職しました」

がんとの戦争に終止符を打つことをミッションに、「がん医療の改革」を目指していた小野瀬さんは、2018年3月に一人の人物と出会った。名古屋大学大学院工学科・生命分子工学専攻准教授だった安井孝雄さんだ。1mlの尿から、がんを特定する技術を発見し実用化するために、小野瀬さんと安井さんは出会ってから1か月後には、Craifを共同で創業したそうだ。


■普及先は医療機関以外にサツドラにも導入


「人々が天寿を全うする社会の実現」をビジョンとするCraifが目指すのは、「がん医療の民主化」。あるべきがん治療として、①がんが発見される場所…自宅、②見つかるタイミング…早期で小さいタイミング、③治療オプション…簡単な手術で切り取るのみ、④がん治療のイメージ…虫歯の治療と同じ感覚の4点を掲げ、「がんを自宅で手軽に低価格で早期発見できる次世代検査を開発し、がん医療の全体像を変革する」ことを目指した小野瀬さん。では次世代検査の啓蒙について、どのように展開しているのだろうか?

「現在、350ほどの医療機関に導入されていますし、大手企業では50歳以上のスタッフに検査費用を負担されているケースもあります。さらにサッポロドラッグストアーを運営するサツドラさんも、5月から約10店舗を通じ啓蒙してくださることになっています。

これまで取り組んできた技術を、さらに発信していきたい」と話す小野瀬さん。ちなみにCraifのがん発症リスク検査は、自宅もしくは医療機関の院内で採尿後、提出すれば約2週間〜約1か月後に結果表が受検者に送付される。「疑いあり」となった場合、必要に応じて追加検査に関する情報提供や、がんのリスクを下げる生活改善をアドバイスする仕組み。

治療から予防へ、がん対策は行政、企業、医療機関、ドラッグストアや調剤薬局等々に国民も情報を共有し、検診率向上と早期発見へ積極的な普及・啓蒙が不可欠だ。今後の活動に期待したい。