昨今、在宅医療における無菌調剤が注目されている。2年前に東京都町田市に開局され、在宅医療に取り組んでいるフォーライフ薬局にも無菌調剤が導入されており、同薬局の経営トップ・小林輝信先生に、今までの在宅医療へ取り組み方と無菌設備導入前後の変化、これから在宅医療に一歩を踏み出そうとしている方への熱いメッセージを聞いた。
――これまで小林先生は在宅医療に積極的に取り組んでこられましたが、その理由をお聞かせください。
もともと調剤薬局に勤務する薬剤師として、外来の患者さんの対応をしていました。2003年に、この薬局が在宅医療を始めるために、地域のドクターにご挨拶させていただく中で、終末期医療をメインに取り組む先生と出会いました。これをきっかけとして、私の在宅医療のキャリアはスタートしました。
当時は、薬剤師による在宅医療はあまり一般的ではありませんでしたし、「薬を届けて、薬の管理する」という考え方が軸にあったと思います。
在宅医療の現場に行き、麻薬の調剤やペインコントロールに携わっていくと、とても感謝していただけます。これは調剤室で仕事をしていた頃と比較できないほどのものです。患者さんやご家族からいただける言葉の一つひとつが、在宅医療に取り組んでいくモチベーションになったのは間違いありません。
――在宅医療で薬剤師が重要とすべき点は?
やはり「患者さん中心の医療を提供する」という視点に尽きます。本当に患者さんのことを考えたときに、「この薬で正しいのか?」を分析し、「違う」と思ったときにチームのドクターに「この薬ではいけない」という話をできるかできないか。それが重要だと考えています。
私が在宅医療に取り組み始めたとき、少し怒りっぽいドクターでしたが、それは患者さんのためを思っての言動でしたし、私自身も患者さんを思う気持ちは負けていませんので、言い合いにはなることもありました。ですが、あくまでもヒートアップした議論の延長線上といったものです。そのやりとりが患者さんのQOLに直接還元されますし、そのドクターとは、ときには仕事でぶつかり合いながらも、認め合い、関係性を築いていきました。
――在宅医療を始めたころ、周りの温度感はどういったものでしたか?
当時勤務していたのは一般的な調剤薬局でしたので、周囲からは「外来の患者さんからの処方箋が多いのに、外に出られたら大変」のような感じに思われていたようでしたので、昼休みや薬局での仕事が終わってから患者さんのお宅に行っていました。
最初は「外に出ると人がいなくなる」と言っていた薬局も、売り上げを取れるようになってからは「外に出て行こう」のような感じになりました。結局、在宅を周るのは自分一人で、薬局の中にいる薬剤師たちが調剤してくれて、という役割分担でした。
7年ほどその薬局に勤務していたのですが、在宅医療について「つらい」と感じたことはありませんでしたが、いつかそれには限界がきてしまいます。
そうしたタイミングで違う薬局に転職。この薬局では、きちんと組織化して、持続的に在宅医療を提供できる環境づくりに注力しました。
その後、2021年にフォーライフ薬局を開局し、現在は月間150名を超える患者さんの在宅医療に取り組まさせていただいております。
――やりがいと働く環境が、薬剤師の在宅医療への参画に多大な影響を及ぼすのですね。
学生にも同様のことが言えます。大学では「在宅医療は必須だ」と教えられるのですが、教えている先生たちは在宅医療に携わったこともないというケースが大半です。実際に学生たちは病院実習や薬局実習に行くのですが、「その医療機関・薬局はどういう在宅をしているのか?」というところに左右されてしまいます。
前職では、必ず入社1年目の4月に終末期・末期の患者さんを対応させたりしてきました。薬の知識はまだついていないし、何もできることはないのですが、ただ、自分で良いと思って患者さんの為になることをしてもらいます。亡くなる人を目の当たりにして、薬剤師である自身が何を感じるか…。もちろん患者さん・ご家族からも感謝されるというやりがいもあるのですが、「在宅医療の根本的なところはこういうことだ」ということを知ることによって、在宅医療にどんどん興味が湧いてきます。
習ってきた薬学教育や、これまで働いてきた薬局とは違う、「医療人として患者さんとどのように向き合っていくのか」を深く考えると、「自分は医療にこう携わりたい!」という姿勢が見えてきますし、私はそれを見つけ出し、在宅医療から抜け出せなくなりました。
――近年、無菌調剤に対する注目度が高まっています。小林先生が経営するフォーライフ薬局にも無菌調剤が導入されています。
今から20 年ほど前は「在宅医療はシンプルに」という考え方が主流で、私自身も、当初は「無菌はそんなに必要?」と思っていました。ですが、麻薬のパッチが処方されるなどで、徐々にコントロールがつかなくなる患者さんも増えてきました。パッチを何枚も貼ると耐性がついてつかなくなってしまって、苦しんでいる患者さんを見ていたときに「やはり無菌調剤がないとコントロールつかないのかな?」と考えるようになりました。
やはり、無菌調剤を導入すると患者さんが増えます。コントロールつかないときに、次の手段が打てるようになります。今までだったら、「パッチを使ってダメだったら、レスキューで座薬を使って…」とやっていたのが「もうパッチも高容量になって厳しい。モルヒネの注射はできますか?」という提案があったときに、対応できることの幅が広がるという実感があります。
無菌調剤の導入前と導入後で考えると、導入後には「患者さんをどこまででも見ることができる」というメリットが生まれます。患者さんの母数が増えると、ニーズが細分化していきます。そのニーズに無菌調剤を導入すると対応しやすくなるというイメージですね。
また、無菌調剤の導入によって、今まで病院でしかできなかったことが在宅でもできるようになるので、今までは「病院じゃないと無理」と言われていた患者さんも在宅に帰ることができます。在宅医療のドクターたちも、提供できる医療の幅が広がることによって、より多くの患者さんを受けられるようになり、チーム医療の連携も進んでいくなど、無菌調剤はさまざまなシナジーを生み出すと思います。
私が最初に習ったドクターから「シンプルに」と教えていただいたのは、本当にその通りですが、時代が変わって、さまざまな容態の患者さんが在宅に帰ってきたときに、必要不可欠な設備。それが無菌調剤だと認識しています。
――最後に、小林先生は5月27日開催の「在宅無菌調剤トップランナー onlineセミナー」に講師としてご登壇されます。参加者の皆さんにメッセージをお願いします。
「在宅医療に携わりたい」と考える薬剤師は、たくさん勉強してからでなければ現場に対応できないと思っているかもしれませんが、誰もが最初から知識や経験があるわけではありませんし、実際に現場で得た経験を知識として醸成すればいいと思います。
ただ、「興味があるか?ないか?」というのが非常に重要で、いろいろな患者さんと接していく中で、徐々に在宅医療に興味を持つ薬剤師もいます。興味を持ちさえすれば、「知識が必要」と気づくと思います。在宅医療には、第一歩を踏み出す行動力と、どこまで行っても勉強しなければならないという覚悟が重要だと強く思います。
今回のセミナーは、在宅医療、そして無菌調剤に関心を持つきっかけになれば嬉しく思います。
今回の小林先生へのインタビューに興味を持たれた方は、ぜひ5月27日開催の「在宅無菌調剤トップランナー onlineセミナー」に参加し、小林先生からの熱いメッセージを感じて頂きたい。今回のセミナーは、在宅医療、そして無菌調剤に関心を持つきっかけなると確信している。
【在宅無菌トップランナー onlineセミナー】
5月27日(土)14時から開催
セミナー受講の申し込みは下記URLへ!
https://www.nikkamicron-zaitaku.com/top-runner/online-seminar0527/