ヘルスケア情報サイト「Hoitto! ヘルスケアビジネス」(ヘルスケアワークスデザイン株式会社)

Natural Products Expo West 2023 を訪問

Hoitto!的 アメリカ視察レポート
Natural Products Expo West 2023 を訪問

ビジネス直結のカテゴリーが拡大
〜米国「食と健康」の最前線に迫る

ヘルスケア産業先進国・アメリカで3月7−11日、ナチュラル、オーガニック、ヘルシーをキーワードにした展示会「Natural Products Expo West 2023」が開催された。各国で渡航制限が緩和された今回は、会場のアナハイム・コンベンションセンターに昨年を上回る約3,000の出展社と6万5,000人超の来場者が集い、熱い商談を繰り広げていた。今回は目新しい素材はやや影をひそめ、ビジネスに直結する有力なカテゴリーが拡大していた印象である。本稿では特に目についたプラントベースフード、マッシュルーム、そしてモンクフルーツに的を絞り紹介する。(取材と文=八島 充)

出始めた成長の芽に新規参入も

広い会場は1日で回りきれないほど。日本の展示会とはスケールが違う!

「Natural Products Expo West 」は、世界中のナチュラル、オーガニック、そしてヘルシーな素材・製品・サービスが一堂に介するアメリカ最大級の展示会。コロナの影響で2020年は開催直前に中止となり、2021年のオンライン開催を経て、2022年からリアル開催が復活している。

会場で生まれたトレンドが数年後に日本に上陸するとあり、邦人企業も無視できない展示会となっている。その内容は過去に訪ねた2018年と比べても大きく変化しており、同国のトレンドが激しく移り変わっていることを体感した。

5年前に前面に出ていたオメガスリーやプロバイオティクスはやや控えめとなり、今後のトレンドだと騒がれたCBD(カンナビジオール)、あるいは食糧危機を救うとされたコオロギプロテインなども、熱がおさまった感がある。

その一方、コロナ禍で停滞したビジネスの回復を期し、ここ数年で確実に成長した、あるいは成長の芽が出た商品やサービスをアピールする姿が目立っていた。

右肩上がり続くプラントベースフード

特に会場を賑わしていたのが、プラントベースフード関連のブースだ。

プラントベースフードの市場は教義や信条的な理由で形成され、カロリーや脂質過多などの健康上の理由で火がつき拡大が続いている。さらに近年は人口増に伴う動物性タンパクの供給不足や、家畜の飼育がもたらす環境負荷などを背景に、サステナブルな食文化として、改めて注目されている。

米国を中心にプレムアムフードを卸売しているUNFIのブース

 出展社の1つ、大手食品卸売のUNFIも、ここ数年はプラントベースフードの取引量が特に増え、植物由来のナゲットなどが売れ筋だという。このほか、コロナ禍で地産地消が求められたオーツ麦は原料・加工品とも売上を伸ばし、米などの水耕栽培の作付けが増加し、これらの関連加工品も増加しているとのことだ。

日本ハムの現地法人・Day-Lee Foodsのブース

 展示会の各ブースも、植物由来のミルク、代替肉を使用したハンバーガーのパテやタコスの具、魚を模した寿司ネタまで、バラエティに富んだ提案が目白押しだった。日本ハムの現地法人・Day-Lee Foodsのブースでは、定番メニューに加えてMEAT LESSを謳ったフライドチキンや、ビーガン向けの野菜餃子が注目を集めていた。

マッシュルーム(キノコ)に熱視線

マッシュルーム入り缶コーヒーを紹介する中国系のメーカー

 「マッシュルーム」を用いた食品群も目についた。

アメリカにおける「mushroom」は日本でいう「キノコ」の総称で、日常的に食されるほかLionMane(山伏茸)、Reishi(霊芝)、冬虫夏草のもとになるCordyceps なども、代替医療の素材として知られている。

マッシュルームを原料にしたサプリメントはすでに同国の定番だが、今回は特に、日常の食品に原料を加えた商品が増えていた。マッシュルーム入り缶コーヒーを提案する中国系のメーカーは、「健康に関するエビデンスがあるマッシュルームと、アメリカ人が好むコーヒーとを合わせた自信作だ」と語っていた。

マッシュルームの研究・開発は、現地の企業も精力的に進めている。今回のアメリカ視察では、その現地企業を取材しており、マッシュルームが“キテいる”理由と合わせ、近く当サイトで紹介する予定である。

モンクフルーツの出展が増加
各社LAKANTOをベンチマーク

目を引いたもう1つは、「モンクフルーツ」だ。

モンクフルーツは、日本でも「羅漢果」の名称で知られる甘みの強い果実。中国の広西省桂林周辺を原産地とし、同国では古来より「長寿の神果」などと呼ばれ珍重されてきた。ここアメリカでは、羅漢果の抽出物を加工した天然甘味料を総じてモンクフルーツと呼んでいる。

アメリカでは近年、人工甘味料離れ・砂糖離れが進み、それらに替わる天然甘味料を好んで摂取している。その代表はキク科の植物から抽出した「ステビア」で市場占有率もダントツだが、近年は飽和状態にある。これに変わる素材として、味や使い勝手が良く、かつ新規性や話題性の高いモンクフルーツが脚光を浴びている。

日本で羅漢果を原料とした天然甘味料といえば、サラヤが95年に上市した「ラカント」が知られている。同社は海外進出の足がかりとして現地法人・Saraya USA を設立し、2015年に商品名「LAKANTO」を引っ提げてアメリカに本格進出した。

「LAKANTO」は厳格な製造体制による安心・安全と高品質を差別化に、リアル・ネット双方の顧客に支持され、同国のモンクフルーツ市場を牽引する存在となっている。

センス良く装飾されたLALANTOのブース

豊富な最終製品のラインアップで米国市場を牽引する LAKANTO
モンクフルーツのパッケージはアジアンテイストを打ち出すものが多い
味と新規性を打ち出し商談に臨む

今回の展示会ではSaraya USAの他、様々な企業がモンクフルーツを用いた素材や多様な剤型の最終製品をアピールしていた。

いくつかの企業からコメントをもらったが、彼らは一様に天然甘味料市場の持続的な成長を口にし、モンクフルーツがステビアに変わる新たな勢力になることに期待を寄せていた。

すでにアメリカで成功する「LAKANTO」のブースには、ビジネスチャンスをモノにしたい来場者のほか、出展社も敵情視察に訪れていた。なおSaraya USAは先ごろ、ユタ州に新工場を竣工している。アメリカで盤石な市場を築き、各国進出への足がかりにしたいと考えているようである。

先頃ユタ州に竣工したLAKANTOの工場

そのLAKANTO新工場のレポートも後日紹介するのでお待ちいただきたい。

各種認証システムへの対応必須

「ヘルシースナッキング」を謳う菓子メーカーも多数出展していたが、その中の1社は、アメリカで「ヘルシー」を冠することの難しさを吐露していた。同国で販売(輸出)する食品群はFDA(Food and Drug Administration=アメリカ食品医薬品局)の認証が必要となる。その管理体制は日本の厚労省や消費者庁以上に厳しく、違反した場合は莫大な罰金や懲役が課せられることもある。

各種認証マークが記された小麦粉のパッケージ。QR コードを介して生産者の理念を詳細に紹介している

「ヘルシーさ」をエビデンスで示す姿勢も日本以上で、「GLUTEN FREE」はもとより、「NON GMO」(遺伝子組み換えでない)、「USDA ORGANIC」(オーガニック=有機・無農薬である)、「Vegan(ヴィーガン)」といった認証マークが影響力を持ち、マークがパッケージに記されているか否かが消費者の選択の基準となり売上も左右する。認証の取得と更新には相応の資金も必要で、中小企業には大きな壁になるとのことだ。

このほか、多様な人種で構成されるアメリカでは「ハラル」(イスラム法に則った商品)や「コーシャ」(ユダヤ教徒が口にして良い商品)などへの対応も無視できず、日本国内とは異なるビジネスの難しさがある。

◇ ◇ ◇

5年ぶりに訪問した展示会は、世界の潮流となったSDGsや企業のESG投資とも密接であることを感じさせた。プラントベースフードの推奨などは、人の健康とともに地球の健康の観点からも無視できない要素となっている。その意味でも同展示会は、健全な市場の形成に少なからず貢献していると言える。(了)

山本漢方も米国市場に手応え

会場の一角に山本漢方製薬のブースがあった。同社は青汁「大麦若葉」を引っ提げ6年前から展示会にブースを出している。同国のアジア系小売業で徐々に認知度を高め、先ごろCostco(和名=コストコ)でのテスト販売が始まった。「当社製品の評価は年々高まっており、手応えを感じている。今後はオーガニックのアピールを強化し、同国のヘルシー志向に応えていきたい」(同社・山本整社長)と語っていた。