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経済発展の裏に“卸売業”あり
プラネット玉生会長が「問屋有用論」を説く

株式会社プラネット代表取締役会長
      玉生弘昌氏

東大名誉教授の故・林周二氏が、1962年に出版した「流通革命」の中で “問屋無用論”を唱えたのは有名な話。その強烈なワードは60余年が経った今も、関係者の脳裏にこびりついている。しかし現在、問屋=卸売業は無くなるどころか、日本の流通に不可欠な機能として存在しているのはどうしてだろう。このほど中央物産(提坂直弘社長)の社内研修にて、プラネット会長の玉生弘昌氏が『「問屋有用論」〜日本の流通インフラの凄さ』の演題で講演した。日本の豊かな消費環境と経済の発展を、卸売業が支えていることを、清々しいほど明瞭に論じている。以下は玉生氏の発言の要旨である。(文・構成=八島 充)

中内ダイエーがもたらしたもの

ダイエー創業者の中内㓛氏(1922 – 2005)は、「安売りの哲学」を貫き一時代を築いた方です。哲学の背景には戦後の貧しい時代がありましたが、やがて飽食の時代を迎え、1980年台には安売りが元凶となり、物価と所得が下がる、デフレスパイラルに陥ります。

2001年、経営悪化の責任をとって中内氏は辞任した

デフレスパイラルから脱却するには、価格を適正値に戻す必要がありますが、当時のメーカーや卸は「値下げに応じなければ取引できない」と言われる環境にありました。変化対応業である流通業界にあって、「安売りの哲学」を今なお信奉している方も、残念ながら少なくありません。

林周二氏(1926-2021)が、“問屋無用論”を唱えた著書「流通革命」を発刊したのは1962年(ダイエー創業の5年後)です。60年も前の本なので、読んでいない方もいると思います。

その中に――、

「各業界とも、有力メーカーや進歩的な小売商たちは、問屋をうとんずる傾向がとみに顕著になり、焦燥感に駆られる問屋側も、問屋連盟などの名で『問屋無用論に反駁する』などという鬱憤ばらしの声明文(それらの内容は、今日の問屋経営者の頭脳レベルを反映して、理論の貧弱なものが多い。)を発表したりする有様である。」(原文ママ)

――という文章があります。なかなか辛辣な表現で、明らかに上から目線であることがわかります。

複数対複数の取引に結節点

この理屈は、メーカーと小売業の間に入る問屋が売買差益だけで儲けているという発想からきています。取引がメーカー1対小売業1であればそう考えることもできますが、実際は“複数対複数”の取引であることを理解する必要があります。

例えば図のように、メーカ−5社と小売5社が1対1で取引すれば、取引回数は5×5=25回ですが、問屋が中間結節点を担うことで、取引回数は劇的に減少します。

実際の取引は5×5でなくもっと膨大ですから、その掛け算と足し算を比較すれば、中間結節点を設けることの合理性をお解りいただけるでしょう。

当時の林氏はここに気づかず、 “問屋無用論”を机上で考え主張してきたのではないかと思うのです。実際に晩年の氏は、その持論を一切語らなくなったと聞いています。

にもかかわらず、この言葉が、形骸化しつつも残っていることは、経済の発展にとりマイナスだと言わざるを得ません。正しい認識を示し、“問屋は有用である”という主張を、そろそろすべきではないかと考えるに至りました。

1店にトラック1,000台が到着?

「下りもの」として卸された京都の産物は江戸で大人気となった

問屋の歴史は古く、平安時代には公家の荘園から産物を京都に運ぶ「問丸(といまる)」という一種の物流業が存在しました。江戸時代には、一大消費拠点となった江戸に産物を運ぶ「問屋(といや)」が登場します。

「問屋(とんや)」と呼ばれた明治時代以降は、問屋制家内工業の仕組みが構築され、問屋がメーカーを育てることで、日本の近代化を大きく前進させています。

話を卸売業の機能に戻しましょう。

仮にメーカーと小売が1対1で行う取引コスト(a)を1回500円、小売の店舗数(n)が1,000店とした場合、直接取引の総コストは500円×1,000店=50万円となります。

 一方、卸が中間結節点となり、メーカーと卸の間で大口取引のコスト(x)を10万円、卸と小売店の間でまとめ取引のコスト(b)を1店あたり100円と定めた場合、1,000店に商品を届けるコストは10万円+(100円×1,000店)=20万円となり、1対1のコストより30万円安くなります。極端な話、卸が無かったら1つの店にトラックが1,000台到着するという、あり得ない状態に陥るのです。

ここまで説明すれば、中間結節点である卸売業が、社会全体のコストを下げていることがお解りいただけると思います。1対1の取引という単純な世界ではないことを、気づいていただけたでしょうか。

多彩な選択肢を消費者に提供

かつてチヨカジ(1999年に中央物産と合併)の社長だった岡部洋介氏は、「 “耳かき”は必需品だが、一生のうちに何本も購入するものではない。その耳かきを、安価に、あらゆる店頭で購入できるのは卸の力だ」とおっしゃっていました。私もその通りだと思います。

日本は、多種多彩な商品を提供する国であり、それを生産するメーカーも全国に多数存在します。小売業の数も多く、ドラッグストアのようなチェーンストアだけでなく、個人店も含めた様々な店舗が、毎日の消費を支えています。

破竹の勢いで成長していた90年代のウォルマートの店舗

こうしたメーカーや小売業が元気に生き残っていることは、大変素晴らしいことです。アメリカの大手小売業ウォルマートは、かつて毎年のように取引条件を厳しくし、取引メーカーの体力を奪ったそうです。

他方、ジーンズメーカーのリーバイスは、ウォルマートとの取引を辞めたことで、ブランドの価値を取り戻し現在に至ります。

消費は文化であり、ただ安ければ良いというものではありません。大切なのは、一人一人異なる価値観を持つ消費者に、多様な選択肢を提供することです。完璧な提案はできなくとも、質の高い商品を豊富に揃えることで、消費生活を豊かにすることができます。

日本の卸売業は、「多頻度バラ物流」や「通路別物流」といったきめ細かい機能を用い、それを実現しているのです。

小売は最小限の在庫で事業可能

品質の良い商品を豊富に提供する日本の小売業の売場

先日延岡市を訪問した際、読谷山(よみやま)市長が「市内に食品の在庫はあるが、日用品の在庫は無い」とおっしゃっていました。つまり、日用品の在庫は小売の棚にあるだけで、欠品した商品は、発注すれば市外から翌日に届くという訳です。このような日本の卸の機能に、心から感服しております。

このところ外国人観光客が戻ってきましたが、彼らの多くは、品揃えが豊富で、品質に問題がなく、しかも安く手に入る日本製品を高く評価しています。インバウンドを支えているのも、卸の実力と言えるでしょう。

やや厳しく言えば、欧米の小売業は巨大になりすぎたために、メーカーの力が弱まり、提供する商品の品質がギリギリになっているように思います。品質に優れた日本ブランド、そのブランドを売る小売業、さらに小売業に効率よく届けている卸売業を、私たちはもっと誇りに思うべきです。

安全・平等・標準・継続+安価

弊社を設立した1985年は、阪神タイガースが優勝し、プラザ合意があった年です。プラザ合意後の円高状況でも相変わらず財政投融資に偏った経済政策を続けたため、多くの資金が海外に流出し、失われた30年をもたらしました。

そうした最中に弊社は、「競争は店頭で、システムは共同で」というキャッチフレーズのもと、流通業界に特化したインフラとなるべく興りました。

創業来大切にしてきたことは、「安全」「平等」「標準」「継続」の4つです。

インフラは絶対に止まってはいけません。サービスの安全性を確保すると言う観点から、東京と富山の2拠点を同時に稼働させ、万が一の状況に備えています。

また、日本の電気が100ボルトで統一されているように、機能の全てを標準化し、利用する方に平等にサービスを届けています。継続とは、あらゆるリスクを回避して事業を続けていくと言うことで、これもインフラとして当然の使命と心得ています。

最近は、この4つに加えて、「安価」を5本目の柱としました。

弊社は過去9回に渡り通信料を値下げしています。

これは、通信のボリュームの拡大に伴い、出資メーカー8社の分担金の負担が軽くなったこと、並びに半導体の価格低下を背景に、順次最新のハードウェアを入れ替えてきた結果です。

これからも5つの柱を遵守し、取引先の満足度を高め、流通の発展に貢献していく所存です。

ご参考「What’s PLANET?〜プラネットってどんな会社⁉️」@Hoitto!:https://hoitto-hc.com/1569/