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地域創生医 桐村里紗のプラネタリーヘルス 第5回
暮らすだけで家族と地球が健康になる健康省エネ住宅とは?

日々家で暮らすだけで、家族が病気になり、地球環境にも影響を与える。

それが、日本の一般的な住宅の暮らしです。

考えたこと、ありますか?

日本家屋に潜む危険なヒートショック

家を変えれば、その血圧や糖尿病の薬は減量できるかも知れませんし、同時に、化石燃料の使用を減らすこともできます。

マンション暮らしでは想像できないかも知れませんが、一軒家に暮らしたことのある方であれば、日本の冬の家屋での生活がいかに我慢を伴うかはご存知かと思います。

暖房をしている部屋だけは温かいものの、トイレやお風呂、廊下、端っこの部屋は極寒で当たり前。その気温差による血圧の変動は、ヒートショックと呼ばれ、場合によっては死に至ることもあります。

冬は、入浴中の心肺停止が増えますが、都道府県ランキングでは、温かい沖縄県が最下位。なんと下から2番目は、北海道です。一方で、1位は、香川県、2位兵庫県、3位滋賀県、4位東京都と、特別寒いエリアではない地域が上位に食い込んでいます。

 都道府県別にみた高齢者1万人あたりCPA件数(件)
 ※都道府県別ランキング:地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所調べ2011年発生分 

室温が低いと心電図異常のリスク増

日本において、標準的に断熱された温かい住宅に暮らしているのは、北海道くらい。その他のエリアは、冬の家は寒いものというのが常識だと思います。特に、上位に食い込んだ寒冷地でないエリアは、急に寒くなった時の油断がヒートショックのつながることが指摘されています。

温かい部屋から、寒い脱衣所、寒い浴室で血圧は急上昇、ここで脳出血のリスクが上がります。入浴すると今度は血圧が急降下、ここで一過性の意識障害が起こると溺れるリスクもあります。また、体が濡れたまま、浴室から寒い脱衣所に出た時が最も寒い瞬間。ここでまた血圧が急上昇。このアップダウンが日本の寒い冬の家が危険な所以です。

健康診断結果にも差が出ます。居間が18度以上の場合と居間が18度未満で居間が寒冷な場合を比較して、心電図異常所見有りは1.9倍。

 居間が18度以上の場合と居間が18度未満で居間が寒冷な場合の比較
 ※国土交通省スマートウェルネス住宅等推進調査事業

また、床が15度以上で居間が温暖な場合と15度未満で居間が寒冷な場合を比較すると、高血圧での通院が1.5倍、糖尿病での通院が1.6倍。

 床が15度以上で居間が温暖な場合と15度未満で居間が寒冷な場合の比較
 ※国土交通省スマートウェルネス住宅等推進調査事業

血圧だけでなく、寒冷ストレスは血糖値を上げますから、寒い家が、無駄な血圧、血糖値上昇を引き起こしている可能性がありますね。

鳥取県が推進する健康省エネ住宅『NE-ST』

さらに、寒い家は、暖房を多く必要とします。

(画像はイメージです@Hoitto!)

私自身もいま、鳥取県の寒冷地で一軒家をお借りしていますが、台所が冷蔵庫の中よりも寒いので、食べものが凍らないように冷蔵庫で保温しているほどです。

いずれは薪ストーブにしたいものの、エアコンや遠赤ヒーターだけではとても太刀打ちができませんから、家の保温のために、電力も化石燃料もたくさん消費しています。

寒い家の暮らしは、人の健康にも地球の健康にも負担になってしまうと体感しているところです。

そこで、解決策として健康省エネ住宅を提案したいのです。

私が暮らしている鳥取県は、健康省エネ住宅『NE-ST』を県をあげて推進しています。

高気密高断熱と共に、適度な風が流れる住宅基準です。

外気に影響されづらいので、冬は暖かく、夏は涼しく、冷暖房費の削減率は段階によって30〜70%にもなります。

私たちが家で過ごす時間は、平均1日15時間15分。

コロナ前2015年であっても1日の半分以上は家で過ごしていることになりますから、影響は絶大です。

 ※NHK文化生活研究所「国民生活時間調査(2015)」

暮らすだけで、家族が健康になり、地球環境にも優しいプラネタリーヘルス・ハウジングはとても大切なテーマだと思っています。

プロフィール

桐村 里紗 (Lisa Kirimura M.D.)地域創生医/tenrai株式会社 代表取締役医師
東京大学大学院工学系研究科道徳感情数理工学講座共同研究員

予防医療から在宅終末期医療まで総合的に臨床経験を積み、現在は鳥取県江府町を拠点に、産官学民連携でプラネタリーヘルス地域モデル(鳥取江府モデル)構築を行う。地球環境と腸内環境を微生物で健康にするプラネタリーヘルスの理論と実践の書『腸と森の「土」を育てる 微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)が話題。

(次回「地域創生医 桐村里紗の プラネタリーヘルス」は4月初旬に掲載予定です)