―研究成果を「無理なく続けられる健康習慣」へ

日常生活の中で、花粉やホコリ、ハウスダストなど鼻の不快感につながるさまざまな要因があるなか、健康管理のあり方が変わりつつある。体調に変化があった際に医療機関を受診したり、医薬品を利用したりするだけでなく、食事や運動、睡眠、サプリメントなどを通じて、日頃から自分自身の健康を管理する「セルフケア」への関心も高まっている。こうしたなか、キリンホールディングス株式会社はヘルスサイエンス事業の領域で、研究成果を新たな健康習慣につなげる取り組みを進めている。その一つが、2026年10月13日に発売の「キリン アレルバランス 鼻の不快感ケア」だ。同商品には、キリンが長年研究してきたKW乳酸菌を採用。2000年代前半から研究を続け、2020年前後から商品化に向けた研究を深めてきたという。今回の取材では、商品開発の背景だけでなく、研究を生活者の日常にどう落とし込み、ドラッグストアや薬局を通じてどのように届けていくのか、お話を伺った。(取材=ヘルスケアワークスデザイン・笠原亜紀世)
キリンのヘルスサイエンス事業では、これまでになかった健康習慣や新しい文化をつくることを目指している。サプリメントについても、単に特定の成分を摂取する商品としてではなく、日々の健康管理を支える選択肢としてラインアップを展開している。今回の「キリン アレルバランス 鼻の不快感ケア」も、その取り組みの一つだ。取材に応じたのは、学術マーケティンググループでKW乳酸菌の学術マーケティングを担当する、ヘルスサイエンス研究所の研究員。長年にわたる研究を商品という形に落とし込み、さらに生活者に分かりやすく伝えていくことが、今回の商品開発における大きなテーマとなっている。
KW乳酸菌の研究は2000年代前半から続いてきた。今回の研究開発に携わった担当者は2020年以降に研究に加わり、商品化に向けて研究を深めてきたという。取材では、研究条件の設定や試験、素材の特性を踏まえた製造技術など、研究成果を実際の商品へとつなげるまでに多くの検討が必要だったことが語られた。
つまり今回の商品は、単に新しいサプリメントを発売するという話ではなく、長年蓄積してきた研究を、生活者が日常の中で取り入れられる形へ落とし込む取り組みでもある。商品形態も、水なしで利用できるチュアブルタイプで、味は「すっきりレモンヨーグルト」。日常生活の中で取り入れやすい商品設計としている。健康管理というと、運動や食事制限など、生活者が努力して取り組むものというイメージもある。しかし、忙しい生活のなかですべてを継続することは容易ではない。そこで、バランスの良い食事や適度な運動、十分な睡眠といった基本的な生活習慣に加え、気軽に取り入れられる食品やサプリメントなども健康管理の選択肢の一つとなる。キリンが目指すのは、こうした「無理なく日常に取り入れられる健康習慣」の創出だ。

こうした企業の取り組みは、国が示す健康づくりの方向性とも重なる。厚生労働省は2026年7月、「U.E.N.O.Plan~攻めの予防医療厚生労働省関係施策~」を公表した。U.E.N.O.は「Understand(知る・理解する)」「Exercise(身体を動かす・実践する)」「Nourish(養う)」「Optimize(自分に合った健康習慣を最適化する)」の頭文字を取ったものだ。同プランでは、「栄養・食生活」「がん・循環器病等」「歯科保健」「認知症」「リハビリテーション」「性差に由来するヘルスケア」の6領域を重点領域としている。
ポイントとなるのは、国民一人ひとりが自身の健康を「自分ごと」として捉え、健康に関する知識を得ながら、自分に合った健康習慣を実践していくという考え方だ。もちろん、国の予防医療政策とキリンのサプリメント事業を直接結び付けることはできない。ただ、健康を「病気になってから対応するもの」だけではなく、日常生活のなかで自分自身が考え、管理していくものとして捉える動きが広がるなかで、企業が提供するセルフケアの選択肢にも注目が集まっている。キリンにとって今回の商品は、こうした変化に対して、研究を生活者の日常にどうつなげるかを考える一助となる取り組みといえる。
一方で、セルフケアの選択肢が広がれば、生活者にとっては「何を選べばよいのか」という新たな課題も生まれる。ドラッグストアや薬局には、ビタミン、ミネラル、乳酸菌など、さまざまな成分を使用した健康食品やサプリメントが並ぶ。選択肢が増えることはメリットである一方、商品ごとの違いや背景にある研究について理解することは容易ではない。今回の取材でキリンが重視していたのが、研究成果を分かりやすく伝えることだった。研究者にとって重要なデータやメカニズムが、そのまま生活者にとって理解しやすい情報になるとは限らない。そこで、研究成果を積み重ねるだけではなく、その背景や意味を生活者に伝え、研究と生活者の間にある情報のギャップを埋めることが重要になる。これは、ヘルスサイエンス事業における企業の新たな役割ともいえる。そして、その情報を生活者に届ける接点として、キリンが重視しているのがドラッグストアや薬局だ。

今回の商品は、ドラッグストア、薬局、ECなどでの展開を予定している。そのなかでも、店頭でのコミュニケーションを重視している点に注目したい。サプリメントは、生活者が自分で手に取って購入するケースが多い商品カテゴリーだ。そのため、商品を売り場に置き、POPで情報を提示するだけではなく、スタッフが商品の背景を理解し、必要に応じて生活者との会話につなげることが重要になる。キリンでは、店舗スタッフ向けの研修や動画などを通じて、研究や商品の情報を理解してもらうためのバックアップも検討している。生活者が「こうした健康の悩みがある」「サプリメントについて知りたい」と感じたとき、店舗で基本的な情報を得ることができ、より専門的な相談が必要であれば薬剤師や登録販売者などにつなぐ。こうした「情報の橋渡し」ができれば、ドラッグストアや薬局はセルフケア商品の販売場所というだけでなく、生活者が自身の健康について考えるきっかけを提供する場所にもなり得る。
今回の取材では、薬局の受付や事務スタッフなども生活者との最初の接点になり得るとの考えも示された。店舗で生まれた小さな相談を、必要に応じて専門職へつなぐ。こうした店舗全体でのコミュニケーションが、セルフケア市場の広がりとともに重要になっていくだろう。キリンにとっても、店舗は単に商品を販売する場所ではない。生活者から信頼されている店舗やスタッフとの接点を通じて、研究や商品の情報を伝え、セルフケアという考え方そのものへの理解を広げていく場として位置付けている。

「キリン アレルバランス 鼻の不快感ケア」公式サイト
https://www.kirin.co.jp/healthy/kwsupplement
記者の目
今回の「キリン アレルバランス 鼻の不快感ケア」は、KW乳酸菌を使った一つのサプリメントという側面だけで見ると、数ある健康食品の一つに映るかもしれない。しかし、その背景にあるのは、キリンが長年積み重ねてきた研究を、生活者の日常的な健康管理につなげようとするヘルスサイエンス事業の挑戦だ。研究を重ねる。商品として形にする。生活者が日常に取り入れやすい設計にする。そして、研究の背景を分かりやすく伝える。さらに、その情報をドラッグストアや薬局など、生活者と日常的に接する場所へ届けていく。
この一連の取り組みは、セルフケア市場が単なる「健康食品市場」から、生活者の健康習慣そのものを支える市場へ変化していくなかで、一つの方向性を示している。U.E.N.O.Planが示すように、これからの健康づくりでは、生活者自身が健康を「自分ごと」として捉え、自分に合った健康習慣を考えることが重要になる。そのとき、企業に求められるのは商品をつくることだけではない。研究や科学を分かりやすく伝え、生活者が日常のなかで取り入れられる選択肢として届けることも重要になる。
キリンが進めるヘルスサイエンス事業は、こうした「研究から生活者までの橋渡し」に挑戦している。そしてドラッグストアや薬局にとっても、セルフケア市場の拡大は新たな顧客接点を生み出す機会になる。商品を「売る」だけではなく、生活者の健康に関する疑問や関心に応える場へと役割を広げられるか。キリンの今回の取り組みは、セルフケア市場におけるメーカーと小売りの新たな関係を考えるきっかけにもなりそうだ。