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【第16回】矢澤一良博士が行く!ウェルネスフード・キャラバン/株式会社明治

株式会社明治/取締役専務執行役員・谷口茂さん

食品分野のリーディングカンパニー・株式会社明治。創業から100年以上「栄養報国」という企業理念のもとで、市場の最前線を切り開いてきた。近年同社は新たな栄養プロファイリングシステム「Meiji NPS」の導入・普及に取り組んでいる。本稿では、矢澤一良博士(早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門 部門長)が、同社・取締役専務執行役員の谷口茂さんへ企業姿勢とMeiji NPSの意義と取り組みについて聞いた。


矢澤 私たちは食による予防医学の立場から、予防医学というと“医学”という字が使われますが、お医者さんの薬ではできないことに取り組んでいます。食べることに加えて、運動と休養という3点セットで健康維持・増進および病気の予防を目指す考え方です。その上で、明治のこれまでのさまざまな製品開発、そしてその哲学やプロセスには非常に感銘を受けています。

明治という企業は、いろいろな事業を展開されていると思いますが、そのあたりについてのお考えや進め方についてお聞きしたいと思います。


谷口 かなり幅広い分野のフレームワークの話ですが、明治の前身企業である明治製菓、明治乳業は1900年に設立され、この2社は2009年に経営統合が行われ、明治ホールディングスの傘下となり、2011年に事業再編で明治となりました。両社は、もともと明治製糖という一つの組織が起源となっています。

創業者に相馬半治という方がいます。相馬の社是の一つに「栄養報国(栄養で国に報いる)」というものがあります。これが我々明治グループの共通の理念です。この社是をベースにして、いろいろなことを進めています。もともと、ヘルスケアやウェルネスについては、我々の会社のバックボーンにあるので、そこを中心に統合理念を作ってきたということになります。


矢澤 予防医学によって人に幸せをもたらす。私が考えていることとの共通点も多くあります。


谷口 もともとヨーグルト製造などで培った発酵技術や、祖業である製糖業で得られた廃糖蜜などの原料を活用して日本で初めて抗生物質を工業生産したと聞いていますが、基本的には、国民の皆さまに健康になっていただきたいというのが我々のバックボーンです。

それを特に栄養という視点から考えることが、当社グループの出発点です。チョコレートやヨーグルトもその1つですが、やはり象徴的なのは、1923年に日本初の乳児用粉ミルクとして開発した「パトローゲン」という製品です。日本農芸化学会の100周年記念大会でもこの製品を取り上げていただき、話題になりました。


矢澤 当時と今とでは人口構成や年齢構成も変わっていますし、少子化の問題もあります。子どもだけではなく、高齢者、老人向けの開発も必要だろうと思います。谷口専務は明治乳業に入社され、その頃はどんなことをしておられたのでしょうか。


谷口 最初は、原料用の粉ミルクとバターを作る工場にいました。その3年後から、当時流行っていたバイオテクノロジーの基盤研究所に配属されまして、20年弱、医薬品に携わっていました。

DHAを増強した世界初の粉ミルク「ソフトカード 明治コナミルク FK-3」(1987年)


矢澤 明治さん(当時明治乳業)は、DHA入りの粉ミルクというのを世界で初めて出され、ました。日本ではもちろん初めてだったわけですが、衝撃的だったのは、「粉ミルクや赤ちゃん用には何も入れたくない」という雰囲気がある中で、明治さんが開拓者となることで、母乳とDHAの研究がとても盛んになりました。

私たちは1990年にDHAの原料として、マグロの目の後ろという産業廃棄物をうまく利用することを発見しました。今でいうSDGsになると思うのですが、それによって、結構安価な原料が使えるようになった。

カツオもしくはマグロ、これが今までの魚油と比べるとDHAが圧倒的に多く、EPAが少ない。母乳の中の脂肪酸を調べると、EPAは非常に少ないということから、やはりDHAリッチなものを粉ミルクに添加するべきで…。その原料を見つけたという点で私もかなり協力できたのだろうと思っているのですけれど、明治さんがうまく取り上げてくれて、製品化してくれました。DHAを入れることに躊躇していた粉ミルク企業はいくつかありましたけれども、明治さんは先駆けていましたね。

ここで話題を変えますが、明治さんは、新しいプロファイリングシステムを作り、広げようとしています。このあたりの背景、なぜそれが必要かということをお聞かせください。


谷口 当社グループは、いわゆる“明らか食品”を、健康に役立てていただきたいということを常々考えております。もちろんサプリメントについて一切否定しませんが、当社は錠剤やカプセルのようなサプリメントの形状の事業は現在行っておりません。それは当社に連綿と「あくまで食品としてお召し上がりいただく中で、健康を維持していただくことが食の役割」という教えが続いているからです。

その中で、ヨーロッパ中心に進んできた栄養プロファイリングシステムの日本への導入についてさまざまなアプローチがあり、もう一度当社グループの原点に立ち返って「栄養とは何か」ということを考えてみようということになりました。


矢澤 まだまだこの言葉に関して、意味や内容を理解できていない方がほとんどです。ですので、何をプロファイリングするのでしょうか。


谷口 日本でいうトクホや機能性表示食品の根本の理念、課題は同じだと思いますが、やはり医療費がかなり高騰してきて、人口の高齢化が進んでいるという問題があります。なんとか医療だけに頼らずに国民の健康を維持できないかという中で、特にヨーロッパではヘルスクレームに対して非常に厳しい姿勢をとっている中で、彼らも我々の考えに少し似ているのかもしれませんが、「普段食べている栄養にもっと気を配れば健康寿命は延伸できるのではないか」という考えに基づいているようです。

ただし、その場合はヨーロッパ基準が中心になりますと、一番の課題は栄養摂取量がそもそも違いますし、食生活も国によって大きく異なります。例えばアメリカとの比較ですが、牛肉の消費量もアメリカは日本に比べて約7倍多い。例えば乳製品に関しても、ヨーグルトなどは同じくらいの比率になります。

そうすると、例えば飽和脂肪摂取量なども全然違ってきますが、彼らはだいたい心臓血管系のイベントに注視しており、油の摂りすぎを強調しています。しかし、日本では逆に高齢者の飽和脂肪酸が不足している現状があります。

だからこそ、世界有数の長寿国である日本の食生活を活かす必要があり、あえて「Meiji NPS(明治栄養プロファイリングシステム)」という名前で発表させていただきました。日本自体、欧米基準をそのまま持ってきて、それを適用しても栄養上、日本の国民に合わない可能性が大いにあります。

ですから、きちんと日本の栄養摂取基準をもとにもう一度作り直したらどうかと提案しています。我々としても、それを製品設計のベースに考えていくべきだということを、社内、そしてお客様にもお伝えしていきたいと思います。


矢澤 具体的にどのようなことなのでしょうか。


谷口 Meiji NPSの特徴は、一つは、その制限栄養素以外に推奨栄養素を日本人に合わせて設計したアルゴリズムで作られていることが最大の強みです。減塩で寿命が伸びた長野県が、よく例として出されます。しかし減塩だけでは不十分だと我々は考えておりまして、脂肪酸やタンパク質についてもきちんと考えるべきだと思っております。

また、我々は年代を幼児・小児期、成人、高齢者に分けているという特徴もあります。欧米は成人をすべて一括りにしているのですが、それではフレイルやサルコペニアの問題などに対応し切れないからです。

つまり、ビタミンやミネラルなどのベースはありますが、世代ごとに必要な栄養素が若干異なり、生まれる前の妊活期、妊娠期、幼児期、そして成人、高齢になるまで、それぞれ必要とする栄養素が違う。それぞれの世代に対応した栄養プロファイリングが重要であり、Meiji NPSでは、これを核とした提案をしていきたいと考えています。


矢澤 ありがとうございます。ここで少し話題をフレイルに変えますが、フレイルは高齢者だけではなくて、全世代にあると考えています。やはり全般的にタンパク質が重要であり、貴社には乳製品、粉ミルク、高齢者食、ヨーグルトもあるわけですので、いろいろ食べやすさや、人それぞれの好みによって口に入る形態は異なるとしても、これからやって来る“タンパク質クライシス”という時代に向けて、方向性はお持ちでしょうか。


谷口 特にミルクタンパクは、哺乳動物にとって、いわゆるアミノ酸バリューという考え方からしても、非常に優れたタンパク源であることは分かっていますが、いろいろな環境問題が指摘され始めると、“タンパク質クライシス”が本当に2030年に来るかどうかは別として、いろいろな手段で摂取しなければならないし、生産していかなければなりません。その一つが精密発酵であったり、植物の利用であったり…。これらについてもいろいろと考えています。


矢澤 基礎研究が非常に大切で、その研究体制はどのようにお考えでしょうか。


谷口 2023年に研究体制を変更しました。それは基盤研究をホールディングスの方に移しました。医と食のシナジーということももちろんありますが、原材料が各地の紛争によって高騰しており、ここ数年、経営の規模を一定で維持していくことが非常に難しい状況にあります。

厳しい経営環境ですが、基盤研究はあまり影響を受けない部分で、一定の量を常に続けることが大事だということで、事業会社と話し合い、それぞれの事業会社の未来の夢、そして、私たちがやらなければならないことを進めていこうということで、ウェルネスサイエンスラボを作り、そちらの方を中心に基盤研究をしています。


矢澤 ありがとうございました。日本人に合致した、なおかつ、世代別にプロファイリングを行うMeiji NPSの普及が、日本における栄養摂取の最適化に寄与していくことに期待したいと思います。