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臨床介護学は「ものとヒトとコトの融合」/帝京平成大 小原教授の放課後講座その4

2025問題から2040年問題へ~地域の「ぼうさいフェスタ」から


みなさん、お久しぶりです。帝京平成大学の小原です。

2025年を迎え、日本は超高齢社会の真っただ中にあり、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」に直面しています。こうした背景のもとで、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けられる仕組みとして、「地域包括ケアシステム」の構築が急務となっています。

地域包括ケアシステムとは、医療・介護・予防・住まい・生活支援を一体的に提供し、地域ごとの特性に応じた支援を行うことを目的とした制度です。住まいが中心となるこの図(図)では概ね30分以内にサービスが提供できるよう、ケアを提供する地域包括支援センターが配置され、個々のニーズに応じた支援を行なっています。

図)「地域包括ケアシステムの姿」厚生労働省資料より

このシステムの構築には、「臨床介護学」の視点から、ものとヒトとコトの融合が重要な役割を果たすと考えています。具体的には、医療・介護・福祉に関わる技術や製品(もの)、支援を受ける高齢者やその家族、専門職(ヒト)、そして地域の取り組みや地域特性、制度(コト)が相互に作用し合うことで、より効果的なケアが実現できます。このアプローチは単なるケアの提供にとどまらず、「地域づくり」にもつながります。

一方で、2040年問題に向けた「地域共生社会の実現」も身近に迫ってきたように思います。2040年には、日本における高齢者人口がピークに達し、生産年齢人口の急減により社会保障や経済に大きな影響を与える可能性が示唆されています。

地域住民や地域の多様な主体が参画し、人と人、人と社会資源が世代や分野を超えて繋がり、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会を目指すことは、我が事として一人一人が改めて自覚する必要があるでしょう。

一つの事例を紹介しましょう。

先日、私の勤務地である中野区内にある自治会・町内会が主体となり第1回の「ぼうさいフェスタ」が開催されました。(公㈶)日本ヘルスケア協会も後援をさせていただき、私は8名の学生とお手伝いに行ってきました。

中野区はご存じの方もおられると思いますが、幹線道路から1本道を入ると道幅が狭く、行き止まりもあるような昔ながらの住宅地もあります。防災に関する企画をやりたいと以前より町内会の理事会ではお声が上がっていましたが、1年弱にわたり綿密な打ち合わせを重ねて、この度実現することが出来ました。

趣旨に賛同した中野区長も「ぼうさいフェスタ」を訪れ挨拶した

当日は町会を代表して中山会長がご挨拶をしたのちに、中野区長の酒井様にもお越しいただきご挨拶を頂きました。会場はいくつかのテーマに分かれ、防災セミナーから震災のVR体験、地域で居場所つくりや相談会などの活動をしている専門職のブース出展や焼きそばなどの出店も揃いました。

防災関連の展示ブースには、企業ブースとして大塚製薬グループの皆様にご参加いただきました。グループ企業が一体となり、食品から段ボールトイレ、自動販売機からペットまで、様々な角度から防災に関する啓発を行っていただきました。企業が日常的に地域住民の声を聴くことはなかなか無いと思いますが、大盛況の企画となり沢山の方が訪れていました。

今回の企画で特に感じたことは、「防災」がテーマだったこともあってか、地域高齢者だけでなく、子供連れのファミリー層が非常に多かったことです。防災は災害大国日本における最大級のテーマであり、誰もが向き合うテーマです。告知は町内会の掲示板やチラシの配布などで地道な啓発でしたが、館内は大勢の地域住民で溢れていました。

この「ぼうさいフェスタ」は、これからの地域共生社会の実現へコマを進めるための、一つの可視化した事例のように感じています。産官学民がなめらかに繋がり、ともに地域課題に向き合い、自分たちでできることを提案し、少しずつ主体的に解決していく様子は、打ち合わせの時点から参加することで、より大きな学びになりました。

学生もそれぞれのセクションで感じたことや、地域の方との会話を通じて「少し地域での薬剤師の役割が見えた」という声も上がり、新しい気づきを得たように思っています。

自分たちの未来は、そして自分たちの大切な地域は、誰かが作るものではありません。自分たちがその街で大切にしてきたことを時代に合わせて継承しながら作ることで、地域共生社会の実現へ向かうことが出来るのではないでしょうか。

ものとヒトとコトの融合による産官学民連携型の地域事業は、これから緩やかに、ではなくなめらかに時代を滑りだすことを期待しています。

「ぼうさいフェスタ」を通じ産官学民の地域事業の可能性を確認した(画像手前左が筆者)

(つづく)