ヘルスケア情報サイト「Hoitto! ヘルスケアビジネス」(ヘルスケアワークスデザイン株式会社)


2024年3月29日、環境省、農林水産省、経済産業省、国土交通省が連盟にて策定した「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」が公表されました。

ネイチャーポジティブとは、2030年までに「生物多様性の損失を止め反転させる」という国際的なミッションです。

企業を含めた社会全体で取り組んでいくべき課題で、企業にとってプレッシャーと捉えられがちなネイチャーポジティブですが、この戦略では、自然資本に根ざした経済の新たな成長につながるチャンスにつながって行くことを示しています。

人が経済活動を通して、ネイチャーポジティブ経済を回していくことで、人と地球の健康である「プラネタリーヘルス」も実現します。

年初の記事をご参照ください。

この戦略では、「ネイチャーポジティブ経済」「ネイチャーポジティブ経営」が定義されています。


「ネイチャーポジティブ経済」とは、生物多様性国家戦略において定義されているように、自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させることに資する経済のことです。

そして、個々の企業が自社の価値創造プロセスにおいて自然の保全の概念をマテリアリティ(重要課題)として位置づけ、バリューチェーンにおける負荷の最小化と製品・サービスを通じた自然への貢献の最大化を図ることを「ネイチャーポジティブ経営」としています。

そうした企業の取組を消費者や市場等が評価する社会へと変化することを通じ、自然への配慮や評価が組み込まれるとともに、行政や市民も含めた多様な主体による取組があいまって実現する新たな経済モデルを目指すことが示されています。


戦略では、ネイチャーポジティブ経済が生むビジネス機会として、「エネルギー・採掘活動」「インフラ・建設環境システム」「食料・土地・海洋の利用」の3分野において日本で30年に合計47兆円が創出されると推計されています。

企業は、自然生態系をより良くする方に総体として向かっていくことが求められています。

「自然資本」によって得られる、生態系サービスは、私たちの経済、社会を支えています。
例えば、2020年に公表された世界経済フォーラム(WEF)の試算によれば、世界の総付加価値額のうち、少なくとも44兆米ドル(世界の総GDPの半分)以上が強く自然資本に依存しており、このことは自然資本の劣化が社会経済の持続可能性に対する明確なリスクとなっていることが報告されています。

例えば、医療、ヘルスケア分野に関わる医薬品や食品も自然を資本とする生態系サービスによって支えられた植物などを原料としていますし、パッケージなどの資材も紙などの自然資本に由来していますから、無関係ではありません。


生態系サービスは、人の健康を担う食料や環境を支えていますから、ヘルスケア分野にとって、これを維持し再生していくことは根本的に重要だという認識を持つことが重要で、それが、プラネタリーヘルスという考え方につながっています。

SDGsが年限を迎える2030年より先にも、私たちが実現すべき目標として国際的に注目される「プラネタリーヘルス(人と地球の健康)」は、ネイチャーポジティブ経済の結果として実現します。

ぜひ、人の健康やウェルビーイングに関わる医療・ヘルスケア分野からも積極的なアクションを起こして行きましょう。

プロフィール
桐村 里紗 (Lisa Kirimura M.D.)

地域創生医/tenrai株式会社 代表取締役医師
東京大学大学院工学系研究科道徳感情数理工学講座共同研究員
日本ヘルスケア協会・プラネタリーヘルス・イニシアティブ(PHI)代表

予防医療から在宅終末期医療まで総合的に臨床経験を積み、現在は鳥取県江府町を拠点に、産官学民連携でプラネタリーヘルス地域モデル(鳥取江府モデル)構築を行う。地球環境と腸内環境を微生物で健康にするプラネタリーヘルスの理論と実践の書『腸と森の「土」を育てる 微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)が話題。

(次回「地域創生医 桐村里紗の プラネタリーヘルス」は6月初旬に掲載予定です)