2015年9月の国連サミットで定めた持続可能な開発目標=SDGs(Sustainable Development Goals)の目標期日まであと8年を切った。不安定な世界情勢が達成を阻む要素ではあるが、地球規模の課題に目を向け考えさせる効果は確実に出ている。日本もSDGsを学ぶ環境を初等教育から整備したが、その概念を行動に移すには、生活者と接点を持つ民間の存在が不可欠となる。このほど一般社団法人日本チェーンドラッグストア協会・SDGs推進委員会委員長の德廣英之氏(㈱トモズ 代表取締役社長)に、ドラッグストア業界のSDGs推進について、環境問題を中心に語ってもらった。実行性を伴う委員会の活動がメーカー・卸、そして行政からも好感され、着実な成果につながっているようである。(取材と文=八島 充)
――日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)がSDGs推進委員会を立ち上げた経緯をお聞かせください。
德廣委員長 JACDS設立20周年の節目となる2019年度、第5代会長の池野隆光氏(ウエルシアホールディングス㈱ 代表取締役会長)が「尊敬される企業集団になる」ことを目標に掲げ、その目玉としてSDGs推進委員会が新設されました。
初代委員長は塚本厚志氏(㈱ココカラファイン 代表取締役社長=当時)で、私は副委員長でしたが、2021年度に塚本氏が街の健康ハブステーション委員会委員長に就いたのを機に委員長を拝命し、現在に至ります。
2022年度には飯嶋仁氏(㈱クスリのアオキホールディングス 取締役)を副委員長に招きました。併せて社会貢献委員会を統合し、同委員会で進めてきた「そらぷちキッズキャンプ」(https://www.solaputi.jp)の活動支援等を、SGDs推進委員会の活動領域に加えています。
当委員会を立ち上げる際、塚本委員長も私も、「形だけの委員会には絶対にしたくない。具体的な施策を実施しよう」という意見で一致しました。例え小さな取り組みでも、まずは行動を起こし、何らかの成果を得るまで諦めない姿勢を、今も貫いています。
それを象徴する1つが、「レジ袋の有料化」です。2019年秋頃、「経産省が2020年7月よりレジ袋の有料化を義務付ける」というニュースが飛び込んできました。当時プラスチックによる海洋汚染が議論されていたこともあり、「ドラッグストア業界が先陣を切って実施しよう」という声を上げました。
行政より3ヶ月早い2020年4月からの実施を会員企業に提案したところ、予想以上に多くの企業が賛同してくれました。独自の施策を検討していた企業も少なからずありましたが、各々の思惑を超えて大義を共有し、団結できたことは大きな収穫でした。
――今年10月に始まった環境省の「選ぼう3Rキャンペーン」(http://www.re-style.env.go.jp/3r-campaign/2022/)にも多くの会員企業が参加していますね。
德廣委員長 キャンペーン自体は6年目ですが、JACDSが応援団体となってからは3年目となります。
参加を検討した当時から委員会メンバーは意欲的でしたが、売場変更等の負荷を伴うために、躊躇する会員企業も出てくると予想できました。そこで卸売業にも協力をお願いし、「共にキャンペーンを盛り上げていこう」という機運をつくってきました。
その甲斐もあって2年目、3年目と実施店舗が大幅に増えました。店頭を通じて、生活者に環境問題を考えていただく、またドラッグストアの機能を理解していただく、良いきっかけになっていると思います。
来年もキャンペーンに参加する予定ですが、これをサステナブルな取り組みにするには、3Rキャンペーンに参画するメーカーの関連商品が売れていくことも大切です。
当社トモズは環境配慮型商品の開発を推進しており、商談時もバイヤーが「一緒に3Rキャンペーンを盛り上げましょう」と提案しています。こうした機運が各加盟者に広まっており、来年のキャンペーンはメーカーの参画が一層増えていくものと期待しています。
――日用品のリサイクルを目的に今年6月から横浜市でスタートした「サーキュラーエコノミープロジェクト」も、実効性の高い取り組みになっていると聞きました。
德廣委員長 当プロジェクトは、花王、P&G、ユニ・リーバ、ライオンといった大手メーカー、そしてリサイクルに関する高度なノウハウを持つテラサイクルの協力により実現しました。
活動の肝は、協力企業だけでなく、我々が自らの責任において「やり切る」という意識です。その表れとして今回、回収BOXのコストもメーカーと我々で分担しました。
また、メーカーからは回収後の再生に関する技術面のノウハウを色々とご教示いただきました。今後はこれをビジネスの中にどう組み込んでいくかを議論し、サステナブルな活動へと進化させたいと思います。
――この3年間の委員会の道程は、JACDSにとっても大きな学びとなりましたね。
德廣委員長 環境問題は常に、「総論賛成・各論反対」の意見が出てくるものです。そうかと言って、反対意見に押されて形だけを取り繕っていては、何も解決しません。
実施したことがうまくいかない場合も、それが技術的な問題か、コストの問題かなどを分析し、次に活かすことが重要です。委員会の中で議論しても答えが出ない場合は、理事会に諮り、さらにメーカー・卸、それ以外の第三者の意見を取り入れて、サステナブルな活動に発展していくよう努めています。
――この行動力により、行政からの信頼も得ることができました。
德廣委員長 レジ袋有料化を決めた環境省の悩みの種は、各業界の意見がまとまらないことでした。そうした中でドラッグストアが先頭を切って成果を出したことは驚きを持って受けとめられ、以後は同省のほか各省庁からアドバイスを求められる立場になりました。
昨年のJAPANドラッグストアショーで当委員会が企画したセミナーには、当時環境大臣だった小泉進次郎議員からメッセージをいただき、今年のショーのセミナーでは環境省のリサイクル推進室長とCLOMA事務局担当に講演をしてもらいました。セミナーを聴講した一般生活者が熱心にメモを取る姿が印象に残っており、我々の活動が一歩ずつ前進していることを、肌で感じました。
――今年度は「食品ロス」問題もテーマに掲げていますね。
德廣委員長 委員会に招聘した食品卸から、消費期限に基づく在庫を製配販一体で見直すことがロスの削減になるという意見が出て、議論を始めたところです。
当社自体は食品の扱いが少ないですが、グループのSM企業であるサミットや親会社の住友商事には、その分野の知見、実績があります。このほか会員企業が持っている情報も活用し、皆が前向きにチャレンジできる環境を作りたいですね。
――今期以降の委員会の取り組みを教えてください。
德廣委員長 地球温暖化の防止という観点からも、「返品」の問題に取り組む必要があると考えています。返品は無駄な配送や焼却等が伴う非生産的な行為であり、店頭に商品を並べて販売する我々も見て見ぬふりはできません。メーカーからも「JACDSが本気で取り組むなら全面的に協力する」とのメッセージをいただいており、前向きなネットワークを原動力にして、行動を起こしていきたいと思います。
―SDGsの目標を設定する企業や団体は増えていますが、同委員会の「やってみよう」、そして「やり切ろう」という姿勢は見習うべきものがあります。
德廣委員長 IRの一環でキレイごとを並べているだけでは、世の中を変える力になりません。例え小さな目標でも、また100%の結果が出なくても、覚悟を持って取り組めば、関わる者全ての意識と行動が変わってきます。
また、その活動が我田引水に終始するようでは、メーカー・卸、行政、さらに生活者の理解は得られません。引き続きSDGsという大義ならびに目標を達成する意義を皆で共有し、行動を起こしたいと思います。
――本日はありがとうございました。
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