月経は女性の大切な生理機能だが、そこに伴ういわゆる生理痛は、日常を営む上での大きな悩みとなる。男性が多勢を占める社会では悩みが理解されず、あらぬ誤解と偏見が生じることもゼロではない。そうした環境を変えるきっかけになればと、アサヒグループ食品がこのほど、「生理痛疑似体験会」を社内向けに企画した。自ら体験した同社の川原浩社長は、「知識として得たものと実際の体験に大きなギャップがあると感じた。体験した後は(男性も)より深い想いを持ってモノづくりに挑めると思う」と語っていた。(取材と文=八島 充)
アサヒグループは、2021年に策定した「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)ステートメント」に基づき、「多様性を内包した公正な社会の創造」に取り組んでいる。女性活躍の推進も重要なテーマの1つで、今回の「生理痛疑似体験会」はその一環で開催された。
発案者であるアサヒグループ食品・人事総務部の窪田百恵さんは、「グループのDE&Iをどうやって形にするか悩む中で、まずは女性特有の健康課題を知る機会をつくろうと考えました。男女の区別なく参加してもらうことで互いの理解を深め、1人1人が生き生きと暮らせる世の中を考える一助となれば嬉しいですね」という。
体験会で使用するのは、甲南大学と奈良女子大学が研究開発した「ピリオノイド」という生理痛VR体験装置。EMSを用いて腹筋に電気刺激を与え生理痛を疑似再現するシステムで、運用会社の大阪ヒートクールが全国の自治体や企業に出向いて体験会を開いている。
今回の体験会は同社のグループ会社に広く呼びかけ、会場となったアサヒグループの本社ビル13階「アサヒテラス」には、垣根をこえて多くの社員が集まった。同意書にサインして恐る恐るシステムを装着する男性に、「弱」「中」「強」の順で刺激を加えていくと、ほぼ例外なく痛みに顔を歪め、「こんな思いをしているのか」「正直耐えられないかも」と声をあげていた。
私も実際に体験したが、「弱」で腹部に圧迫感、「中」で鈍痛、「強」で未経験の痛みにストレスを感じた。女性の約8割が「強」程度の痛みに一日中耐えていると聞き、思わず「絶望」の言葉がついて出た。
体験者にインタビューすると、「健康マスター検定を受けるにあたり必要と考えて参加した」「(女性が)きつい状況を過ごしていると知れて良かった」「妻や娘に対するケアを考え直すべきだと思った」「ただし、ほとんど家にいないのでどうケアしたものか…」など、様々な想いを伝えてくれた。
アサヒグループ食品の川原社長は、「男女を問わず相手を理解したいという気持ちはあるものの、(性差を)体感できなければ本当の理解につながらない。体験会を社員から提案され、『良いきっかけになるので、是非やってほしい』と即答した」という。
自身の体験後の感想をうかがうと、「女性の生理に関して様々な知見を集め理解していたつもりだったが、想像を上回る苦痛で、頭で考えていたこととのギャップが大きかった。弊社はPMS等の課題解決に向けた商品の研究も行っているが、(体験後の男性は)自身の感情を添えて議論ができるようになり、生活者に対し一層のリスペクトを持ってモノづくりに取り組めると思う」と語ってくれた。
また、同席した女性記者から、「体調が悪くても会社に報告できないような環境をどう思うかと問われると、「あってはいけないこと。歯痛で歯医者に行くのと同様の環境をつくるべきだ」と回答していた。
最後に川原社長は、「PMSを含め、女性の生理に関する議論を表立って言えるようになったのはつい最近のこと。生理痛に限らず、理解のおよばなかったあらゆる事象を正しく理解し、解決に導く仕組みをつくることが、これからの社会に必須の課題。当グループは今後も、そうした課題に目を逸らさずに活動していきたい」と結んでくれた。
取材を終えて…男性バイヤーもぜひ体験して欲しい
「フェムケア」や「フェムテック」の言葉の認知度は高まったが、それを表現したドラッグストアの売場はまだまだ少ない。バイヤーの多くが男性であることも一因と考えられ、今回のような体験会は、それを解決するヒントになると思う。「理解できないことを理解する」。その努力をエネルギーに変えて、新たな市場の創造に取り組んでいただきたい。