カルビーは今年3月、同社初となる機能性表示食品「にゅ〜みん」をリニューアル発売した。クチナシ由来のクロセチンによって、睡眠の質を高め、深い眠りとスッキリした目覚めをサポートする商品である。寝る直前でも水なし、噛まずに食べられる「可食性フィルム」を採用した斬新さが評価され、今年8月のJAPANドラッグストアショーで実施された「食と健康アワード2022」では特別賞を受賞している。そもそもカルビーは、「かっぱえびせん」「ポテトチップス」「じゃがりこ」などを擁するスナック菓子メーカーの最大手。美味しさの追求で世界と伍する企業だが、健康食品分野への参入は初挑戦のため、「にゅ〜みん」の登場は業界の大きな話題であった。今回の取材を通じ、連綿と続く同社の理念と飽くなき探究心が、新たな世界の扉を開く原動力になったことを知った。「創業の精神」「スナック菓子の現在地」「新規事業の狙い」「唯一無二の商品開発」というテーマに沿って、1つ1つ紐解いていく。(取材と文=八島 充)
カルビーは1949年、前身となる松尾糧食工業を広島県広島市(現在の南区宇品)に興したのが始まり。1955年に社名を変更し、当時日本人に不足していた「カルシウム」と「ビタミンB1」を掛け合わせ、「カルビー」と名付けたのは有名な話である。
カルシウムの素材として選んだのが瀬戸内海の小エビだ。食品としての需要が無かった素材の栄養価に着目し、殻ごと使用して作った「あられ」が、後の「かっぱえびせん」(1964年発売)となっていく。
この「未利用の食糧資源の活用」こそが同社の原点で、後にその理念は、でんぷんとして消費されてきた馬鈴薯を丸ごと使用した「サッポロポテト」(72年発売)や「ポテトチップス」(75年発売)、さらにポテトチップスの規格に合わない原料を活用した「じゃがりこ」(95年発売)へと繋がっていく。
「ポテトチップス」にまつわるエピソードを1つ挙げよう。
「かっぱえびせん」を紹介するため渡米した創業者が現地でそれを目にし、「日本でも必ず流行る」と信じて発売したのが始まりだ。当時の日本には高級品が流通していたが、原料調達などの仕組みを構築し、全国に安定かつ安価に供給したことも、同社の功績の1つである。
70年代半ば、アメリカの一般家庭に主食の一つとして定着しているシリアルに着目し、“日本人向けのシリアル”開発に奔走。88年にシリアル市場に参入した。
その頃のシリアル市場は一強独占で、後発組は苦戦を強いられたが、同社は決して諦めなかった。オーツ麦を使用した「グラノーラ」に光明を見出し、91年に「フルーツグラノーラ」(後に「フルグラ」に名称変更)を発売。徐々に日本の食卓に定着し、今日、グラノーラカテゴリーのトップシェアを獲得している。
他方、「かっぱえびせん」から「じゃがりこ」「Jagabee」そして「フルグラ」と、数々のヒット商品を世に送り出した同社にも悩みがあった。食シーンの多様化を背景に、ヒット商品を生み出すまでのスパンが、長期化していたのだ。
「新しい発想で次なるヒットを作り出そう!」という機運が社内で湧き上がる中で誕生したのが今回の主題、機能性表示食品の「にゅ〜みん」である。
「にゅ〜みん」を語る上で欠くことができない「Calbee Future Labo(カルビー フューチャー ラボ=CFL)」について説明しよう。
CFLは、企画開発から販売まで一貫して取り組む拠点として、2016年10月に開設された。創業した広島県広島市に所在地を置くことで、「第二の創業」という意味を込めている。
設立当初、会社から与えられたミッションは、「3年間でヒット商品を3つ生み出せ」というものだった。
しかしCFLに配属された人材はわずか3人。うち2人は食品業界外から来ており、開発のプロセスも判らないという有り様だった。
そのような状況下で必死に考えた3人は、技術や知見だけに頼るのではなく、生活者起点の商品開発を目指した。「圧倒的顧客志向」という信念のもとに生活者へのインタビューを敢行し、朝起きてから夜寝るまでの行動をヒアリングしていく。各者各様の生活における悩みや不満、諦めていることなどを丁寧に抽出し、それらを「食」という切り口で解決しようと決めた。
あるアンケートで、花粉症に悩む社会人が「花粉が飛ぶ時期だけ良く眠れる」と語り出した。花粉症の予防で服用する薬の催眠作用によるもので、逆に薬を飲まない時期は十分に眠れないという。詳しく聞くと、「あらゆる方法を試したが失敗に終わっていた。ただ、睡眠薬に依存するのは怖い。(眠ることを)半ば諦めている」とのことだった。
これをきっかけに「睡眠」関連のアンケートを集めたところ、「寝付きが悪い」「目覚めが悪い」「眠りの質が悪い」という回答が数多く集まった。また、「眠りの質」に悩む生活者のほとんどが、「特に対策をしていない」ことも判った。こうして、現在述べ2,000人を超えるインタビュー結果の中から、「睡眠」をテーマにした商品開発の可能性が浮かび上がった。
現在のCFLは7人体制で、取材に応じてくれた橋本利和氏は中核メンバーの1人である。社歴は30年以上で、大半をマーケティング活動に従事したベテランだ。
橋本氏は、「スナック菓子を生業とする当社にとって、『睡眠』という新たなテーマを発見したことは大きな収穫でした。設計の段階でも『圧倒的顧客志向』を貫き、唯一無二の商品を送り出すことにこだわりました」という。
その頃も「睡眠」関連の健康食品は一部にあったが、「味が苦手」「(水で摂取する)錠剤やドリンクはトイレが心配」などの声は多かった。
「トイレの心配はもちろん、台所に立ったり、服用後に歯磨きをする煩わしさを排除する中で、就寝直前に手軽に摂取できる『可食性フィルム』という剤型に辿り着きました。また、フィルム1枚の量でも機能を発揮できる関与成分を探し抜いた末に、クチナシ由来のクロセチンに出会ったのです」(橋本氏)
店頭展開を前に実施したクラウドファンディングとEC限定のテスト販売では、使用者の7割から「使用実感を得た」と評価された。この結果が社内にも認められ今年3月、パッケージも新たに「にゅ〜みん」の全国販売を、ドラッグストアを中心におこなっている。
食品とは勝手が異なる営業スタイルに戸惑いもあったが、「睡眠」市場の拡大と「にゅ〜みん」の商品力に期待する大手医療系卸のサポートを受け、ここまで配荷も順調に進んでいる。
橋本氏は、「今後は棚に並んだ商品をいかに回転させ売場に定着させるかが課題です。店頭販促と連動した施策を進めながら、年末にかけて独自のプロモーション活動も強化して参ります」という。
富士経済の調べによれば、2022年のストレス緩和・睡眠サポートのサプリメント市場は前年比24%以上の増加が見込まれ、来年も右肩上がりが期待されるカテゴリーである。関連商品の増加に伴いドラッグストアも売場を拡大する傾向にあるが、その中で「にゅ〜みん」は、粒やドリンクタイプとは異なる剤型で消費者の新たな選択肢になる可能性が高い。カルビーの本気の挑戦を、今後も見守りたい。(了)
■Calbee Future Laboの情報はこちらから
https://www.calbee.co.jp/cflabo/
■「にゅ~みん」の情報はこちらから
https://www.calbee.co.jp/cflabo/nyu/