
「売れるかどうかわからない。でもたった一人であってもファンのために・・・」と新商品開発に全力を注ぎ、未知の普及ルートの開拓に挑んだのが、高まる健康意識に応えた和菓子づくりに挑む、創業208年になる榮太樓總本鋪だ。「長い間、食べてきた大好物を再び食べられ思い出や心に刻まれた喜びを取り戻してほしい」と語る代表取締役社長の細田将己さんに、商品づくりに対する思いや、これからについて聞いた。(インタビュー:ヘルスケアワークスデザイン代表・八島充/文:流通ジャーナリスト・山本武道)
―― 1818年に創業し、羊羹と飴づくりを始めてから208年後の今、美味しい和菓子に健康というキーワードを添えてヘルスケア企業へと歩まれていますが・・・。
細田 ヘルスケア企業としての歩みは、「健康意識が高まった時代にも愛される善き菓子を」という思いを込め、2017年6月16日の“和菓子の日”に立ち上げた『からだにえいたろう』ブランドから始まりました。
『からだにえいたろう』のネーミングが多くの人たちに知られるようになったのは、第1弾として上市した低糖質羊羹でした。ちょうど低糖質の食品作りが様々な企業で始まったころ時で、世の中の流れが健康寿命延伸へと動いていること、そしてヘルスケアニーズがものすごく高まってきたこともあり、“低糖質”は、これからのキーワードであると確信していました。
その思いを強くしたのが、たまたま一人の高齢者から届いた1通の手紙でした。
手紙には、「私は長年にわたり榮太樓さんのファンでしたが、80歳を過ぎて、医師から糖尿病と診断され甘いものを食べられなくなってしまいました。でも何とかして榮太樓さんの羊羹をもう一度食べたい。私のような高齢者でも食べられるよう作っていただけませんか」と綴られていました。
当然、作っても売れる保証はありませんでしたが、たった一人であっても榮太樓のファンのご要望に応えたいという思いで、糖尿病患者さんも食べられるように開発しました。形状も従来とは異なるスティックタイプとし、「幅広い方に日常的に食べていただきたい」というメッセージを込めました。
―― 開発した低糖質羊羹は当初、従来のルートを通じ販売されたのですね。売れ行きは、どうでしたか?
細田 当時低糖質羊羹は、業界では当社だけでした。ただ、開発はしたものの既存の食系ルートでは、なかなか売れませんでした。どうしようかと思っていた矢先に、ドラッグストアや薬局に向けてヘルスケア商品を提供されている薬系の中間流通業の会長さんをご紹介いただき、お会いして当社の想いをお話ししました。
その会長さんに、先の高齢者から届いた手紙や、長年にわたり原料を生産していただいている沖縄の生産者の方たちと交流を紹介させていただいたところ、「モノ作りには開発ストーリーが重要だ。我々が、販売店へ普及のお手伝いをしよう」と言っていただき、ドラッグストアや調剤薬局などに向けた販売が始まりました。
通常の羊羹は和菓子店で購入し、かしこまった場所で食べるのが一般的です。「何でドラッグストアや薬局で羊羹を売らなければならないのか」「歩きながら羊羹を食べるなんて受け入れられない」と思われた方もいたでしょう。私たちはその常識を覆そうとしたのではなく、「高齢者の想いを受け止めて、糖尿病の方であっても美味しく食べていただきたい」の一心で、ドラッグストアや薬局というヘルスケアの拠点に託したのです。
―― 初めての薬系ルートへの挑戦は、どうだったのですか?
細田 当社初の試みであり、流通のルールが異なるので大変でしたが、先の会長さんが、“案内役”を引き受けてくださったことが大きかったですね。今では、多くのドラッグストアや調剤薬局さんなど、取引きしていただいている店舗は6000を超えています。(関連記事:https://hoitto-hc.com/11822/)

低糖質羊羹には、一口煉小豆に比べて糖質を50%カットした『糖質をおさえたこし餡』『糖質をおさえた黒糖』『糖質をおさえたはちみつ』『糖質をおさえた珈琲』があります。販売していただくルートも、これまでとはまったく異なる店舗でしたから業界関係者は、さすがに驚かれたことでしょう。羊羹をドラッグストアや調剤薬局で販売したのですから・・・。
年代を高齢者に限定せずに、若い世代への提案も考えました。幸い、あんみつや三つ豆をけっこう販売していて、その商品に黒蜜やあんこが入った小袋がセットで付いてきます。その小袋に充填する機械を用いることで、スティック形状の羊羹という新たな形状が生まれました。結果、携帯に便利で、時や場所を選ばずに食べられるという特徴が受け入れられるようになりました。近年はスポーツをされる人たちに向けた羊羹も展開しており、『からだにえいたろう』シリーズの軸は“健康”“美容”“スポーツ”の3つとなっています。

―― 医薬品小売業界に『からだにえいたろう』シリーズの一つとして開発した低糖質羊羹がデビューした2019年。JAPANドラッグストアショーで初めて食と健康アワードが行われ、その一般食品部門で大賞を受賞されましたね。
細田 うれしかったですね。医薬品小売業界のルートで支持され、しかもドラッグストアショーで、低糖質の羊羹が、“美味しさ”、そして“楽しく”“健康づくり”に貢献できる点が評価されたのですから・・・。
―― 受賞を受けて、商品を製造された工場のスタッフに大賞の受賞を報告されたそうですね。
細田 むろん普及に頑張っていただいた営業部門のスタッフの努力も大きかったのですが、低糖質羊羹の開発に日夜取り組んでいただいた工場のスタッフに、まず報告したかったのです。薬系ルートへ参入は大きなチャレンジではありましたが、これまで誰もが考えたことのない低糖質羊羹の味と機能性、そして形状をスティックタイプにしたことが結果的に、ドラッグストアをはじめ多くの販売店の方々から支持され受け入れていただきました。
―― 2025年は、どのような1年でしたか?
細田 『からだにえいたろう』シリーズも順調で業績も好調でした。BtoCはもちろんですけど、BtoBの領域も伸びている実感があります。異業種企業様から「ぜひ一緒に取り組みたい」といってくださるケースが増えており、思いもよらないところから「こういった商品がつくれないか」という問い合わせをいただくこともあります。ヘルスケアに関連した和菓子を開発してきたからこそ、「ヘルスケア企業」と受け取止めていただいているのだと思います。

―― 一昨年に商品化した注目商品の一つに、『とろみあめ』があります。
細田 この1年、コツコツと啓発してきた商品の一つが『とろみあめ』です。これは、とろみが付いた蜜状の飴でして、飲み込むのが困難な方のために開発したもので、長年にわたり親しまれてきた榮太樓飴の味を再現した商品です。
市場には、嚥下食やとろみ食が市販され、各社それぞれ工夫されて新しい商品を開発されていますが、当社が考案した飴を蜜状にするという発想には、長きにわたり食べてきた大好物を、再び食べられた時の満たされた気持ち、甘いものを食べた時の幸福感といった、思い出や心に刻まれた喜びを取り戻してほしいという願いがありました。
飴は、誰もが小さなころから食べてきた甘さ、舐めるとつい笑顔になる代表格のようなお菓子ですので、「喉につかえるかもしれないから舐めてはいけない」といわれたら辛いですよね…。『とろみあめ』は、食べる機能を取り戻すために、一番安全な形で召し上がれる形状は何かを考え抜き開発した自信作です。嚥下食の市場は年々大きくなっていますが、延命するだけ、栄養を補給するだけでなく、食べる喜びを感じていただける商品となっています。ドラッグストアや調剤薬局などヘルスケア最前線に立つ販売店の皆様に、低糖質羊羹と共に推奨いただければと思っています。
―― コンドロイチンを加え膝に関する機能を有した商品の開発を進めていると聞きましたが…。

細田 たまたま焼津水産さんとの出会いがあって、機能性表示食品の開発でコラボさせていただいています。焼津水産さんの知見と、私たちの美味しいものを作るという互いの思い、ブランドが合わさってできるのではないでしょうか。特に効果を感じるのに、たくさん食べなきゃいけないというのではなく、私たちの考えていることがうまくいって、お菓子の味を邪魔しない画期的な商品が誕生しそうです。他にも今年は、新しい製品をいくつかデビューさせる計画です。ただ、自分たちだけで考えていても、ビジネスはなかなか前に進まないので、健康素材を商品化する企業さんとどんどん情報を共有していきたいと考えています。
<記者の眼>
ーーたくさんの取材を通じ多くの人たちと出会い、新しいビジネスの誕生の現場を見てきて思うことは、新しい商品づくりには、必ずストーリーがあることだ。なぜその商品を開発したのか。どんな思いでモノづくりに携わったのかである。そして購入した人たちから、「美味しかったよ」「また買いに来るね」の一言を耳にした時、「あ〜この仕事をやってよかった」とスタッフは日々の職場が楽しくなり、やり甲斐が出てくるーー。
3年前、創業205年企業の第12代を継いだ細田社長は「この会社で一生働きたいと社員が感じられる魅力を作り上げていきたい。それはお給料と働き甲斐、両面においてです。現在よりも、モノと心の充足感を感じてもらえるような企業に成長させたい」と語っていた。
また同社のホームページには、こうも綴られている。
「“味は親切にあり”との考えを大切に、原料に吟味を重ね製法にこだわり、美味しさと品質を第一とした菓子作りを続け、今後もお客様に“心の豊かさ”をお届け出来るよう励んでまいります」
榮太樓總本鋪の代々のトップに受け継がれてきたことは、“心を添えたモノづくり”であった。“美味しい羊羹や飴を食べてほしい”と心を込めた商品づくりは、永遠に続いていく。(山本記)