DX化が進む世界のチェーンストアで、電子棚札(ESL)の導入が加速している。市場規模は2022年時点で22億米ドル(約3200億円)、2030年には83億米ドル(1兆2000億円)を超えるとも言われる。IoTの発達で機能の高度化が進んでおり、現在はバックヤード作業の効率化にとどまらず、販売促進のツールとしても効果をあげている。このほど、電子棚札の世界No.3メーカーであるハンショーの日本法人、・ハンショージャパン(路輝代表)を取材した。日本進出は6年前と最近だが、対小売業のきめ細かいソリューション提案が好感されている。路輝氏は「日本のドラッグストアが抱える課題を共に解決していきたい」と語っている。(取材と文=八島充)
チェーンストアのる経営手法は、店舗運営や仕入れなどのオペレーションの集中化で利益を最大化できるのが大きなメリット。POSシステムを用いた商品情報の一元化などが際たる例で、運営効率を高めることが目的のDXと相性が良い。
近年はキャッシュレスシステムやセルフレジの導入などが、従業員の負担軽減や省人化に寄与している。そして今、DXによる業務効率化の切り札として注目されているのが、ESL(Electric Shelf Label)と呼ばれる電子棚札である。
電子棚札のベースとなる電子ペーパーを世界に先駆けて開発(1969)した日本だが、商用化ではヨーロッパが先行(1996〜)し、以来同市場は欧米のプレーヤーによって開拓されてきた。ここ日本では2019年に家電量販店が全店導入を果たしたばかりで、その家電量販店に電子棚札システムを提供したのが、第三極のプレーヤーとして急成長するハンショーである。
ハンショーは中国・北京市に本部を置く会社。創業は2012年と若いが、すでに欧州、北米、アジアに23の支店を持ち、50カ国・3万店以上に商品とサービスを提供している。直近では電子棚札システムで世界トップ3の位置につけている。
急成長の要因についてハンショージャパンの路代表は、「自社生産拠点とモジュール工場を介し、ソリューション設計、製品開発、生産・納品までをトータル提案できるのが大きな強みです。顧客のニーズに対応するために各国の有力なパートナー企業と連携していることも、差別化となっています」と語っている。
現地調査のために日本に上陸したのが2018年で、翌年に家電量販店への電子棚札システムの採用を実現した。日本におけるパートナー企業は「食のインフラ」として知られるイシダ(石田隆英社長)。両者の強力なタッグにより我が国の開拓を進めている。コロナの影響で先送りされていた法人登記も昨年9月に完了し、今年6月には東京日本橋にショールーム兼ねる事務所をオープンした。
電子棚札を導入すれば、売価表示に伴う一連の作業が1つのシステムで瞬時に、かつ100%正確に完了する。運用ソフトをPCやタブレットにインストールすれば、通信環境さえあれば、どの空間でも、移動しながらでも作業が行える。もちろん、変更する店舗が何千、何万店とあろうと関係はない。棚札のバッテリー寿命は約10年と長く、ペーパーレスで省資源を推奨する社会の流れにも合致する。また、あらゆる環境下での使用を想定し、防水・防塵使用の棚札も準備している。
従来ならば、変更スケジュールの策定や、変更時の人員の確保、紙の棚札の準備、実際の作業時間を考慮する必要があったが、電子棚札はそれを大幅にカットできる。従業員の負担軽減や省力化は歴然で、負担が軽くなった従業員を接客の充実等に振り向ければ、ストアロイヤリティーの向上にも貢献する。
路代表は、「当社はバッテリーの長寿命化でも世界をリードしてきました。後発企業ゆえに開発のスピードと品質には自信があり、常に最新の製品を提供しています。その技術は常にオープンに開示していますので、ご興味があればいつでも生産工場をご案内いたします」という。
もう1つの強みが、クライアントのニーズを第一に考える営業姿勢だ。各々の事業環境や競合状況に合わせて、棚札のサイズや形状、パネルデザイン、システムの及ぶ領域までカスタマイズできる。パネルのカラーも投資コストに合わせて変更でき、原色に近いマルチカラー表示にすれば、店頭での演出力が高まること請け合いだ。
現在日本では、家電量販店、スーパーなどのほか、ドラッグストアへの営業も進めており、大手との実証実験も始まったという。「日本のドラッグストアは商品の豊富さやサービスの質も高く、世界から注目されています。今後は国内の顧客のみならず、インバウンド客の増加も予想され、さらなる業務効率化が課題となっていくでしょう。そうした課題を、ドラッグストアと一緒に解決していきたいと考えています」(路代表)
なお、ハンショーはことグローバルにおいて、チェーンストアの抱える様々な課題に対応したソリューションを提案している。その1つが液晶製品。電子棚札で表示するのが難しい動画など、クライアントの希望するコンテンツを載せて店頭を演出する機器だ。これを電子棚札システムと連携すれば、適時的確な販促が展開できる。
もう1つは店舗回遊ロボット。カメラ付きの自走式ロボットが店内を回遊し、欠品を含む陳列状況をリアルタイムで把握しレポートを作成、補充や発注作業の効率化を促す。各バイヤーがカテゴリー単位で掌握する売場を、ロボット1台が網羅的に管理できる。このほか、エネルギー問題にシビアな欧州で導入が進んでいるのが太陽光発電のシステムだ。店舗設備と連動して光熱量・料をコントロールし、ランニングコストの低減に寄与する。
ここ数年内に海外視察に行った方なら、各国のチェーンストアで急速に電子棚が浸透していることを実感しただろう。昨今の日本は国をあげてDX化を促進しているが、欧米あるいはアジア各国よりその進捗が遅いのも確かだ。電子棚札の技術は数年前より格段に上がり、電子ペーパーの表現力も高まっている。DX投資を検討されるドラッグストアも、一度ハンショー・ジャパンのショールームを訪れてみると良いだろう。