ヘルスケア情報サイト「Hoitto! ヘルスケアビジネス」(ヘルスケアワークスデザイン株式会社)

【第4回】矢澤一良博士が行く!ウェルネスフード・キャラバン【ファンケル】

≪第4回≫ファンケル 執行役員 総合研究所・機能性食品研究所所長 寺本祐之氏

矢澤一良博士(早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門 部門長)が「ウェルネスフードのこれから」を探る対談企画「矢澤一良博士が行く!ウェルネスフード・キャラバン」第4回は、株式会社ファンケルの執行役員で総合研究所・機能性食品研究所の所長である寺本祐之氏にご登壇いただいた。対談は寺本氏が同社で取り組んできた『モノづくり』に掛ける矜持から、大ヒット商品「カロリミット」誕生の話、これからの機能性表示食品の未来について話題が広がった。寺本氏は「健康を支えるのは『健全な偏食』にある」と語り、矢澤博士はそのロジックに大きくうなずいた。ファンケルの頭脳とも言える研究所で交わされた対談。「健全な偏食」の意味について、そしてファンケルの研究所長が考えるサプリメントの役割について矢澤博士が迫る。(記事=中西陽治)

矢澤一良博士(以下・矢澤氏)私とファンケルさんの接点は1995年にさかのぼります。その頃、私は相模中央化学研究所で海洋細菌からEPAを作る研究や、あるいはDHAの原料調達を行っていました。その後、様々な機能性食品に興味をもち、ファンケルさんとのお付き合いが始まりました。

矢澤一良博士

何度もファンケルの総合研究所には来たことがあります。その頃、寺本さんも研究員として歩み始め、こうして対談する機会をいただいております。

寺本さんはファンケル入社まで、どのような研究をされていたのですか。

株式会社ファンケル執行役員 総合研究所・機能性食品研究所所長 寺本祐之氏(以下・寺本氏):ありがとうございます。私は日本大学の農獣医学部で農芸化学を専門的に学び、修士課程を修了したのち1995年にファンケルに入社しました。
大学時代はニンニクの機能成分の研究をしていて、有賀豊彦教授(日本大学名誉教授)のもと、血小板の凝集抑制作用があるニンニクの成分について調べていました。

ニンニク研究を行っていく中で、有賀教授に「現時点ではこの研究を正しく理解して産業に利用できる道がない、研究を広げていくためには、食品の機能性をしっかりと活用できる産業が必要だ」と言われました。そして「君は研究を役立てられる仕組みを作っていく素質があるからその仕事をやりなさい」と大命令を受けたのです。

寺本祐之氏

その仕事を探していた時、ファンケルが「価格破壊」を掲げて健康食品の産業化を進めていることを知ったのです。

矢澤氏:ニンニク研究の第一人者としてたいへん有名な有賀教授は、寺本さんの性格を見抜いていたということですね。
1990年代は「ヘルシー」はあっても、「ウェルネス」という言葉は無いし、「ウェルビーイング」という概念もありませんでしたし、また大学での食の研究成果が製品化に結びつかない時代だったように思います。

しかしその時代にあって「ウェルネス」の方向性を有賀教授のもとで学ばれていたのですね。食のサイエンスを一般の生活者に届けられる研究を実践なさっていた。

寺本氏:ありがとうございます。おっしゃる通り、当時は食の栄養成分の研究結果を生かせる場が、今ほどありませんでした。
かといって治療目的の医薬品成分になるかというとまた違って、食から得られた予防領域の機能であるならば、もっと活用の余地はあるはずだと感じていました。

食べているものが人間の健康を左右しています。ですから私は人の健康を支えているのは「健全な偏食」にあると考えています。「健全な偏食」は例えば、〝魚を好きで食べている〟や〝習慣的にニンニクを食べている〟といった食生活の特徴があって、その成分が体に良い影響を与えているということです。
ある特定の食品だけを食べ続けるのは完全な偏食ですが、納豆を習慣的に食べることは「健全な偏食」に当たると思うのです。
これはサプリメントのような栄養素の摂り方に通じることだと思います。

矢澤氏:「健全な偏食」はおもしろいですね。〝偏食〟というと間違っているように聞こえますが〝健全な〟〝偏食のやりかた〟をすることは、病気の予防や健康維持増進になっていくという考え方ですね。

対談会場となったファンケル 総合研究所

矢澤氏:サプリメントのトップメーカーの研究者として、様々なヒット商品に関わってこられたと思いますが、機能性表示食品制度をどのようにとらえていますか。

寺本氏:私の入社当時は機能性表示食品制度のような食品の基準があまりなかったので、いわゆる成分を担保する、原料を管理する、製剤を作るという、どちらかというと開発をメインに5年ほど携わってきました。

矢澤氏:「管理」とおっしゃいましたが、実はそのことがいま、機能性表示食品の問題点として指摘されている部分ですよね。
はっきり言って風評被害レベルまでに管理体制や成分担保が伝わらない状況が生まれてしまっているがために、「機能性表示食品制度が悪い」というような制度自体を疑問視するような風潮が現在あります。

寺本氏:おっしゃるとおりだと思います。現在の起きている問題は機能性表示食品制度だけの問題ではないと感じています。おそらく機能性表示食品制度があったから、問題が表面化され対応方法が正しかったかなどの議論につながっているのではないかと。

大事なのは作り手、つまり製造する会社の考え方ではないでしょうか。またはその考え方が、正しく品質管理に関わる人たちに伝わっているかということです。
決められたプロセスを遵守すればよい、というわけではなく、少しの変化に対しても注意・警戒のサインが立てられて対応できる体制があったか、という点があると思います。

矢澤氏:私は性善説に沿って健康食品が作られていると思っています。そこに油断が生まれるといけません。
今回の事件はまさに品質管理上の問題点が多く、原料や製造のプロセスが指摘されていると思っています。
機能性表示食品はトクホに比べても非常に透明性がある制度ですが、制度に限らず食品全般に関わる品質管理の問題として捉えるべき時代にあるのでしょう。

寺本氏:私は「食品だから安全」という考え方は誤解です。食品は安全ではないという感覚を忘れてはいけないと思います。傷んだり、腐った食品による食中毒事件は、亡くなっている人がいる事例もあります。だからこそ人の生命に影響するものを取り扱っている、という感覚がとても大切なのです。

本来ならば「食品だから安全」なのではなく「管理されている食品だから安全」というべきでしょう。少しでも気を抜くと食品はおかしくなる、という意識を持ち続けなければならないのです。

矢澤氏:食品添加物や医薬品成分は基本的には単一成分ですが、食品は複合的で体内に摂取される、という特質を作り手側が考え続けなければならない、ということでしょう。今一度、認識すべきことだと思います。

矢澤氏:ファンケルさんは「正直品質」をコーポレートスローガンとしていたこともあり、一般的にも品質にこだわりのある企業だという印象です。
「価格破壊」、「正直品質」から現在は「体内効率」を掲げ、さらにそのスローガンを真摯に追求できる環境をもった企業だと思っています。

寺本氏:まず「価格破壊」は「価格を破壊したい」ということではなく、本質は「品質を良くして適正な価格にする」という目的に立ち、そこを目指して製品づくりを行うという覚悟が込められたスローガンです。同時に機能をいかに高められるかの研究を進めていました。

そして大切なのは、成分がしっかりと吸収されないと機能が発揮できない、ということです。例えばビタミンならば、たくさん摂ればいい、ではなく効率的に取る方法を私たちが見つけ出す。その成分の吸収動態へのこだわりが「体内効率」というスローガンにつながっているのです。

矢澤氏: 私が研究していた微生物のスクリーニングと同じように感じます。何を加えたら、あるいは除いたら吸収が促進されるかの結果が高品質な商品につながるということですね。特に食品に用いられる天然物は多くありますから、根気よく行わないといけない研究です。

その研究技術をもって、若い研究者にどのように教育なされているのですか。また、ファンケルさんに就職したい学生さんは毎年山ほどいますが、研究者に求められる資質はありますか。

寺本氏:機能を達成するために素材を探す研究は多少、体力勝負なところもあるのですが、「何かを探してやろう」という強い想いがなければいけません。それは一人の研究者として「研究に興味をもっているか」ということです。

もう一つ、やはり食品に対する興味はとても大事だと思います。単純にモノを作るという意識より、人の健康に役立つものに対してこだわりがある人のほうが良いものを見つけてきますね。

「本当にお客様の役に立ちたい」という想いをもっているかがポイントです。これはマニュアルにはない研究者の資質だと思っています。作業的になってしまうと、少しの変化を見落としてしまいますから。

矢澤氏:ファンケルさんは多くのヒット商品を生み出してきました。そのヒットの要因について、サイエンスの観点から見ていかがですか。

寺本氏:ファンケルが最初に健康食品を始めた時は「価格破壊」を掲げていました。製品の紹介と分けて、「なんとなく体によさそう」という感覚ではなくサイエンスベースで解説する情報を発信していこう、という思いで健康情報誌「元気生活」を発行しました。その情報発信がサプリメントの文化をはぐくんできたのです。

「元気生活」を通じたサイエンスベースの情報に興味を示すお客様が予想より多く、業界の人も参考にしていたという声も聞いています。ただ一方で、昔はメジャーな成分か、成分量が多いか、でお客様が判断されることが多かったため、そこで勝負しなければなりませんでした。当時一番多かったのが「これは何に役立つ成分なの?」というお問合せでした。ただそれも伝えきれないこともありました。

矢澤氏:その意味では機能性表示食品制度で届け出受理できるようになったのは、大きなターニングポイントではないでしょうか。

寺本氏:そうですね。直接的に機能を表示できますから、目的を持って活用していただけるようになりました。お客様自体も自身にあっているかを感じていただけますので、とてもいい制度だと思っています。

矢澤氏:サイエンスのデータで統計的に優位性が認められ、有効性が明らかになったエビデンスがある食品であっても、摂取した人が体感できるかどうかの個体差・個人差があります。この個人差に対してどういう風にとらえていますか。

寺本氏:当然、体質も含めて個々の要因がそれぞれ異なっているため、個人差は必ず生じると思っています。ですから、できるだけ幅広い層でのヒト試験を試みるなど、必要としている・適しているお客様を意識した質にこだわった研究を行っています。

特に開発の分野では効果感も重視しています。実感値とも表現できますが、これをいかに商品に活かしていくかが課題でもあるのです。そのため、有意差というよりエフェクトサイズに注視しています。効果を感じているか・感じていないかを開発の時点でチェックし、いくつかの素材でエビデンスがあったとしてもどれがお客様の感じ方が良いかを調べています。

機能性表示食品として機能を証明するためのエビデンスだけにとどまらず、実感値を証明するエビデンスを開発の中に盛り込んでいるのです。

矢澤氏:ファンケルさんの代表的な商品として「カロリミット」があります。科学的エビデンスが宣伝効果も相まって生活者に伝わった、エポックな商品でもあると思います。

「カロリミット」

寺本氏:「カロリミット」は、桑の葉イミノシュガー・キトサン・茶花サポニンを関与成分として食事の糖や脂肪の吸収を抑えて、食後の血糖値と血中中性脂肪値の上昇を抑える機能性表示食品です。

摂取カロリーを調整しないと脂肪は落ちませんが、食事制限にも限界値がありますし、サイエンスで考えるならば、糖や脂肪の吸収を抑えていかなくてはいけないと考えたのです。

食品と一緒にとるので少ない量で手軽に摂れる成分を考えた時に、消化酵素の阻害ができないか、という研究から「カロリミット」が誕生しました。

矢澤氏:マーケットが大きく、競合も多い内臓脂肪対策の分野で「カロリミット」が支持されつづける秘訣のようなものはあるのでしょうか。

寺本氏:品質と機能をしっかりと示していくことですね。ファンケルでは「カロリミット」をはじめとした事業のベースとなる商品はヒト臨床試験を行って届出をする、というスタンスは一貫しています。

全商品の2割以上はヒト臨床試験を行っています。 もちろん、ヒト臨床試験はSR引用などの届出方法よりコストもかかりますが、できないことではありません。やはりお客様に品質を示していくためには、実践しないと私たちも安心できないですから。

矢澤氏:今後のファンケルさんが目指すものについてうかがいます。機能性食品研究所の所長の立場として今後10年、20年後にファンケルさんはどのような商品や研究に進んでいくと思われますか。

寺本氏:間違いなく基本は機能重視であるでしょう。制度の方も機能重視になってくると思われます。
日本国内だけに限らず世界中も含めて〝サプリメント〟という確立された市場を強固なものにしたい、というのが私たちの願いです。

法体系も、サプリメントに寄った仕組みが構築されることに期待していますし、それが構築された時に着手しても遅いので、仕組みができる前提でいろんな取り組みをしていこうと研究を進めています。

―――ありがとうございました。