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“進化”から”真価”へドラッグストア ストーリー
素晴らしき経営者との出会い⑧
スギHD取締役副社長の杉浦伸哉さん<その2>


「医療用ウイッグ、乳房を切除後の専用下着といった
商品だけでなく患者さんの心のケアもドラッグストアの役割」


2006年、議員立法で成立した「がん対策基本法」が、2007年4月に施行されてから17年目。様々な対策が進められてきた。なかでも外見の変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するアピアランスケアが重視されているなか、ドラッグストア業界で唯一、アピアランスケアに取り組むのがスギHD(ホールディングス)だ。2009年から増え続くがん患者のためのケアコーナーを開設する傍ら、医療用ウイッグをプレゼントするなど、がん対策に力を注いできた。「がんに関わる患者さん、特に女性の場合、抗がん剤の副作用によって頭髪が抜けた際に使用する医療用ウイッグ、乳房を切除後の専用下着といった商品だけでなく、患者さんの心のケアも、ドラッグストアの役割だと思い取り組んでいます」と話すのは、取締役副社長の杉浦伸哉さん。二人に一人が、がんに罹患する時代、患者と家族、そして地域住民のための健康ステーションとして、ケアに取り組むスギHDの存在は大きい。(流通ジャーナリスト=山本武道)


■ドラッグストア業界で唯一、「がんケアコーナー」を開設


杉浦伸哉取締役副社長

アピアランスケアとは、厚生労働省が2022年10月27日に開催した、がん対策推進協議会で配布された資料『アピアランスケアの現状と課題』(国立がん研究センター中央病院アピアランス支援センターの藤間勝子さん)によれば、がん患者が外見をケアする理由として、「自分の姿に違和感があったから」「他人の目が気になるから」「就労・就学する上で必要だと思ったから」「医師や看護師など医療者から勧められたから」が上位に挙げられ、「頭皮や皮膚、爪など弱くなっている所を保護するため」「家族、恋人、友人に心配をかけたくなかったから」「がん(悪性腫瘍)になったら外見のケアは必要だと思っていたから」「治療中でもおしゃれを楽しみたかったから」…もあった。

インターネットで「アピアランスケア」を検索すると、多くの情報を収集することができるが、「アピアランスケアに対応するドラッグストア」と入力すると、『週刊がん もっといい日』2023年11月23日付の『今週の焦点』(https://weekly-gan.com/876/)に、『ドラッグストア業界で唯一、「がんケアコーナー」を開設するスギ薬局』のタイトルが表示される。

毎年、乳がんの早期発見、早期診断、早期治療を啓発する“ピンクリボン運動”の一環として実施している、「患者100名へ医療用ウィッグをプレゼントしていること」を紹介したものだ。乳がん治療で抗がん剤の副作用で脱毛が予想される患者、乳がん治療中で脱毛している患者のQOL向上のために2013年からスタートし今回で11回目。アピアランスケアについては、さまざまな情報が紹介されているものの、ドラッグストア企業に限定すれば、対応しているケースはスギHDが唯一だろう。


■アピアランスケアに取り組むようになったきっかけ


『三河乳がんクリニック』(右)に隣接し開局するスギ薬局安城篠目店(左)

本連載では前回(https://hoitto-hc.com/8872/)、がんケアコーナーを開設しアピアランスケアに対応しているスギHDが運営する二つの店舗のうち、名古屋市内のスギ薬局伏見店を取材したが、今回は2009年、愛知県安城市内に開院した『三河乳がんクリニック』と同時期に、隣接地へ開局したスギ薬局安城篠目(ささめ)店を紹介しよう。

そもそもスギ薬局が、アピアランスケアに取り組むようになったのは、どのようなきっかけだったのだろうか。杉浦副社長は次のように話している。

「周辺にドラッグストアが複数店ありましたので、いろいろな商品を取り揃えて販売することはなかなか難しいところから、処方箋調剤+がん患者さん対応の特化型薬局として開局しました。当時、安城篠目店の取り組みは試行錯誤の状態でスタートさせましたが、現在も数名ではありますが、アピアランスメイクを学んだスタッフが定期的に、がん患者さんの悩みに応えています。

化粧は女性を美しくすることではありますが、内面からの美、そして心のケアも大切ですから、特にがん患者さんが体験するアピアランスのメイクについて当社では、技術を持っていませんでしたので、資生堂さんにお願いをして学んだスタッフが、店頭でさまざまな相談にのってきました。

抗がん剤の副作用によって頭髪が抜けたり、爪、顔の色等々の悩みを抱えている患者さんが、当店のことを知って口コミで来店されます。予約をしていただき、専門スタッフが対応していますが、店を後にされる際には、笑顔を取り戻していただければと思って取り組んできました」


■ がん患者対応特化型薬局として2009年に開局した安城篠目店


ピンクリボンのマークが来店者を出迎える入口

名古屋駅から新幹線のぞみに乗りJR名古屋駅からこだまに乗り換え、一つ手前の三河安城駅からタクシーに乗り1メータ、左手に東海地区初の乳腺疾患専門クリニック『三河乳がんクリニック』の大きな看板が見えてくる、開院したのは2009年、隣接する地にスギ薬局の安城篠目店も、がん患者対応特化型薬局として同時にオープンした。

店頭の入口には、支援するピンクリボン運動のマークが、がん患者をはじめ多くの来店客を迎えている。店内の右手には、様々な悩みを聞きながら、がん患者に化粧法をアドバイスするケアルームがあり、さらに奥に進むと医療用ウイッグや下着などが陳列されたケアコーナーが目に飛び込んでくる。

「私が入社したのは今から10年前。安城篠目店に配属されたのは6年前。がんに関わる勉強をさせていただき今日に至っています。当店では月に500から600枚の処方箋を応需していますが、その大半は隣接する三河乳がんクリニックから発行されておりますので、当然、がんに罹患したことによる相談は少なくありません。

がんと診断されて来店された際には、すごく心配され、元気がなく落ち込んだご様子ですが、当店では専用の化粧品を使用し化粧の仕方をアドバイスして、ご自分が美しくなることで笑顔を取り戻していただければ、私たちにとってもやりがいがあります」と語るのは店長の前田文香さん(薬剤師)。


ウイッグや下着を取り揃え陳列するがんケアコーナー


■ 相談は月に3回、予約で受け付け時間をかけてメイクの仕方もアドバイス


店内の掲示板には、医療用のウイッグの手入れ会、乳がん検診の進め、次回の予約カレンダーなどが掲出され、調剤を待つ間に来店した患者の情報収集の場にもなっている。


様々な情報を提供する掲示板


「がん患者さんのケアの相談は、月に3回、予約で受け付けています。顔の色、爪の状態、それにまつ毛や眉毛も抜けることもありますので、時間をかけてメイクの仕方をアドバイスするようにしています。ケア用品については隣接のクリニックの患者さんであれば当店がありますが、他の病院の売店には、ケア用品を置いてあるケースが少ないので、当店のことを知り合いに聞き、電話による問い合わせもありますし、遠方に引っ越される方からの連絡もあります。

オンラインでもよいのですが、ただ当店では、化粧のアドバイスもそうですが、下着は試着をしていただくようにしておりますので、やはり実際に来ていただいて直接お話しするようにしています。

『来てよかった。ホッとします』といってくださる方もおられますし、がんになったと落ち込んだ方に対しては、がんの話だけではなく、楽しかったことや旅行、趣味の話をしたりしているうちに、『これからのことを考えられるようになりました』といわれ、笑顔を取り戻されて帰られる方もおられます。ですから次回には、もっと元気になっていただいたいと、さらにがんケアのことを学ぶようにしています」と語る前田さん。


■ 願いは少しでも元気になり笑顔を取り戻して欲しい


「がんケアコーナーを開設して利益を上げるわけではないのですが、ドラッグストアは地域の方々にとってのオアシス的な存在でありますし、特にがんサバイバーの方たちのためアピアランスケアに対応する店舗は、困った方が少しでも元気になり笑顔を取り戻していただければとの願いで始めました。安城篠目店は乳腺疾患専門クリニックに隣接していますが、伏見店の場合はオフィス街で働くがん患者さんが立ち寄りやすいように、2階の化粧品売り場の奥にプライベートルームを設けて対応しています」(杉浦副社長)

がんと宣告されたり、治療中に頭髪が抜けたりといった様々な症状を気にかける女性にとって、化粧や下着などを相談し、ケア用品を購入する場を必要としているものの、治療を受けている病院の売店に、がんのケアに携わるスタッフが不在であったり、必要とするケア用品が少なかったりするケースが少なくないのが現状だ。

がん患者の闘病生活に寄り添ってくれるのは医療関係者、家族、友人であったり、患者会の存在であったり、ともに同じ職場に働く仲間であったりと様々だが、がんの相談に乗ってくれたり、ケア用品があるドラッグストアがあれば、どんなに心強いか。がん患者の多くは、ドラッグストアのがんケアステーションとしての機能を求めていることは確かだろう。

アピアランスケアに対応している店舗の存在は、各地に展開する店舗の待合室に設置されたデジタルサイネージを使用しアピールするなど、これからさらに対応店舗が増えることを期待したい。



【著者プロフィール】
山本武道(やまもとたけみち)
千葉商科大学経営学部経済学科卒。1969年からジャーナリスト活動をスタート。薬局新聞社の記者として中小の薬局、ドラッグストア分野、自然食品・ヘルスフードを取材。健康産業新聞社取締役を経て、青龍社取締役に就任。その後、フリージャーナリストとして『JAPAN MEDICINE』(じほう社)、『ファーマウイーク』(同)の遊軍記者として参加。2007年、ヘルスビジネスマガジン社取締役社長、がん患者と家族に向けたWEBサイト『週刊がん もっといい日』を開設し、編集長に就任。2007年から中国ドラッグストア経営者対象の『月刊中国葯店』(北京市)に連載中。現在、ヘルスケアワークスデザイン取締役会長、モダン・マーケティング代表。『週刊がん もっといい日』編集長、シード・プランニング顧問。元麻布大学非常勤講師。