1月12日に公表されたとりまとめでは、「濫用等のおそれのある医薬品」の販売に関する具体的な方策を、「購入者が20歳以上であることの確認を行う。(中略)免許証や学生証等の写真付きの公的な身分証の提示を求めること等により年齢を確認することとする」とし、さらに「20歳未満の者による購入の場合」や「20歳以上の者による複数個又は大容量製品の購入の場合」等についても、同様の方法による年齢確認を義務付けるものとしている。
(前編はこちら 販売店舗の実情無視!?セルフメディケーション推進阻害を懸念)
しかし、そもそも20歳未満の若年層では、写真付きの公的な身分証を持たない、または携帯しない場合が相当数想定され、さらに成人層においても、キャッシュレス決済の普及等も相まって、写真付き身分証を携帯しないことが一定程度想定される。身分証を所持しなければ風邪薬1つ自由に購入できない制度は、セルフメディケーションを大きく阻害してしまう。
JACDS理事の関口構成員は従前から、20歳以上の購入に対する規制に反対していたが、今回の検討会では「人権は経済に勝る」といった意見を一方的に押し付けられた。「販売情報の記録と保管」の義務化は、その象徴である。
関口構成員は、個人情報保護の観点から購入者が記録・保管を拒む、あるいは記録の要求が「クレームになる」可能性は低くないと強調したが、他の構成員はこれに対し、「クスリはリスク」「万が一の事態が起きた場合の責任問題の方が大きい」「倫理意識なき販売は危険」と一蹴される場面も見られた。そうであるならば、医薬品の成分や販売運営を含めた議論をすべきであった。
なお関口構成員は検討会の最後に、「約1年間の議論を通じ、OTCを適正に販売する上で、ドラッグストアへの期待が高いことを実感している。今後は有資格者をしっかりと活用して、その期待に応えたい」と述べている。
ドラッグストアへの期待とはすなわち、セルフメディケーションの担い手として国民の健康を守るとともに、医療の根幹である国民皆保険を守る役割である。このことは社会福祉の観点のみならず国の将来を左右する重要なテーマであるはずだ。
また、大病院の救急外来はどこも毎日のように混雑しており、体調が悪い中で何時間も待たされた経験がある人は多くいる。OTC医薬品のアクセスを阻害し、風邪薬1つすぐに手に入れることができない状態にする規制強化を行えば、病院での混雑にますます拍車がかかるだろう。
たとえ、その病院の窓口での経済的な患者負担が安価に抑えられても、それは国民皆保険によって支えられているだけである。今後、給与から天引きされる保険料や税金が更に多く徴収されることになり、そのツケは最終的に、国民により重くのしかかってくることは容易に想像できる。
医薬品の販売方法は、皆保険制度の持続に向けたセルフメディケーションと、OTC医薬品を供給するドラッグストアや薬局、薬店の現場の対応に大きな影響を与える。
今回の検討会は、医薬品を供給する現場を熟知した構成員が少なく、「できるか?できないか?」を度外視し、「この方向性で」と決め、「医薬品のプロフェッショナルなのだから」と、現場に無理な対応を求めている節が見られた。確かに薬剤師と医薬品登録販売者は「医薬品のプロ」であることは間違いないが、現実的な店舗運営とは別問題である。
販売方法の改正によって、利便性のみが奪われてしまう結果となれば、「自分の健康は自分で守る」というセルフメディケーションの後退に繋がり、軽医療の処方箋枚数が増加し、最終的には社会保障費の膨張を回避したい国の政策からも外れていく。規制強化推進派が多勢を占め、かつ2023年末の取りまとめありきで経済合理性を無視した今回の検討会が、議論を尽くしたとは到底言い難い。
風邪薬、咳止め、鼻炎薬、鎮痛剤の崩壊、OTC医薬品市場を壊滅することになれば、国民の利便性は確実に失われ、国家の財政負担は更に増す。政府は皆保険制度の持続性という観点で、OTC医薬品の活用・拡大、セルフメディケーションについても非常に前向きだが、この姿勢と同検討会は逆行するものになっている。
また、同検討会で「濫用等の恐れのある医薬品の大容量は製造を禁止するべき」という意見が多く出た。
日本OTC医薬品協会は「ファミリーユース用の大容量の製造は必要」と意見したが、「濫用を助長する」という理由で意見は通らなかった。だが、製薬企業は単価が高い大容量を製造しなければ利益を出しにくい現状があり、小容量のみに規制されてしまうと製薬企業を危機的状況に陥れる。持続が困難なOTC医薬品からの撤退も視野に入り、セルフメディケーションの存続にも大きな影響を与えるだろう。
これから法改正が実際に行われる前に、アメリカをはじめとした諸外国のOTC医薬品の販売規制をより深く検証する必要があるのではないか。日本国内で認可されているOTC医薬品の成分よりも遥かに効果・効能が高い成分が、コンビニエンスストアなどの小売店で自由に販売されている。また、日本国内で認可されている成分と同様なものについても、日本国内より多くの含有量が許可されている。それでいて、OTC医薬品で重大な健康被害が生じたというニュースを聞いたことがない。
そもそもOTCとは、Over the counterを省略したものだ。アメリカでは“カウンターの外で自由に販売される医薬品”を“OTC医薬品”とするのが本来の意味で、逆にカウンターの中で販売される医薬品が処方薬となる。
つまり、処方薬は医師から発行された処方箋によって薬剤師が調剤し患者に手渡しするものである。これに対し、OTC医薬品はカウンターの外でサプリメントと同様に顧客が自由に手に取って買うことができる医薬品を意味するのである。
しかし、日本では一部の行政監督官がOTC医薬品は「カウンター越しに販売しなければならない」と歪曲した解釈を行い、厳しい販売規制の拠りどころになっている。
日本でこのような過剰規制を更に強めることになれば、OTC医薬品離れはますます進み、セルフメディケーションを一層困難なものにしてしまう危険性をはらむ。
加えて、日本国家および国民の医療費負担を更に増大させ、それが最終的には国家財政の危機の一要因にもなる。濫用やオーバードーズを本当に解決したいのであれば、製薬企業に対して、濫用等のおそれのある成分を除外した製品を製造させ、大容量の製造も認めるなどの方法もある。
やはり、厚労省は経済的合理性のある制度設計等には長けていないのか。2020年以降、大きな問題とった後発医薬品の供給問題が最たる例だ。診療報酬財源の捻出の為、薬価改定の度に構造的に薬価が引き下がる制度設計を行ってきたのが同省だ。
「国民負担軽減のために薬価は引き下げることが当然」とし、製薬企業や卸売企業の経営持続性等は無視されてきた。これが顕在化してきたのが後発医薬品の供給不足の問題であり、OTC医薬品業界にとって「医薬品の販売制度に関する検討会」は、その暗雲が立ち込む前兆を感じるものとなった。(了)