ヘルスケア情報サイト「Hoitto! ヘルスケアビジネス」(ヘルスケアワークスデザイン株式会社)

注目度が高まる「J-TRC研究」
アルツハイマー病“超早期”の研究・治療を目指す

超高齢社会に突入し、一般生活者からの注目度を高めているのがアルツハイマー病だ。アルツハイマー病は、症状が出てしまってからでは治療が難しいとされている。

最新の企業治験では、「アルツハイマー病の初期の患者などを対象にした国際的な治験では認知機能の低下が22%抑えられた」と発表され、研究は前進しているものの、それが十分な結果だったとは言い切れない。アルツハイマー病は、予防が非常に重要であり、疾患を“超早期”に発見し、可能な限り、効率的に進行のスピードを遅らせることが不可欠となっている。

こうした背景から、今回、皆さんに「J-TRC研究」を紹介したい。「J-TRC研究」は、アルツハイマー病・認知症研究の第一人者である岩坪威教授(東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻 教授、東京大学医学部附属病院早期・探索開発推進室長)を中心に進められている研究であり、アルツハイマー病の“超早期”発見を研究し、予防と治験を連携させることで治療を目指す研究だ。超高齢社会における社会的メリットが非常に大きいため、「J-TRC研究」普及の窓口として地域のヘルスケアを担うドラッグストアや薬局の役割だと言えるだろう。

50~85歳の健康な人をターゲットにした「J-TRCウェブスタディ」

ここで「J-TRC研究」は何かについて説明したい。「TRC」は、「Trial(トライアル=治験)」「Ready(レディ=準備ができた)」「Cohort(コホート=観察対象の集団)」の略語であり、新たな医薬品の効能効果・安全性を確認するために、臨床試験に参加できる条件が整った人たちからの協力体制を整備し、医薬品創出に向けて効率化を図っていくこと。つまり、「研究しながら治験を進めていく」というスタイルであり、世界各国で取り入れられている研究の形態だ。これをアルツハイマー病の領域に導入しているのが「J-TRC研究」である。

岩坪教授は、「アルツハイマー病は非常に長い経過の疾患とされています。少しでも症状が出てきてしまったころには、脳の病変が進行しているという懸念もあり、その時点でアルツハイマー病の原因とされるアミロイドβを除去し始めたとしても、最大の効果が得られないという可能性もあります。それゆえにアルツハイマー病の治療・予防には、早期発見よりもより早期である“超早期発見”が重要なのです。ですが、超早期では自覚症状を持つことは難しく、周囲から見ても健康な高齢者と区別がつきにくいという問題がつきまとってきます」と話す。

こうした問題の解決に向けて「J-TRC研究」では、インターネット上で「J-TRCウェブスタディ」を展開している。「J-TRCウェブスタディ」は、一般生活者が広く研究に協力できるようにしたプラットフォームであり、50〜85歳の認知症ではない健康な人から登録してもらった上で、その人の認知症の家族歴など背景情報を聞きながら、認知機能などのテストを受けてもらうものだ。これを3カ月に1度の定期的に行うことで経過をチェックし、登録した本人も結果を確認できる仕組みとなっている。

「この結果、将来的なアルツハイマー病発症のリスク上昇が疑われる人を含めて、一部の参加者を、医療研究機関に来院して行う第2段階の『J-TRCオンサイト研究』に招待します。この研究は東京大、東北大、都健康長寿医療センター、国立精神・神経医療研究センター、国立長寿医療研究センター、大阪大、神戸大の国内7カ所の主要臨床施設で行われ、心理士が対面で行う認知機能検査、アミロイドPETスキャン、血液バイオマーカーなどの精密検査を行うものです」(岩坪教授)

「J-TRCオンサイト研究」の結果、アミロイド上昇が疑われる人は、「J-TRCコホート」に登録して定期的な追跡検査を受け、一部の人は、タウPETスキャンを含む“PAD-TRACK研究”と連携して追跡する。一方、予防・治療薬の治験への参加を希望する人には、対象となるプレクリニカル期やプロドローマル期アルツハイマー病治験に関する情報を提供し、円滑な参加を支援する。この流れが「J-TRC研究」である。

「J-TRC研究」とヘルスケアリテールとの親和性は高い

「J-TRCウェブスタディ」は2019年10月より開始され、2022年1月19日現在7,540名の登録を達成している。「J-TRCオンサイト研究」は20年7月より開始され、333名が登録。アミロイドPET検査で視覚読影又は定量解析にて脳アミロイドの上昇が疑われる人は判定完了例302例中77例(25.5%)にのぼり、血漿Aβ42コンポジットスコア(島津テクノリサーチ社にて測定)は、Area Under the Curve (AUC)値 0.931とアミロイドPETの結果の予測能に優れていることが実証された。

これまでの治験参加の支援例としては、米国ACTC, エーザイ社等による国際官民パートナーシップ(PPP)型治験「AHEAD」があり、本試験に対しても「J-TRCコホート」から希望者の参加が始まっている。今後、PAD-TRACK研究とも連携して本邦プレクリニカル期AD者の特徴や進行過程を解析するとともに、血漿Aβ42に加えて有効性の注目されている血漿リン酸化タウ測定なども併用し、一部コホートでは血漿バイオマーカーによるスクリーニングの先行も試み、PETスキャンによるプレクリニカル期AD診断の効率化を模索する。

ドラッグストアや調剤薬局等のヘルスケアリテールの現場を取材していると、健康測定イベントや軽運動イベントなど各薬局が多くのイベントを開催しているが、その中でも最も注目されているのが認知症関連のイベントである。コグニトラックスなどPCを用いた簡単なイベントではあるが、通常のイベントよりも集客力が強く、一般生活者の関心の高さに驚かされる。認知症は自身だけではなく、家族や友人など社会的つながりを持っている人までに影響が及ぶため、高齢者の予防意識が高い疾患である。
ヘルスケアリテール企業には、「J-TRC研究」の存在を来店する高齢者やその家族に紹介し、超早期段階のアルツハイマー病患者や、その疑いがもたれる人を見つけ出し、アルツハイマー病の治療・予防に寄与したいところだ。

「J-TRC公式サイト」URL: https://www.j-trc.org/ja/welcome